会談 参
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それから誓約書を互いに交わした後、彼は帰って行った。
「……何故、あのような温情を?」
ライルが、不満気にそう呟いた。
ターニャでないのが珍しいと思ったけれども、それは声を出したのが彼が彼女の違いなだけだったというのが彼女の表情を見てよく分かった。
「……温情、かしらね」
私は、クスリ笑って呟く。
その反応に、彼は怪訝な表情を浮かべた。
「至急、ラフシモンズ司祭への連絡の準備を」
「畏まりました」
私の指示に、ターニャが反応する。
「……さっきヴァンにも言った通り、今、ダリル教は改革を進めている最中。けれども、全ての人がその改革に賛成している訳ではないのよ。貴方達も、想像がつくでしょう?」
甘い汁を吸っていたのは、ダリル教の上層部のみならず、ダリル教と繋がっていた貴族の面々もだ。
そんな彼ら……または彼らと繋がりのある面々が、今回の改革案に黙って指を咥えて見ているということはないだろう。
必ず、妨害はあるはずだ。
ヴァンの血筋、彼の危うさを利用してその旗頭にすることは十分あり得る。
だからこそ、彼をこちら側に囲っておきたかった。……その面々に、取り込まれる前に。
「……彼が今の悔しさを糧に成り上がった時に、私のこの援助は活きてくる。ラフシモンズ司祭ならば、予め彼の動向を伝えておけばそれすら上手く利用してくれるでしょう。そもそも、彼に言ったことは、嘘ではないわ。今、領都の教会を取り仕切る彼は医学を収め領民への奉仕を推奨する方。その考え方はラフシモンズ司祭のそれと重なるし、そこで力をつければ本部への道が開ける可能性とてある。彼に恩を売ることもできるわ」
これは、ラフシモンズ司祭の力量を信じているからこそ採れるそれだけれども。
「逆に彼が今の悔しさを忘れたとしても、それで良いの。私は彼の動向を把握し、彼と接触しようとするあちら側を事前に排除することができるのだから。それを成すことで、ラフシモンズ司祭にも恩を売ることもできる」
「なるほど。それならば、私は彼に私の手の内の者をつけて監視致します」
「私も、それはお願いしようと思っていたのよ。……どちらに転んでも、私にメリットはある。ね?果たしてこれは、彼への温情かしら?」
彼が『お願い』をしに来た時点で、どう転ぼうとも私には利点しか転ばない。
笑いが止まらないとは、このことだわ。
まあ、良いわよね? ……何せ、私は悪役令嬢なのだとヴァン自ら私に引導を渡そうとしたのだし。
公爵令嬢短編集も始めました。
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今後とも、宜しくお願い致します。




