021 暗喩
「そういえば、あれからモンキーさんから連絡はありました?」
ファイヤーボールがフロストワームに当たる。
「いや、無いね。 こっちからこの間のお礼をメールしてみたけど、特にどうってことのない返事があったきりだ。 またイベントとかがあれば一緒に組みたいけどな」
「とは言っても、ハンターズは四人パーティ制だから、ダンジョンとかだと一緒に行くメンバーをだれにするか選ばんとねぇ。 この間のキマイラクイーンのようなオープンフィールドなら複数のパーティで攻撃できるけど、ダンジョンマップだと連係自体とれんかったりするからねぇ」
リーダーが盾でスノウウルフの攻撃をいなし、キュラソが雷の槍で追撃する。
「あの戦力は欲しいよな。 もっと正直に言うならあのSSレアアイテムが欲しい。 キュラソに持たせりゃ中盤の攻撃が強化される」
「んだからさリーダー。 SSレアでなくてもいいから、なんかいい装備買ってよぉん」
「キュラソ不気味」
向かってくるモンスターに対応しているうちに、いつの間にかすべて打ち取っていた。
「そうしたおねだりはサマーに言えって。 なんか持ってないかサマー?」
「あいにく今はないよ。 SSレアなんてなかなか手に入らないし、Sレアでも最近は手に入りにくくなっているから。 ハイレアくらいかな、すぐ手に入るのは」
「ハイレアじゃこの雷の槍とおんなじだべ? 同じじゃ困んのよぉ」
敵がいなくなったためか、みんなそれぞれに休憩しながらしゃべりだす。
「でも今はこの雪山攻略よね。 サマーはソロで来たとき、どの辺まで行けたの?」
「もう少し先に、洞窟があるんだけどそこまで。 まだ未攻略のダンジョンかもしれなかったから」
ベアリングボードの上を歩き、雪山を登っていく。
他のメンバーも移動しながら、洞窟のある場所へと向かっていく。
途中、吹雪のエフェクトが一行を襲い、各自の姿が見えなくなってはぐれかけるが、キュラソが大きく離れてしまった以外は問題もなく洞窟のある場所へと到着した。
「明らかに罠というか、入ってくださいと言わんばかりの洞窟だなおい」
「大体こういうところに、アイテムなんかを置いておくのが運営のパターンよね?」
「意地の悪いマップクリエイターだと、モンスターしかいなかったりするけどな」
「でもここまでのマップ見てると、作ったのはREIさんみたいだから、モンスターだけってことは無いんじゃない? デスマップのTOMOさんならともかく」
「サマーたん、いやなこと言うな。 そういうことを言うとホントにここから先のマップだけ、TOMOさん担当なんてことがあるかもしれないんだぞ」
なかなか入ろうとしない一行だが、いつまでもじっとしているわけにはいかない。
リーダーが盾を構え、ゆっくりとその一歩を踏み出した。
「このゲームは何が面白いのかしら?」
とんでもない暴言に森が机のコーヒーをこぼし、知里川が気管に緑茶を流し込んで盛大にむせる。
「ど、じょぶ、を、げほは」
何かを言おうとするが、回復しきらないまま声を出そうとするのでうまくいかない。
森が知里川の背中をきつめに叩き、回復を図る。
「二人とも騒々しいですわよ」
「ひゃんたが、ぃんなこと言うからだろ」
むせながらも悪態をつく。
「中尉、先日も言いましたが、余計な発言は敵を生むだけですよ」
男二人に声を荒げられ、ほんの少しだけたじろぐ。
「・・・いえ、本当に何が面白いのかわからないのですけれども?」
一分ほど沈黙が室内をを支配する。
「・・・ぱーどぅん?」
「中尉?」
「え?」
「いやいやいやいや、ま、そのなんていうか趣味とか興味の方向性ってのは、人それぞれですよ? でもね、で・も・ね。 ゲームや趣味ってのはそれぞれストライクゾーンが違うわけで、そこが分からないからって『何が面白いの?』は言っちゃいけませんってば」
必死に言い募る知里川。
「実際にこのハンターズというゲームは、公称500万人ものプレイヤーが登録しているオンラインゲームです。 熱心にやっている人がそのうちの一割だとしても、5万人ものプレイヤーから恨みを買いたいのですか中尉?」
「そんな大ごと?」
「大ごとですじゃないですよぉ。 ぶっちゃけ今この場には自分たちしかいないから言いますけど、非番の隊員で家や寮から通っている奴らなんか、外に出ずに一日中プレイしているってのも結構いるんですよ。 海外の参加者もいるんですから、外で言ったら殴られかねませんよぉ」
「・・・本当に?」
「うわドン引きぃ」
高岡零亜ははっきり言った。
「あなたまでそう言うのですか」
「いやいや玲奈ちんてば、ガチガチの貴族で軍人さんなのはいいにしても、そこまで頭の中がガチガチだったとは思わなかったじぇい」
モニターの向こうで、チョコスティックをほおばりながら零亜は続ける。
「あちしだってもハンターズやってるんだじぇ? アキラちんよりログインしてる時間も回数も短いけどさー。 でもあれってばやりこみ要素もあるし、ネットの仲間と一緒に遊ぶのが醍醐味なわけよぅ それ否定されちゃったら悲しいったらありゃしないよぅ」
おどけるような調子で零亜がしゃべる。
「それともあれかなー? まーたなんか難しい考え事してんのかや?」
「そんなことは無いつもりですわよ」
「ふーん。 ま、いいけどにぇー つかあれだねぇ。 玲奈ちんの頭の固いのは今に始まったことじゃないけど、やわらか頭になんないとまーたどっかでポカすんでにぇーの?」
「失礼なことを言わないでくださいまし。 どんなポカをするというのですか」
「見落としとかぼーぎゃくふじんとかなんつったっけ? こーとーむけーじゃなくてなんかそんな感じの」
「何を言いたいのかは大雑把には理解しましたから、難しい単語を無理に口にしなくてもよろしくてよ。 心配していただいたことには感謝しますが、あなた自身はいいのですか? アカネからも聞きましたが大学院での論文作成が滞っていて、ここ数日は碌に家から出ていないとも」
「にゃふー。 アカネさんは優秀だねー。 時代が時代なら玲奈ちん専属の忍者になってたんじゃねー? やー論文に詰まってるのは事実だし―、ロシアに行ったあと荷物の整理とイベント参加で遊びまわって、思いのほか時間が無くなってたってのが理由だったりするんだなーこれが」
あっはっはっはーと笑いとばす。
「まあ、そのあたりの苦労は自分のせいでしょうから深くは言いませんが、その後変わったこととかはありませんでしたか?」
「んー、とくには無いかなー。 毛皮やアクセも無事に届いたしー、次のイベント用のコスも順調に出来上がってきてるぜー。 いまハンターズのバーバリアン装備を作ってるんだけど見る?」
「いえ、いいわ。 その毛皮、ロシアから届いたのですわよね」
「ほだよー。 あちしが買ったのよりも何枚か多く入ってたからラッキーってな感じわさ」
「その時に届いた荷物の伝票や何かは残っているかしら?」
「ぬーぉ? たしかまだ段ボールが残ってたはずー」
手掛かりになるかと期待する。
零亜がしばらくごそごそと部屋の中を行き来する様子が、モニターの中で映っている。
しばらく待っていると、段ボール箱を抱えた零亜が戻ってきた。
「ほいこれ、見える?」
モニターにははっきりと差出人の名前と住所が映っている。
手掛かりが見つかった!
スクリーンショットで画面を記録する。
あとからででも検索をかけて住所を割り出せば、ルシフェルのアジトなりが分かるかもしれない。
住所がダミーだったとしても、伝票番号から配達に使った窓口が割れるだろうし、差出人欄はプリントアウトされた文字だったので筆跡をたどってという手段は難しそうだが、それでもやれることは幾つもある。
玲奈の心は次の段階へ進むべく踊っていた。
「んでさー、あと手紙も入ってたんだけどロシア語読めなくてさー、スキャン翻訳もまだしてないんだけど玲奈ちん読める?」
画面に向けられる便箋。
六行ほどの文字が並ぶ文面。
そこにはこう書いてあった。
『我々の不手際により不快にさせてしまったお嬢さんへ。
お詫びの品物をお送りいたします。
これを機に友誼を結べればとも思いますが、あいにくとそれは難しいでしょう。
訪ねたいことがありましたら是非とも、ババルスタンに足を運んでいただくよう、ご友人によろしくお伝えください。
もっとも歓迎できるかは保証出来かねます。
神に敵対するものルシフェル サルバトーレ・フレッチェンより 』




