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047 雑談

「なぁんでこの時期にぃぃぃ!」

 珍しくアキラが大声を上げる。

 ハンターズのアップデートで渓谷エリアが追加されておよそ二ヶ月。

 地形や薬草の分布とリポップのサイクルの確認が終了し、さぁ細部を攻略していこうというときに、更なる追加アップデートのお知らせが告知された。

 しかも単なるアップデータではなく、超大型アップデート。

 この告知には、多くのプレイヤーがその内容に翻弄されている。

 単純な通知なのだが、マップが二倍に拡張されると書かれていた。

 現在ある草原、森林、雪原、山岳、砂漠、渓谷の各エリアが拡大するのではなく、全く新しいフィールドが展開されるという告知。

 今までのフィールドが昼間をメインにしたものなら、今度新しく発表されるフィールドは、夜をテーマにしたマップなのだという。

 そのうえでさらに、今まで以上に広くなったフィールドを楽しんでくださいと、わざわざ注釈がつけられていた。

 通常MMORPGの流行と寿命は三年前後と言われている。

 そう考えるなら、三年目を迎えたハンターズの世界は、終わりに近づいていたのかもしれない。

 テコ入れと言うならその通りなのだろう。

 だがテコ入れにしては大がかり過ぎるのではと、ネットの中では議論を呼んでいる。

 アキラもまた、そんな議論に興じたい一人ではあったが、時期が悪く参加がしにくい状況になっていた。


 期末テストが一週間後に、迫っているから。


 期末テストがなければ、一晩中だってでもギルドの仲間やネットの中で今後の攻略や、増加するマップについて、一晩中ででも語り合っていただろう。

 国防軍にかくまわれた準ニートな生活をしているとはいえ、実年齢は15歳。 学校には行っているわけではないが、通信制のカリキュラムは家にいた時と同じように、国防軍の敷地宛に届けられる。

 加えて現在の身元保証人が両親ではなく、国防軍および新貴族の上ノ宮玲奈である以上、無様な成績を取ればどのような目に合うかは、部屋の中に入り浸っている北原の様子を見れば想像に難くない。

「なんでこんなとこまできて勉強せなあかんねやー。 いけずな教師がおらんねやから、のんびり覚えたってもええやんかー」

 ゴロゴロとだらけながらもグチグチ言い続けるのは、すでに毎日の日課のようになっている。

 この分では、期末テストが終わったあとも、アップデート後のハンターズにログインすることなく追試に追われるんじゃあないだろうかとアキラは思う。

 とは思いつつ、アキラ自身は平均点より少し下のランクながらも、赤点は取らない点数を毎回獲得しているので、今後のログイン自体には問題はないだろう。

 問題があるとすれば、サルバトーレとの会合についてだ。

 国防軍の施設内で、回線を見張られながらではあるものの、今まで通りにゲームや通信が行えていることは最初から知らされていた。

 そのうえでセキュリティ網の監視も行われていたため、外部からの接触はまずないはずであった。

 が、そんなセキュリティをものともせず、サルバトーレは堂々とネット回線から接触してきた。

 セキュリティは機能している。

 回線が乗っ取られているわけでもない。

 アキラ自身が手引きをして自分からネットアカウントに招待したわけでもないのに、サルバトーレがあっさりと接触してきたことに、国防軍はメンツをつぶされたが、そんなメンツやプライドはなげうって、国防軍で匿っているエンジェルの世話と回線監視を担当していた知里川は、どのようなルートで接触してきたかを逆にたどった。

 彼らは全くその痕跡を隠すことなく、ババルスタンから河南共和国を経由して、日本国内へとアクセスしている。

 あまりにも大胆な、無防備ともいえる行いに本当かどうか目を疑ったが、何度記録を精査してもそのアクセス記録は変化がなかった。

 情報はすぐに国防軍内にあげられ、セキュリティーレベルの確認が何度も行われたが、結果は同じである。

 ルシフェルは、セキュリティに関係なく、国防軍の関連施設にもアクセスができる手段を持っていると。

 これまでも秘密情報の取り扱いについては、ずっと以前より物理的に隔離を行ったり、情報を細かく分散することでまとめて奪われることを避けるよう対策されてきていた。

 だが、どれだけ対策を施しても奪われる情報、盗まれる情報は存在するため、現在ではいかに虚構を混ぜつつ、相手に肝心の情報を奪わせないかが重視されるようになっている。

 それもこれも、情報に対する専門部署の設置と、重要情報にかけられたプロテクトによって、しっかりとした対策が講じられているからこそなのだが、ルシフェルの所作は、それらの関係者すら震えさせた。

 セキュリティも何もかも無視して相手に接続できる技術があるのなら、遠からず国防軍の情報のすべてをさらわれてしまうのではないかと。

 幸いにして、ルシフェルが国防軍内の情報で、アクセスしたと思われる部署は上ノ宮玲奈の関係する、エンジェルを隔離している施設のみに集中していることが解っている。

 ならば今だけに限っては無理に相手を刺激せず、エンジェル関係の部署へアクセスを行っている間に、他の情報の移動と保管保存方法を変更する事と相成った。

 そうした国防軍での経緯はいざ知らずと、サルバトーレはハンターズを通してアキラと他のエンジェルに接触してきている。

 通信ログを見ることもできるが、ネットワーク上で国防軍側が監視してきていることを悟られているにしても、ルシフェルとのやり取りを向こうの都合でデータの削除されないようにするため、有線のビデオカメラを別室から用意し、ハンターズのプレイ中の画面を中継しながら要点をメモに書き起こす、旧世代さながらのアナログ方式で記録するようになっている。

 膨大な手間暇がかかることになっているが、一応はアキラがハンターズをプレイする最中のみの監視体制だ。

 監視の目を気にしながらハンターズのプレイをするのは、精神的な重しを課せられたような気にさせられたが、それでも人の金で養ってもらっていることを自覚しているアキラは、別段文句を言ったりはしなかった。

 アキラの代わりに照が抗議はしたものの、「あなたの部屋はここではない」と一蹴され、期末試験のことも持ち出されたために今もまだふてくされている。

「あー、もう別にええわぁ。 どーせどないしよってもええようにはならんみたいやし、せいぜいぶちぶち言うとくしぃー」

「でもまぁ、試験の結果が悪かったら中間テストの時のように、また集中講座のような強制勉強会に連れていかれるんだから、少しでも予習しておこうよ。 でないとハンターズのアクセスも制限されるかもしれないし」

「せやったらアキラが替え玉とかしといてくれへん~?」

「だめ。 それをやったらもっと厳しいペナルティ食らうよ。 菊池くんみたいに」

「きくちんはなー。 あれはもう性格からしてあかんやろ」

「おかげというか、そのせいで川畑さんはここから出て行ったけどね」

「演習のストレスもあったんやろうけどなぁ。 あんな風に性別固定なるっちゅうのは、話には聞いとっても見るまでは実感なかったわなー」

 少し前のことになるが、エンジェルと国防軍の間で演習があった。

 演習とは言ってもサバイバルゲームに毛が生えたようなものだが、競技戦争のルールに従ったれっきとしたものである。

 その演習の過程で菊池、宮沢、川畑の三人のチームの中で、川畑が演習直後に倒れた。

 最初はストレスによる過労ではないかと言われたが、軍医からは性別固定化過程における発熱と肉体変化であるとされて直ちに隔離処置され、一週間にわたって面会謝絶状態が続いた。

 ただその経過観察と健康診断等が行われる中で、背中や太ももなどに不自然な打撲痕があるのを不審に思った軍医の調べによって、菊池、宮沢による暴行があったことが判明。

 主犯が菊池で、宮沢が従犯であることが明らかになったが、自身の非を認めた宮沢と違い、菊池は一貫して自身の行為が川畑への教育と、自身の行為に賛同しなかった結果でありなんら悪いことをしていないと、行為の悪辣さを顧みることがなかったため、現在はさらに監視の強い場所で、隔離に近い状態に置かれている。

 実質的な監禁に近い対処だが、全体に与える影響を考えると、何もしないままチームを組ませておく方がよっぽど危険である。

 菊池が実質隔離状態になったため、川畑の性固定化を受けて一人あぶれる形になった宮沢は、福沢達双子とチームを組むことになったが、体育会系と美術系とそれぞれ分野が違うことから、連携に苦労していると国防軍の森さんに聞かされた。

 そして先月、川畑は性固定化が終わり、能力の確認が行われた後で、現在いる御殿場からほど近い学校へと、編入へという形で出て行った。

 地元へ帰らなかったのは、ほとんどのエンジェルがそうなのだが好奇心や特殊な才能への妬みや僻みからくるイジメが原因で、それまでいた環境からは離れたがるからでもある。

 編入した先での授業についていけるのだろうかとの心配はあったが、その点は上ノ宮家の関係者などがフォローに回っているらしい。

 加えて言うなら、性別固定化後のエンジェルの社会復帰と、他国勢力などからの誘拐や勧誘の排除も行われている。

 国防軍敷地内に匿われているのは主にエンジェルのみとし、それ以外は一般生活になじめるように、監視を行いつつ普通の生活を送ってもらうことと線引きがなされているからだ。

 ハンターズの最中にサルバトーレとその話になった時に、ババルスタンも似たような状況であるよと知らされた。


「エンジェルの才能は、性別が固定化される前のほうが、特に秀でたものがありますからね。 ところが性別が固定化された後になりますと、この能力が極端に落ちてしまうのは有名です。 なので、性別固定化後はそれまでの仕事からは離れていただいて、別にいる同じような能力を持ったエンジェルの補佐に回ったり、別の部署で新たに作業をしてもらっていたりもします。 一般の仕事についている子もいますよ」

 とは先日の接触の際に、サルバトーレが言ってきた言葉だ。

「だからまあ、ぶっちゃけて言いますと性別固定が終わった方々については、人的資源の面からみてその重要性がランクダウンしていると見られてしまうんですよね。 だからこそ、アキラ君には性別固定が終わる前に、ババルスタンに来てほしいんですよ」

「なあなあ、したらうちなんかはどないよ? まだあと一、二年はエンジェルのままやろうから、それなりに価値はあるんとちゃう?」

「エンジェルという点においてはそうですが、持っている才能という点では躊躇してしまう人もいるんですがねぇ」

「えー? したらうちはいらんのかい」

「貴方の場合は性別固定化後のほうが役に立つ仕事の方が多いでしょう。 プロファイリングならば、このまま国防軍内で情報部に勤務するなどして、将来の出世につなげるという手段もありですよ。 そういう方面ででもいいのなら、アキラ君と一緒にババルスタンに来られては?」

「いや、そう一方的に決められても。 だいいちババルスタンて何語なの? それにイスラム圏なら習慣とかも違うだろうし」

「は? せやったん? したらクリスマスでけへんやん! プレゼントもらわれへんし!」

「あー、クリスマスはババルスタンでもやりますよ」

「「へ?」」

「とは言っても聖人を称えるお祭りではなく、日本のような便乗祭りのような感じですかね。 他国から移ってきた人もいますし、一月一日までかけての新年際の一日目という感じになってますね。 もしも、言語や風習に不安を覚えておられるなら、かなりの部分でその心配は払拭できると思いますよ。 なんなら国防軍の皆様も一度来ていただいたらと思いますよ。 監視ばかりしていないでね」

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