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035 通知

「トーレいるー?」

 久しぶりの雨の中、子供たちは水たまりで遊んでいる。

 そんな窓の外からの様々な音をBGMにしつつ、シャーリーはサルバトーレのオフィスの中を歩き回る。

 彼女がいるのは外資の獲得を目的に建てられた複合ビルの一フロアだ。

 そんなビルの少し外を歩けば古くからの干し煉瓦を基にしたイスラム様式の街並みが並んでいるが、近代化と都市計画とで昔と同じ町並みであるとは言い難くなっている。

 そんな街並みが広がる、ババルスタンの首都ヘラート。

 外交と少しの農業と幾らかの軍事協力によって近隣国と渡り合っている中で、首都の穏やかさは観光客が見た場合には不自然ととられるのかふさわしいと取られるのかはわからない。

 詐欺師のシャーリーにはあまり関係ないことだ。

 彼女にとって興味のあるのは金とスリル。

 現在それを提供してくれるボス、サルバトーレを探しているが、メインのオフィスには姿がない。

 三台のパソコンは稼働中で、真ん中のモニターには書きかけの文章か何かが表示されているが、肝心の本人がこの部屋にいない。

 ではどこにいるのか。

 隣の控室をのぞいてみる。

 いた。

 ベアリングボードの上に乗って、ちょこちょこと歩いている。

「ボス」

 からかいついでに声をかける。

 案の定というか、わたわたと両手に持っているコントローラーを取り落しそうになって、ジャグリングじみたことをする。

「あ、やあ。 シャーリー、何か用かい?」

 なぜボスが、ゲームをやっているかはともかく、用事があるときに外出していなかったのは幸いだ。

 雨に濡れなくて済んだ。

「いつもアクセスとっている連中から資料と何かが届いているよ。 こんくらいの封筒に入って」

 ノートブックくらいの大きさの四角を、手で作る。

「ああ、ありがとう。 で、その物は?」

「・・・」

 手の中にはない。

 どこに置いたか?

 ボスのデスクの上・・・だったかな?

「一度そちらの部屋に行きましょう。 アクセス先の人からのいろいろな要件もあるでしょうから」

「はいボス」

 返事だけはちゃんとしておこう。 

 今は彼がサラリーをくれる。

 人から金をとるのはスリルが欲しいときだけだから。

 だから定期収入があるのは、かなりありがたい。

 あ、でもそろそろスリルも欲しいかも。

 前の時にはなんだかんだで騒ぎが大きくなりすぎたから、今度はもう少し穏やかな、でも刺激のあるスリルがいいな。

 ああ、でもボスがらみで動くとまた何か、変な奴らと何かしらしでかさないとも限らないか。

 タイミングよく、何か起こるかなー。

「この封筒ですか?」

 ああ、その封筒だ。

 ボスが連絡を取っている連中。

 ルシフェルって言ってたかな?

 テロリストみたいだけど、テロリストではないようなよくわからない団体。

 でもマフィアとも違うし、どうにも国の要人ともつながりがあるらしい。

 そんな相手に、人材斡旋のいろいろを任されているボス。

 ユーロに華南、アフリカにあと日本とか、とにかく手広く人集めをしている。

 ただ、ヨーク帝国にだけは手を出していない。

 この間にも何かやってたけど、ヨーク関係だけは手を付けていなかったような。

「これはまた、なんともらしくないというか。 いやむしろ特性を考えたらこうなるのか」

 封筒から取り出したデータを見て呟いている。

「何か面白いことでも?」

「ええ、まあ。 ひいきにしているある人物の動向がデータで送られてきたんで再生しているんですが、かなり面白い内容でしてね」

 先ほどまで見ていた動画の画面を、こちらに回す。

「どこかの軍隊で?」

「日本の国防軍です。 映っているのはエンジェルたちの演習、訓練の様子ですね。 その中にひいきにしている人物が映っているんですよ。 ここのところからなんですが、三人組の中心にいるのがアキラという名のエンジェルでしてね」

 動画の再生バーをスライドさせる。

「出来ればこちらに来てほしいんですけどね。 ここのあたりの動きなんか特にいいです。 競技用の銃、よりも劣るんですかねこれは? にもかかわらず、きちんと当てている。 走りながら全弾命中ですよ、他の二人は幾つも外しているのに。 ここまで正確に、かつ収束率をあげられる人を私は知りません」

「それは、一兵士としての才能?」

「兵士としては最良。 ですが、彼の才能と能力はそれ以外のことにも、有用に作用されることでしょう。 特に天文科学の分野での観測者としての役割が、大いに期待できますね」

 いろいろと相手をほめながら、同封の資料を読み進めるボスをしり目に、先ほどからの動画の続きを見る。

 色々な角度からの動画を切り繋いで編集してあるようで、きちんと追い切れていない場面もあるが、子供たちが旗を高々と掲げている様子から、彼らが勝ったのだということはわかる。

 ちょっと再生バーを巻き戻すと、茂みの中で身を隠している子供たちと、旗を守る二人の大人。

 茂みの中からタイミングをうかがっているようだけど、なかなか出ていかない。

 一人が茂みから顔をのぞかせようとするが、三人の中の一番小柄な子が注意して止めさせ、相手に気が付かれないように三人は茂みの間を少しずつ移動して、旗のある位置から右側に位置を取る。

 画面が切り替わって旗の後ろから全体を見渡す位置にカメラが来るが、その旗の前にいる二人は力を抜いた状態で立ったままだ。

 力は抜いているが警戒はしているようで、左右に顔を振ったり旗から二三歩離れては戻るという動作を繰り返している。

 胸元に構えていた銃も段々に下に銃口が落ちて、二人の動きもゆったりとしたものに変わっていく。

 一人が左手を腰に当てたその直後、旗の前にいた二人が勢いよく右を向いたところで次々に被弾し、小柄な子が走り抜けながら旗をさらっていった。

 見事すぎる連携だけれど、三対三での対戦のはず。

 子供たちは三人いるけれど、大人側のもう一人はどこにいるんだろう?

 そんなことを思いながら続きを見ていたら、画面の端からペイント汚れをつけた人物が一人加わった。

 ということは、全員が子供たちにやられちゃったのか?

 だとするとエンジェルというのはやはりとんでもない子供たちだ。

 先ほど国防軍という言葉が出た以上、子供たちの相手をしていたのはれっきとした正規の軍人のはずなのに。

 こういう子たちがたくさんいるなら、やはりどこの軍隊も組織も欲しがるのもうなずける。

 でも、スリルを求める相手としては物足りないかな。

 もうちょっと深みのある人間を罠にかけるほうが、うろたえ具合が大きくて面白いし、なにより未成年相手に誘惑をかけちゃ、いろいろとまずいしね。

 そんなことを考えつつボスの様子を伺うと、なにかPDAを見ながら渋い顔をしている。

「ボス?」

 声をかけているのに全然こちらを向かない。

「ぼーすー」

 まだ振り向かない。

 少し脅かそうか?

「後ろには回らないでくださいね、シャーリー」

 先にくぎを刺された。

「あんまりにもとんでもないオーダーが来たものですから、どうにも考え込んでしまいました」

 ?

 とんでもないオーダー?

「と言いますと?」

「詳細は追って届くと思いますが、要はそこに動画に映っているエンジェルたちを、早急にババルスタン側に引き込めということです」

「・・・はぁ。 それって前から言われていたことですよね?」

「国防軍の管理下に入ってから、ネットでも接触が難しくなってきていましたので、どうにかやり方を変えてでもと思っていましたが、三週間と期限を区切られました」

「? なんで唐突に期限を言ってきたんでしょうね?」

「それは、こっちのPDA内のオーダーに書いてありますよ。 聖櫃が発見されたので、来るべき開戦に備えよとね」

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