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016 検索

「それでは、繋ぎます」

 PDAから外部出力端子で結ばれたモニターに、全員が目を向ける。

 スキャンコードからアクセスした先で表示されたのは、どこかの企業案内のような広告サイトだった。

 ただし別ページに移動するような埋め込みタグもなければ、リンクバナーもない。

 電話番号もなければメールアドレスも無い。

「ダミーサイトということか?」

 誰かが呟く。

「あるいは何らかの暗号でも組まれている可能性はないだろうか」

 モニターを見た人々から少しづつ意見が寄せられる。

「まあ、画面を見た感想は別に置いておけ。 サイトのアドレスから解ること、画像やロゴの意味など思いつくことを報告に上げろ」

 情報局の長官が声をかけ、各員が自身のデスクに着く。

 キーボードをたたく音や紙のファイルをめくる音、席を立って移動する足音が聞こえる以外に静かな室内で、ミッチェは自身のPDAを触っている。

 名刺も手元にあるが、PDAには先ほどモニターに表示されたものと同じ画面があるだけで、何も変化はない。

 騙されたのかとミッチェは考える。

 はっきり言ってルシフェルのやり口と目的が、全く分からない。

 神と対峙するようなことを言っていた。

 が、その方法やどこでどうするかと言うようなことは口にしなかった。

 ババルスタンへ来てほしいとも言っていた。

 一国民になって働いてほしいというが、彼らの目的から考えると軍人なり政治にかかわるようなレベルでの貢献を期待している、そう考えるほうがよいのではないか。

 だとしても、そんな要件は飲めない。

 ロシア軍人として、ということもあるが、あのサルバトーレとかいう胡散臭いネゴシエイターの言うことも信用できない。

 今日までに、何度もルシフェルと思われる存在からの接触があったものの、事前にそれらの情報は軍の一存でつぶされていたことを先ほど教えられている。

 演習の時期が近かったということもあるのだろうが、要は自軍の兵士をスカウトする行為を、上層部が良しとしなかったということでもある。

 性別が固定され、その能力に制限が加わったとは言っても、多国語を操れるというのは十分に有能な能力である。

 ミッチェ自身も普段の軍務とは別に、自分から積極的に誰かとデートをしたり、買い物などでメールアドレスを渡すなど何らかのアクションを起こして人の関心を引くような真似をしてこなかったことも要因としてはあるだろうし、さらには元エンジェルだったということも、一因ではある。

 学生時代などはその身体的な特徴から就労や運動などに制限があったため、反動として様々なことをしたい、男としてかっこよくなりたい、力強くありたいと強く望んで軍人になって訓練に人一倍励んでいたことも、外の世界とのかかわりを薄くしていたことも、軍務に忠実な人間であると評価されていた。

 こうして情報部に呼び出されているのも、その努力が認められているからだとミッチェは考えている。

 演習に加わったのは予想外であったがそのおかげで、アキラという他のエンジェルと接触できた意義は大きい。

 そうしてみると人数調整ということで、演習に加われたのは僥倖というべきなのだろうか。

 軍の中で他にも元エンジェルだった者がいないわけではなかったが、第8管区所属の軍人の中で元エンジェルなのはミッチェだけだった。

 特に運動能力に優れた元エンジェルは第3、第4管区の地中海方面に多く配属されているし、デスクワークなどで能力のあるものはクレムリンなどの中枢で働いている。

 いつかは情報分析官としてそこに努めたいとは思っているものの、まだまだミッチェには経験が足りていない。

 だからこそこの第8管区で、経験を積みつつ日々の軍務に励んでいるのだが、ここまで思考したうえでミッチェはふと思う。

 なぜ自分がサルバトーレ、ルシフェルに目をつけられたのかと。

 他の部署では何にもアクションがなかったのだろうか?

 各地でスカウトを行っているのなら、他の部署のエンジェルにも接触があったのではないか?

 事はロシア軍だけではないだろう。

 現に、アキラも襲われた。

 関わり方によっては、世界中のエンジェルが対象になるだろう。

 その時、どのようなアクションを取るのが適切なのであろうか。

「それにしても、どこまでどうすればいいのか・・・」

 今指示されているのは、取り込んだスキャンデータから表示されたサイトアドレスから、ルシフェルに関する情報を引っ張り出すことだ。

 モニターに表示されている画面から、どんな情報を引っ張り出せばいいのやら。

 サルバトーレはやはり胡散臭い。

 日本のほうも同じような検証作業をしているのだろうが、向こうはどんな進み具合だろうか。

 モニターを見つめながら、ミッチェは心の中で呟いた。



『トラブル発生にてロシアから帰れない』

<残念だが、骨は拾ってやれない>

≪つれーわー。 助けに行けなくてまじつれー≫

<次のレイドに間に合わんのは仕方ないが、これもお前さんの社会復帰への第一歩だと、生暖かく見守ってやろう>

『ねぜに生』

≪じゃあ俺はヌル燗で≫

『丘に逝け』

<ごーつー蛭>

≪蛭やめて血が無くなっちゃう≫

『うるさい酔っ払いはさて置いてミンクさんは?』

【いるよ】

≪おまえさんも発言しる≫

【ボイチャ切ってるんだから空気を読む】

≪空気←よめない≫

<ごーつー蛭>

『go to hill』

【Go to HELL】

≪ちょミンクたん!!≫

 PDAを見ながらアキラは笑う。

 ルシフェルについては国防軍の面々が調査を行っている最中なのだが、正直に言ってアキラにはやることがない。

 気が付いたことなどがあれば報告をとは言われているものの、スキャンコードから出てきた画面を見ても何も情報が引き出せない以上、手詰まりになっている。

 何もすることがない以上、部屋でおとなしくしているしかないのだが、要は軟禁状態にある中では外出もままならないし、前回のようにルシフェルがちょっかいをかけてこないとも限らない。

 部屋でおとなしくしているように言われたアキラは、PDAでゲームを起動させて遊んでいる。

<現状何もできないってことでFA?>

『FA。 今は繋がってるけど、注意が入ったら電源切られるかも。あと時差もあるから時間もそろそろ。』

<つらいな。メンツ的に>

『そっちか』

≪そっちだ≫

<ぶっちゃけ火力が足りなくなる>

『BBさんは?』

<都合がつかない。この一週間もお前がいなくてきつい>

【次のイベントボスはキマイラクイーン。私瞬殺される】

≪ミンクたんは俺が守る≫

【蛭】

≪ちょ≫

<だから安定してからまた連絡してほしい>

『だね』

<だ。>

≪おみやげはー?≫

『ない。 だからイベ用にアイテム渡しとく』

<てん>

≪てん≫

【ありがとう】

<復活草てん>

【MP飴受け取った】

≪なぜ芋www≫

『じゃあまた』

<おつ>

【おつかれさま】

≪ちょ芋て≫

≪おーい≫

≪サマーたんやーい≫

<うるさいよキュラソ>

≪リーダー(涙)≫

 一通りのやり取りを終えて、「ハンターズ」を終了させる。

 久しぶりのギルドメンバーとの会話で気分もすっきりしている。

 リーダーの発言にもあった社会復帰と考えるとロシアに来たのは、いい経験なのかもしれない。

 誰かに誘拐されたりするのでなければ。

 ルシフェルの言い分を素直に受け止めるのは、どうあっても問題がありそうだし、あの場でのサルバトーレはまだ何か、隠しているような感じもあった。

 なにより自分から外国に行くなど、想像の範囲外だ。

 そうするとやはり家から外に出るのは、まだまだ先になりそうだ。

 今はまだ外に出ず、エンジェルであるということを隠してゲームで会話するくらいがちょうどいい。




 自宅にある自分だけの部屋のことを思い出して、アキラは堅い椅子にのけ反った。

 やはりこの椅子では、気分よくゲームができない。

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