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043 装備

 近づいてくるストームワイバーンに向けて、心の中でカウントダウンを行い、先ほどと同じようにコントローラーを構える。

 やり方は同じで、もう一度トリガーボタンに手をかけながら、大きく腕を振るうだけ。

 何かに似ている。

 演習で頭上を戦闘ヘリが通過していく時を、おもむろに思い出した。

 サイズも形も、今の自分の装備も違うのに、どうしてかそう思った。

 カウントダウンがゼロになったのに合わせて、強ニトロ爆弾を投げる。

 現実なら榴弾やガイドスロワーを使って、威力と命中率をあげられるのにと思いつつ、ヒョードルは爆弾が命中したかどうかも確かめずにその場を離れる。

 幸いにして先ほどと同じように、ストームワイバーンの鼻先から体当たりされるような事にはならなかったが、すぐ近くを尻尾がかすめたようで、画面の端に茶色い鱗が高速で通り過ぎて行った。

 コントローラーを構えなおして、剣の持ち位置を整える。

 視界を合わせて、ストームワイバーンが落ちたであろう地点に視界を合わせると、ちょうど体をのけぞらせ、二本の後ろ足と尻尾で体を支えながら頭をブルブルと振っている姿が見えた。

 ベアリングボードの上を走りながら右の後ろ足に近づいて、剣を振るう。

 右手と左手のコントローラーを縦に重ねるようにして、目標をロックしつつ大きく振りかぶって攻撃する。

「リギャァァァァァァ!!!」

 攻撃を受けたことによるストームワイバーンの悲鳴が、イヤホンの中にうるさくこだまする。

 HPバーが少し減るが、それだけだ。

 切りつけるだけでは、このストームワイバーンは倒せない。

 いや、繰り返し切り付けていけば倒すことはもちろん可能だが、相手も黙って切られてくれるわけではない。

 また画面いっぱいに空が映る。

 体を大きく揺らしたストームワイバーンの尻尾に直撃を食らったらしい。

 自身のHPバー残量が三分の二にまで減る。

 ダメージの硬直時間中にストームワイバーンの位置を確認。

 いい具合に空に戻らず、ビクトリアとルイを相手に威嚇と頭突き攻撃を繰り返しているらしい。

 アイテム欄から、再度強ニトロ爆弾を選択。

 立ち上がりと同時に、投擲。

 爆発。

 続けて同じ強ニトロ爆弾を数回投げつけ、さらに体力を削る。

 ストームワイバーンのHPゲージがようやく半分くらいにまで減ったが、倒しきることはできない。

 次の攻撃をと準備しているうちに、ストームワイバーンが空に飛んでいく。

 逃げ・・・はしない。

 一度距離を取って、再度突進してくるはずだ。

「今のうちに、こちらも距離を取る! そしてそのまま目的地へと走り続ける!」

 二人に声をかけて、走り出す。

 攻略サイトの情報でもあったが、ストームワイバーンはHPが半分近くになると、上空に飛んでなかなか降りてこなくなる。

 この後はじわじわと時間をかけて、一番HPの低いプレイヤーに何度も攻撃を仕掛けてくるようになる。

 ヒットアンドアウェイはもちろんのこと、強ダメージでの硬直時間があれば、その回復したころを狙って再度攻撃を仕掛けてくるといういやらしさまで持ち合わせている。

 今現在、一番HPが低いのはヒョードルだが、総HPが一番低いのはビクトリアだ。

 三人でそろって走りながら、HP錠で回復しつつ、できるだけ全員のHP値が近くなるようにそろえる。

「リギャァァァァァァ」

 後方から嫌な鳴き声が聞こえる。

 振り返らず、できるだけ離れないように走り続ける。

「この後はどうする? 何かいい考えがあるならそれに乗る!」

「爆弾がないとどうにも辛いわよ。 あなたあとどれくらい持っているの?」

「あいにく残りは二つしかなく、決定力にすることは心もとない残数である! そちら側、特にルイ君は幾つ持っている?」

「・・・二つ」

「ギリギリ倒せる。 かは難しいラインである」

 実際のところ、爆弾が当たらないことだってあり得るので、手札が尽きてストームワイバーンにやられてしまう未来も存在する。

 そのため現在取れる選択肢は二つ。

 爆弾も含めて今ある装備でどうにか倒す。

 多少のダメージは覚悟の上で、街までHPを回復させながら走り続ける。

 今取れる手段としたらそれくらいだろうか。

 他にまだできることは無いか考えようとするが、走りながら考え続けるのは並大抵でない難しさだ。

 走りながら考えるなんて、軍の訓練でもやらない。

 ていうか、普通はできない。

 できる人もいるのかもしれないが、今この状況でのヒョードルには、新しいアイデアが出てきそうにない。

 後ろからはストームワイバーン。

 前方にあるはずの街はまだ遠く、その影さえ見えてこない。

 それでもなお走る。

 まだ走る。

 ダメージ。

 後ろからの衝撃で、画面が上下左右に揺れ、砂地と空とが目まぐるしく入れ替わる。

 HPが半分以下になる。

 すかさずHP錠で回復するが、その視界の端にストームワイバーンが大きな口をあけながら、こちらに向かって体を向けなおしている姿が見えてしまった。

 どう逃げる。

 どう避ける。

 どう倒す。

 どう殺す・・・。

 いや殺すのは無理だ。

 HP残量が段違いで、そもそも一撃でどうにかできるわけじゃない。

 てかもう近い。

 歯並びが見える。

 せめて避けないと。

 右?

 左?

 いや、今のタイミングだとどちらもダメ。

 後ろはもってのほか。

 なら前。

 前に向けて走る。

 走る。

 頭上を通り過ぎている。

 今のタイミングで、爆弾を投げればよかった。

 全員の位置確認。

 飛び去っていくストームワイバーン。

 砂に埋もれて動かないルイ。

 その横でアイテムを使っているビクトリア。

 街の方向は、前方にいるストームワイバーンの右斜め前方。

 どのように動いても、一回以上は、ストームワイバーンに攻撃を受ける。

 どうするどう動くどうやって避けるどう攻撃する・・・。

 マップとセンサーを確認する。

 画面上の赤と青の点を確認して再度走る。

 前方にいるストームワイバーンが、こちらへと向かってきている。

 アイテムを選択。

 HP錠を選び、体力が全回復するまで使う。

 強ニトロ爆弾を選択。

 タイミングを合わせて投げられるう準備。

「ビクトリアとルイは動けるようになっているなら、ストームワイバーンから逃げられるよう、体制を整え今すぐ走る! こちらは今から奴に爆弾を投げる!」

 聞こえているかどうかは確認せず、ヒョードルは自身のアクションを実行する。

 爆弾がきちんと命中しているようで、画面が一瞬白く光った。

 そのまま走り続け、ストームワイバーンから距離を取る。

 センサーを再度確認。

 十一時の方向にある、黒い点に向けて走る。

 ビクトリアとルイを示す青い点が、ストームワイバーンを示す赤い点から離れるのを確認しながら、黒い点が十二時の方向に来るように向きを変えつつ走る。

 画面の中央に、砂に埋もれた他のプレイヤーキャラクターが見えた。

 すぐにステータスを確認して、相手の回線がOFFになっているのを知ると、「追いはぎ」コマンドでアイテムを漁る。

 強ニトロ爆弾には劣る火薬瓶を五つ見つけたので拝借。

 そのほかHP錠とMP飴、一つだけあった復活草とその他の使えそうなモノをアイテム欄に収め、ビクトリアとルイの動きを確認すると、ルイの方にストームワイバーンが攻撃を仕掛けているのが見て取れた。

 踵を返して再度走り出し、火薬瓶を用意してストームワイバーンへと攻撃に向かった。

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