018 交流
「はい、じゃぁここらで決めますね」
言いながらサルバトーレは手に持った槍で、バジリスクを串刺しにする。
さすがにSSレアな武器だけあって、何の苦も無く堅い鱗に突き刺さる。
まだ動きの止まらないバジリスクに、アキラは中距離魔法のファイヤーボールを選択。
野球ボールほどの大きさの火の玉が、バジリスクに向かって飛んでいき、小さな爆発音が上がる。
「おみごとです。 サマーさんもなかなかすごいですね」
槍を上下に振りながら言ってくる。
拍手をしようとしていたのだと思われるが、コントローラーを両手に持っているせいで、そのような動きになっているのだろう。
ハンターズの岩山地帯で、アキラ事サマーはモンキーと名前を設定しているサルバトーレと狩りをしていた。
足場が悪いので前に行こうとしても、画面が動かずところどころで動きが止まるのだが、ベアリングボードの上で少し身体の向きを変えながら足踏みすることで、岩場を移動しつつ狩りができる。
少し遠くの岩の陰にまた一体のモンスターを見つけ、魔法の準備をする。
右手のコントローラのアナログスティックで八角形のターゲット枠を移動させ、モンスターに重なったところで人差し指のXボタンでロック。
親指をAボタンに置いて魔法の準備。
距離があるのでファイヤーボールではなくファイヤーアローを選択。
右手をモンスターに向けて真っ直ぐに伸ばし、Aボタンを二回押して決定。
ファイヤーアローでの攻撃が決まる。
攻撃を受けたモンスターは、岩の陰から姿を現す。
さっきのバジリスクより一回り小さい、ロックリザードだ。
再度魔法を選択して、今度はファイヤーボールをぶつける。
火に包まれながらもこちらへ寄ってくるロックリザードに対し、後ろ歩きでじりじりと距離をとる。
そうして距離をとると槍を構えたサルバトーレが、ロックリザードの側面から攻撃を加える。
何度かそのようにして魔法と槍とで攻撃を繰り返すと、ロックリザードは体勢を崩し、数回点滅したあと消え去った。
「さすがですね。 私なんかではサマーさんように上手に魔法は使えませんから、武器攻撃でないとうまくいきませんよ」
お世辞なのか普通にほめているのかはわからないが、サルバトーレが声をかけてくる。
「いい加減、名前で呼んでくれてもいいですよ。 こっちもさっきからサルバトーレさんと言いそうになってますし」
「いいえ、接触を図ったのは事実ですが、ゲームの中ではきちんとキャラクターネームで呼び合いましょう。 そうしませんと他のプレイヤーにも変な目で見られてしまいますし、何かあった時にどうなるかわかりませんからね」
周囲を探ってみるが、他のプレイヤーもモンスターの反応もない。
「他のプレイヤーがいなくても?」
「ええそうです。 ほかのプレイヤーがいなくてもです」
断言するサルバトーレ。
「こんなことをしている私が言うべきではないですが、エンジェルであるあなたの動向は結構いろいろなところで注目されているのですよ。 動画はご覧になりましたか?」
「動画と言われてもどこの動画なのか・・・」
「ああ、すみません。 今回のあなたが参加された演習に関する動画がロシアと日本からウェポンズニュースムービーズカテゴリーで同時に公開されているんですよ。 アップされたのは日本時間の一昨日夜ごろでしたかな」
言葉を区切る。
「コメントも寄せられていますが、日本軍の戦法を評価する内容と、だれがこのような戦法をとったのかが議論されています」
何かの操作をしているようで、アバターの右手がゆらゆらと動く。
「そしてこの動画です」
ゲーム画面の中での空中、スクリーンの右側に動画が再生される。
零亜と一緒になって、コスプレ姿で辺りに向かって手を振る姿が。
しばらくのあいだ打ちひしがれていたアキラだが、モンスターの接近に気を取り直して攻撃の準備をする。
魔法の準備をしてモンスターに狙いを定め、ファイヤーボールをぶつける。
モンスターの姿をしっかり確認しないまま放ったファイヤーボールだが、問題なく当たっていたようでダメージのあったことが、モンスターの反応からうかがえる。
相手は先ほどと同じロックリザードで、ファイヤーボールでなら六発ほど当てれば倒せる相手だ。
アキラは目の前のロックリザードに集中する。
サルバトーレのほうを確認すると、視界の中を右端に向かって移動していく。
画面左隅にあるセンサーを確認すると、どうやらアキラから見て右側にいるらしい、別のモンスターの対処に向かったようだ。
しばらくの間一人でモンスターの相手をしなければならないが問題ないだろう。
ファイヤーボールを一発当てるごとに、二三歩移動する。
後ろだったり横へだったりするが、相手に近づく位置には移動しない。
四発目を当ててから、今度は少し大きく距離をとる。
ファイヤーボールの準備をしながら、サルバトーレの位置をセンサーで確認する。
先ほどから大きく位置が動いていないところを見ると、モンスターに足止めを食らっているか、すでに倒し終わった後でこちらの様子をうかがっているか、アイテムや装備品の確認を知るために止まっているかなのだろう。
目の前のロックリザードに意識を戻して、ファイヤーボールで攻撃する。
命中した。
続けて魔法の準備をする。
そろそろMPの残量が怪しくなってきている。
ステータス画面を気にしながら魔法を使う。
ファイヤーボールが、再度ロックリザードに当たる。
どうやら今の一撃で倒せたようで、ロックリザードが点滅して消えていった。
MP残量も少なくなっていたので、アイテム欄からMP飴を取り出し、決定ボタンを押してMPを回復させる。
サルバトーレがどうなったかを確認するため、ベアリングボードの上で体を動かし、画面に映る視線を移動させる。
画面をほぼ90度右に向けたあたりで、サルバトーレが立っていた。
立っているだけで何もしていない。
「サルバトーレさん?」
声をかけるものの、反応しない。
モンスターに何か麻痺系の攻撃を受けたのでもなく、こちらを意識していないようだ。
ログ落ちしたのとも違い、接続だけはしている状態のように見られる。
そのままじっと止まっているサルバトーレに、アキラは再度呼びかける。
「ああ、すみません。 少しよそに意識を向けていました。 あとゲーム内ではモンキーと呼んでください」
きちんと呼び方を訂正させる。
「意識を別に向けていたのは、前回の接触後、サマーさんの環境に変化があったかどうかを観察した結果を、私なりに考察していたからです」
今度は意識をこちらに向けているようで、話を続けていく。
「本日このように接触できていますから、あなた自身が何らかの理由で日本軍やロシア軍の施設の中で、軟禁なりされて不自由な生活を送っているということはないでしょう。 ミッチェくんがどうなっているかは知る由もありませんが、軍人である彼のことですから、我々ルシフェルとババルスタンについて調査をするなり、何らかのアクションをとっているだろうことは想像がつきます」
右手を何かの作業にあてているのか腰のあたりまであげて、もぞもぞと動かす。
「民間人である、あなたの動向が一番読みづらかったのですが、先ほどまでのあなたのギルドマスターの行動や会話から、日本に帰国して以後は特別な監視や拘束はされていないものと判断できました。 もっとも何らかの形での監視はあると睨んではいますがね」
そうして言葉を区切ると、先ほどと同じように、空中に別の画面が開く。
「この動画は今朝のものです」
前置きして映像を再生させる。
どこかの国のニュース映像のようだ。
使っている言葉は英語のようだが、どこの国かはよくわからない。
「これは、ヨーク帝国のニュースです。 内容はわかりますか?」
アキラは首を横に降る。
「今映像の中で、マイクに向かって話しているのはヨーク帝国の保健局の局長です。 そして話している内容は、未成年者のエンジェルがあらゆる場面で社会参加するには精神的にも身体的にも望ましくないので規制をかけるべきだと訴えています」
その説明を受けても理解が及ばないのか、アキラは首をかしげる。
「その上で彼らはこう言っています『すべてのエンジェルは、ヨーク帝国の庇護下に入れ』とね」
かなり重要な内容をさらりと言ってのける。
「ちなみにこの発表があったのは、日本時間で今から10時間前、現地時間の午後1時です。 アキラくんたちの演習に、エンジェルの加わっていることは、見る人が見ればよほどの事がなければ判ります。 そしてエンジェルを軍に組み込む有用性もね。 ですが、この動画が配信されてから2日ほどで今みたいな声明を出すのは、あまりにも早すぎるとは思いませんか?」