049 会議
「よーし、じゃぁ説明すっぞ」
ギルドホールに集まった十一人に向かって、キュラソが司会役をする。
棘のついた鎧が普段からうざく思えるが、今回もうざく感じられる。
照と零亜はギルドのメンバーではないが、アキラについてくる形で参加しているので、ここにいるギルドの正規メンバーは九人だ。
「最初に言っとくけど、全部まとめきれているわけじゃないからな。 いまんところ解っている事だけだからな」
頭を掻きながらキュラソが言う。
「まず向こうであったことをざっと言うとだ、夜の世界側で探索を始めたが、最初のフィールド、こっちで言うところの草原エリアで敵と遭遇。 何組ものパーティが戦闘を行っていたが、最前線にいた幾つかのパーティが出てきたモンスターにやられた。 それだけなら今までのフィールドでもあったことだけど今回はやられた数が多すぎるのと、プレイヤーサイドで連絡の取れない奴が、多数出ているらしい」
いったん発言を区切る。
「プレイヤーサイドで連絡が取れないって言うのは?」
「倒れたプレイヤーに声をかけても、普通なら死んだ状態でもチャットだけならできるのに、こっちから呼びかけても全然反応がない」
大きな剣を背負ったゆっきーの質問にはそう返す。
他にも質問が飛び交うが、おおよその状況はこうだった。
雪原フィールドから夜のエリアに入ったギルドメンバーは、人の波にもまれながらも荒野エリアを少しづつ奥へ行った。
最初の拠点となるような街を目指して進んでいたが、一向に街などが見つからないまま焦りが出始めたころに、ようやく明かりのようなものを遠くに見つけたと誰かが言い出した。
その言葉で堰を切ったように、周辺にいたプレイヤーが一方向に駆けていく。
が、その集団の足が鈍る。
どこに隠れていたのか、バレーボールくらいのモンスターが襲ってきたのだ。
一匹二匹ならどうということは無かったが、数えきれないほどの大群が足元や空中に浮かんでいたのだという。
マインバグというモンスターだったらしいのだが、どれほどの大群がいたのかは不明。
だがとにかく、敵性モンスターとしてあちこちから出現している以上は倒さなくてはならない。
そこかしこで魔法が放たれ、怒号が行き交い剣が振るわれる。
それでもマインバグは次から次へと湧いて出てくるようで、いくら倒してもその数が減らない。
やがてHPの尽きたプレイヤーが出始めた。
虫にたかられたというだけでも気分の悪いものだが、スクリーン越しなだけまだましだっただろうと考えていたが、幾人かのプレイヤーと連絡が取れなくなったのはこのあたりからだった。
キュラソたちのパーティでは被害がなかったのだが、BBの知り合いのプレイヤーに連絡が取れなくなっている人物が数人出ている。
フィールド内にも多くのプレイヤーが倒れたままになり、先に進むことが難しくなってきたため、全員で一時撤退してきたということだった。
「と、ここまでが今のところ解っている流れだ。 奥まで行って村か街にたどり着いたパーティもいるかわからないけれど、掲示板にもそれらしい情報はまだない」
夜の十時を回った今でも、マインバグの特性についての情報はいくつか見られる。
そんな中に連絡が取れないプレイヤーがいるという書き込みはあるが、安否情報は確認できていない。
「BBの連絡が取れなかった人って、いまも連絡が取れない?」
「ぜんぜんだ。 キャラ死してログアウトしてるんであっても、チャットなりで連絡くらいはできると思うのだが、ぜんぜん繋がらない。 メールも電話もだ」 別ウインドウを使って確認をしていたBBが答えた。
ゆっきーやゴノーも別ウインドウでチェックを続けている。
「おうてるか解らんけど、それっぽいのが何かあったで」
皆がいろいろな検索をかけている中で、照が一声あげる。
「ここのサイト見てみ。 スペイン語やけど翻訳かけたら読めるやろし」
そこで提示されたサイトに、全員が目を向ける。
201:aas 2183/01/03 12:18:06
>死んだここで、戻らない連絡
202:fal 2183/01/03 12:19:16
>地雷虫当たるの、友達戻らない
203:deu 2183/01/03 12:20:08
>202友達の知りたいです、疑問身体
204:coa 2183/01/03 12:20:22
>202同様兄、地雷虫攻撃戻らない健康
205:fal 2183/01/03 12:22:39
>204情報求める同様、友達できない重大健康問題
206:pwq 2183/01/03 12:28:00
>病院行った気絶
207:sek 2183/01/03 12:28:35
>206安全健康お願い
208:jui 2183/01/03 12:29:01
>206あなた、他人、お互い様?
209:stu 2183/01/03 12:29:33
>206連絡、連絡
210:lif 2183/01/03 12:29:35
>お願いします、あなた求める事実
211:lif 2183/01/03 12:29:35
>お願いします、あなた求める事実
212:pwq 2183/01/03 12:31:27
>友達隣の行動、地雷虫被害は静か続く
>扉開けた確認、友達動く無い。
>遊戯動く続いて、友達倒れた意識来ないx(
213:fal 2183/01/03 12:32:02
>同様の友人わたし。 意識来ない
214:sek 2183/01/03 12:32:58
>問題同じ 同様性格あるここ人?
215:byu 2183/01/03 12:34:09
>友人同じ
216:rae 2183/01/03 12:36:24
>友人同じ
217:rae 2183/01/03 12:36:24
>兄同じ
218:qaz 2183/01/03 12:38:17
>他の人連絡
219:rel 2183/01/03 12:36:24
>友人同じ
220:uyt 2183/01/03 12:36:24
>公開あると連絡板、建設を通過
「これってゲームで死亡判定食らった人が、倒れたまま意識が戻ってないってことだよね?」
「翻訳のせいで読みづらいけど、たぶんそういう事だろ」
「ゲーム中に食らったダメージで、本人も倒れた?」
「いやそんなこと無理っしょ?」
「流れを見てると、割と早い時間から被害が出てるのかな?」
「にしては情報が出てなくない?」
「マインバグのせいってことは間違いなさそう」
「そうすると、マインバグにやられるとプレイヤーもやられるってなるよね」
掲示板の情報からの情報を基にして、ギルド内で意見が交わされる。
アキラ自身もどうしてこのようになっているのか考えてみるが、周りで出ている以上の意見は浮かばない。
マインバグというモンスターのせいだということは間違いなさそうだけれども、だとしたらどんな風にしてプレイヤーにまで被害が出るのか?
漫画や古典にある直接ダイブするようなVRMMОなら、そんなこともあり得るかもしれないけれども、今普及しているのはスクリーンにゲーム画面を投影して、コントローラーとベアリングボードで肉体を動かしてプレイするゲームだ。
通常こんなことで意識が無くなるなんてことは、絶対に無いはずだ。
それでもプレイヤーが倒れてしまうなら、どんな原因があるのだろうか?
たくさんのマインバグ。
ここにヒントがあるような気もするけれども、今のままでは確証がない。
そもそもゲームをしていて倒れるようなことって、今までは無かったはず。
「これってあれかにゃー。 地雷って出てるから、虫が爆発したりしてんのかなー?」
「確かに爆発はしてたけど、それのせいなのか?」
何か関わっているような気がする。
アキラなりに考えてみたものの、そのことをどう説明したらいいのか、うまく言葉をまとめることはできなかった。