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ドルッセンの懇願

3/4

「ほらほら、どうした?打ち込みが足りない」


カンカン、と歯を潰した剣の打ち合う音が響く。


お優しいライルは、騎士団を相手に試合というより指導をしていた。


その横で、俺も軍部の相手をしていた。


……何で、こうなったんだか。


昨日は確か、師匠と模擬戦……もとい、師匠の鬱憤晴らしに付き合っただけだった。


軍の奴らと騎士団の奴らは、それを遠目で見てただけだ。


前に王都で模擬戦の相手をやった時の挑んでくるような視線とは違い、どこか畏れられているようなそれ。


別にどう見られていようが関係ないかと放っておいたら、今日になって模擬戦をやって欲しいとの申し入れが。


師匠は楽しそうに受けろと言うし、自分たちにとっても良い暇つぶしになるかと受け入れた。


……とはいえ、模擬戦というよりかは、どちらかと言うと稽古をつけているような感じになってしまった。


ライルも熱くなっているが、対等な相手に対するというよりも、アルメニア領で部下に対して教えている時と同じ様子だ。


折角だから、もう少し対等な相手……久々にライルと師匠以外の誰かと仕合(しあい)たい。


ふと、視線を感じた。


丁度、相手の剣を弾いたタイミングで、そちらを確認する。


あれは、確か……騎士団団長の息子にしてドルッセンとか言ったか。名前はしっかりと覚えてないが、別にどうでも良い。重要なのは、姫様に対して、無礼を働いた男の内の一人だということだ。


何故、俺やライルのことを食い入るように見る?何故、そんな……何かを言いたそうな表情を浮かべている?


そんな疑問が浮かんだが、あいつの存在自体が不愉快なので、気づかなかったことにして試合に集中した。


「……一戦、教授いただきたい」


試合が終わって、ドルッセンがそう宣言する。


騎士団の連中は、面白いぐらいに慌てているようだった。……俺らがドルッセンにどう対応するのか、心配しているようだな。


「ああ、良いよ」


「……もし、俺が勝ったら」


彼らの心配は、杞憂で終わるだろう……そう、思っていたのに。


「アルメニア公爵令嬢と、会わせてくれ」


その一言に、その考えは消えた。


「……何を、言っているんだ……?」


「言葉の通りだ。……彼女に会えるよう、貴殿らに取り計らっていただきたい」


「俺らは、一介の護衛だ。姫様にそんなこと言えるわけねえだろ」


「既に公爵家には伺いをたてた。だが、返答は否だった。……貴殿らは彼女の信用も篤いと伝え聞く。とり持つことは可能であろう」


「……信用してもらっているかはさて置き、姫様に仕える俺らが、わざわざおまえのよう奴の手伝いをするとでも?」


「……だから、勝利をした時には……だ」


「……面白い」


ふつふつと、怒りが湧いてくる。


会って、どうすると?


再び、姫様を煩わせる気か。取り入る気か。……それとも、今更謝罪をする気か。


そのどれも、許せる訳がなかろうに。


「……ライルと違い、俺になら勝てるとでも?さっさと、来い。その代わり、俺が勝ったらお前は今後一切姫様に近づこうとするな」


審判は困惑しつつも、試合開始の声を挙げる。


さて、どう調理してやろうか。


暴力的なまでの怒りが、俺の中を渦巻く。


ああ、熱い。こんなに怒ったのは、いつぶりか。


唇を舐めながら、相手をどういたぶろうかとばかり考えていた。


騎士どころか軍の奴らでもドン引きしそうな考えだろう。


……そんな風に、考えながら動いたのがいけなかった。


一瞬、だった。


一瞬で、相手の剣は吹き飛んじまった。


もっとジワジワと追い詰めてやろうと思ったのに。


……まあ、良いか。


前回、ライルの動きはぬる過ぎたんだ。俺ならば、もっと痛めつけたのに。


そう思いつつ、腰が引けた相手に対して俺が剣を振りかぶった時だった。


「……何のつもりだぁ?ライル」


「落ち着け、ディダ」


俺の剣を止めたのは、ライルだった。


「……落ち着いているさ、これ以上なくな。分かったら、さっさとどけ」


「分からないな」


気に食わなかった。いつも姫様一番なこいつが、彼女を害した男を庇うのが。

俺の背を任せられると思っていたコイツの考えが、全く分からなかったことが。


「これ以上、コイツを庇うならお前でも容赦しねえぞ」


「……上等」


そうして、俺とライルは剣をぶつけ合う。


それでも、ライルは引かない。つうか……やっぱり、ライルの剣は重いな。


「……よく見ろ、ディダ」


ライルは俺の剣を受け止めながら、叫んだ。


「……ああ?見ろって何を…….」


そう言うが早いか否か、ライルの後ろに座り込んでいたドルッセンが目に入る。


その瞬間、俺は動きを止めた。


「……何で、止めたんだ……?」


そんな俺に問いかけたのは他でもない、ドルッセンだった。


「逆に聞くけど。何でお前の希望を俺が叶えてやらなきゃならないんだよ?」


「……何で、それを……」


ドルッセンは驚いたように目を見開く。


「てめえの顔を、てめえで見てみろ。……ったく、興醒めだ」


「……ま、待ってくれ……!」


闘技場から出ようとした俺を呼び止めようと、ドルッセンが叫んだ。


聞く気はないので、足を止めることはしないが。


「お前がしてくれないのならば、誰が俺を罰するんだ……!」


その言葉に、気が変わって俺は向きを変えてドルッセンのところへむかう。


そして、思いっきり剣を振りかぶった。


切っ先を潰した剣は、けれども綺麗に地面に突き刺さる。


「あんまり舐めたことを言うなよ?」


ドルッセンの目線に合わせるべく、しゃがんだ。


「誰に罰してもらうか。んなもん、知るわけねえだろう。……簡単に清算できるほど、俺らの因縁は浅くないんだからな」


謝って、はい終わり……なんてこと、許せる筈がない。


悔いて悔いて、苦しめば良い。


苛み、そして心に刻み付けろ。


俺らの怒りを。


そして、姫様の悲しみを。


俺は奴をそのまま放置して、今度こそ闘技場から出た。

ライルも俺が出たことで満足したのか、同じようにその場を離れる。


そっから先、俺らは再び訓練を再開させた。




人物紹介

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― 新着の感想 ―
う~ん、闘技場を出て訓練を続けた??
[気になる点] ドルッセルがホントに罪を認める気あるならアイリスの前で自分で腹切り切腹一択だな。
[気になる点] 妄信しすぎてキモイ。
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