剣と魔法とスマホ
俺の名は岩田遼太郎。高校2年生だ。今日は同じクラスの永山 純とのデートの日。以前から遊園地に行こうと約束していた。すがすがしい空気の日曜日。遊園地は混雑している。
「やあ、お待たせ」
「ううん、遅刻していないから大丈夫」
遼太郎が腕時計を見ると、約束の10時の5分前であった。
「さーて、何から乗ろうかな」
「まずはジェットコースターでしょ」
遼太郎は怖いものは苦手であった。しかし、ここで「ジェットコースターは怖い」と言ったら、恰好がつかない。
「よ、よし、行こう」と切符売場へ向かう。
列に並んで、ジェットコースターに乗り込む。ゆっくりと頂上に近づいていく。そして落ち始める瞬間、遼太郎と純は「キャー」と叫んだ。目をつぶる。
次に目を開けた瞬間、あたりは真っ暗だった。
木々に囲まれた場所だった。「遼太郎、大丈夫?」
「ああ、純もいたのか。いったいここはどこなんだ。俺たちジェットコースターに乗っていたんだよな」
あたりは静まりかえっている。
「真っ暗ね。夜みたい」
すると、音がして、人が近づいてくる気配がする。
「もし、そこのお方」闇の中からランタンを持った女性が近づいてくる。
「見慣れぬ服を着ていらっしゃいますが、旅のお方ですか」
「あのう、ここはどこなんでしょう」遼太郎が女性に訊いた。
「ここはプトネ村の近く。私は魔法使いです」
ちょっと待て、なにかおかしいぞ。遼太郎と純は顔を見合わせる。
「実は私も道に迷ってしまったのです」と自分を魔法使いと名乗る女性が言う。グレーのローブを着ている。
純はスマホを取り出し、「プトネ村の宿」と声をかける。
「おいおい、ここは日本じゃないみたいだぞ、それに魔法使いって……」
「2キロ圏内の『プトネ村の宿』を検索しました」とスマホが応える。
「ってなんで検索できるんだ。第一、ここにグーグルなんてあるのか」
純は気にせずに、「道がわかったから3人で行きましょう」と前に立ってずんずん歩いていく。いつもながら度胸がある。
歩きながら自己紹介する。「俺は岩田遼太郎。こいつは永山 純」
「私はアデラと申します」
「ここはどこの国ですか」
「この国はクリフォード王の治める国です」
「あなた方はどちらからいらしたのですか」
「俺たちは、西暦2014年の日本から……」
「西暦? 日本?」
「ちょっと待ってください」と言ってアデラは『魔力感知』の魔法を使う。
2人には全然反応がない。
「あなた方には、『魔力感知』の呪文が効きません。どうもあなた方は異世界から迷い込んでしまったようですね」
「もう、わけわからん」遼太郎は頭を抱えた。
「先ほどの女性が使った道具は何ですか」とアデラは尋ねる。
「あれはスマホと言って……」
「何のことやら、ちっともわかりません」
30分ほど歩いた後、純が「着いたよー」と言う。
「ありがとうございます。ぜひ、村長に会っていってください」
「はあ」
「旅のお方、実はこの近隣の村が盗賊団に襲われています。この村も襲われるかもしれません。なんとか助けていただけないでしょうか」と村長が言う。
「まあまあ、今日はもう遅いですし、そのことは明日話しましょう」とアデラがさえぎる。
「では宿屋があるのでご案内します」2人はアデラの跡についていく。
「すみません、今晩2部屋空いていますか」
「おや、旅のお方、もちろん空いてますとも」
「あっ、でも俺たちお金をもっていないな」
「それでしたら私に払わせてください。道案内していただいたお礼です」とアデラが申し出る。
遼太郎は「ありがとうございます。では遠慮なくお世話になります」と応える。
そしてその夜。「襲撃だー」と叫ぶ声に遼太郎は目を覚ます。宿をはじめ、村の家々に火がつけられている。
「純、大丈夫か」遼太郎は隣の部屋で寝ている純の様子を見に行く。
火の回りが早く、梁が落ちてきて純の足元におおいかぶさる。
「熱いよー」純が言う。
「水、水だ」遼太郎が外に出ると村の自衛消防団が一所懸命に消火活動をしている。
「こっちにも一人、けが人がいるんだ。助けてくれ」
「うわーん」と泣き叫ぶ純のところへ水を持っていき、なんとか火を消す。
純は大やけどを負ってしまったようだ。
魔法使いのアデラがやってきて、「おけがありませんでしたか」と尋ねる。
「純がやけどをしてしまって……あなた、治癒魔法、使えますか」と遼太郎。
「私は僧侶ではないので、治癒魔法は……」
遼太郎はスマホに向かって「治癒魔法」と言う。
すると見たこともない文字が浮かび上がる。
(いつから多言語対応になったんだよ)と心の中でつっこみつつ、遼太郎はアデラに「この呪文を読んでみてください」とスマホを見せる。
アデラが呪文を唱えると、純のやけどがみるみる治っていく。
(これは俺の好きな「剣と魔法」の世界だ)遼太郎は思う。
アデラが「あなた方は不思議な道具をお持ちのようです。ひょっとしたら魔法が使えるかもしれません。私といっしょにもう一度、村長の家に行きましょう」
遼太郎は純をかばいながら、村長の家へ向かう。
村長が話す。「旅のお方、たいへんでしたな。先日、隣の村に盗賊団がやってきてから、用心はしていたのですが、私の家から、伝説の剣が盗まれてしまいました。盗賊団は盗んだ後、火をつけて逃げたのです。どうか盗賊退治にお力を貸してくれませんか」
「俺たちになにができるでしょう」
村長は妻に、「あの指輪をもってきなさい」と言う。妻は、飾り箱に入った指輪を持ってくる。
「幸いこれらの指輪は盗まれませんでした。ニセモノの指輪を作っておいて、目につくところに置いておいたのです」
「さあ、この指輪をはめてください」遼太郎と純の指にぴったりだった。
純は、「私のスマホも盗まれちゃった。スマホ返せー」と言う。
「この指輪をはめて呪文を唱えれば、あなた方にも呪文が使えるでしょう」
「ホント?」遼太郎は目を丸くする。
「面白くなってきたぞ」と遼太郎は小声でひとりごちた。
「えっ? なんか言った?」と純。
「いや、なんでもない」とあわてて遼太郎は応える。
遼太郎は指輪をはめて自分のスマホに向かって「炎の呪文」と声をかける。
今度は日本語で呪文が表示される。遼太郎はそれを読み上げる。すると、皆の前で、小さな炎がゆらめいた。「うーん、これはすごい」遼太郎は感心しきりだ。
焼け残った家で一晩過ごした後、盗賊退治に出かけることにした。
「こちらも夜に行ったほうが、気づかれにくくていいだろう。でもさすがに『盗賊団のアジト』は登録されていないよな」と思いつつ、遼太郎はスマホに「盗賊団のアジト」と言う。
「半径3キロ以内の『盗賊団のアジト』を検索しました」と答えが返ってくる。
「登録されているのかい!!」
遼太郎、純、アデラの3人が、盗賊団のアジトを目指す。
あたりは暗かったが、月のあかりでぼんやりと周りが見渡せる。
盗賊団のアジトでは、見張りが2人、家の外にいる。
遼太郎は「眠りの雲」とスマホに呼びかけ、呪文を唱える。見張りたちは眠ってしまう。
アデラが「魔力感知」の呪文を唱えると、扉に「ロック」の呪文がかかっていることがわかる。どうやら盗賊団のメンバーに魔法使いがいるらしい。
「ここは私が『鍵解除』の魔法で扉を開けます」とアデラが言う。
そしてアデラが「3人に『隠れ蓑』の呪文をかけておきましょう」と言い、呪文を唱える。3人の姿が、まわりに溶け込んで見えなくなる。
3人はアジトに突入する。まず遼太郎が盗まれた純のスマホに電話をかける。着信音が鳴る。
「あそこだ」遼太郎がスマホを取り返し、純に放り投げる。それを純がキャッチする。
純がスマホの画面を見ながら「魔法防御」の呪文を唱える。
アジトの一団も異変に気づく。3人の「隠れ蓑」の呪文の効果が切れて、3人の姿が
見えるようになる。
盗賊の団長が「おい、あの3人に魔法で攻撃してくれ」と魔法使いに命じる。
「はっ」手下の魔法使いが「炎の矢」の呪文を唱え、3人を攻撃してくる。
しかし純がかけた「魔法防御」の効果で、矢は3人に当たっても跳ね返される。
「いったいどうしたんだ」団長が言う。
遼太郎とアデラは計画どおり、まず遼太郎が「魔力増強」の魔法をアデラにかけ、アデラは「風の刃」の呪文を唱える。
旋風が巻き起こり、敵を次々に倒していく。「ぐわあ」あちこちで悲鳴があがる。
「風の刃」は容赦なく襲いかかる。
なんとか生き延びた盗賊団の団長は「命だけは助けてくれ」と懇願してくる。
「では盗んだ剣を返してもらおうか」と遼太郎。
「わ、わかった」と団長は剣を返す。
「これにこりて、二度と盗賊なんか働くなよ」と遼太郎が釘を刺す。
3人は剣を取り返し、寝ずに待っていた村長のところへ向かう。
「ありがとうございます」と村長は感激して遼太郎と純の手を握る。
「さて、これからどうするか」と遼太郎は考える。
純は「私は遼太郎といられるのならそれで十分」と言う。
「そうは言ってもなあ……」と遼太郎。
このまま「剣と魔法」の世界にいるのも悪くないかな、とちょっぴり思う。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はコメディタッチのファンタジーにしてみました。
感想、ぜひお待ちしております。