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013 迷惑

 また新しい言葉が出てきた。

 繋ぐ者に射る者。

 ミッチェさんが繋ぐ者。

 で、僕が射る者。

 ババルスタン、ルシフェル、エンジェル…。

「何つーか言葉だけ聴くと、ゲームの何かみたいだにゃー」

 玲亜がばさりと言ってのける。

「そこは否定できませんね。 そもそもエンジェルの能力がファンタジーなので、それに合わせた名称を用意すると、どうしてもゲームやカートゥーンのようになってしまいます」

 苦笑いしつつ、サルバトーレが答える。

「が、お嬢さんの指摘は、身内からも言われてましてね。 もっとかっこいい呼び方とか、固い名称に変えられないかと。 何人かは我々の存在や能力に相応しい名称を作れないか努力しているんですが、これといった名称はまだ出てきていないんです」

 二人が話をする間も考える。

 エンジェルを集める組織、ルシフェル。

 ルシフェルとは何だったか。

「ババルスタンの目的は、国内の治安の安定。 それが第一であると、そう考えていていいんだな?」

「そうですよ、ミッチェさん」

「では、第二の目的は何だ?」

 言われてサルバトーレは黙ってしまった。

 先ほどまでの砕けたような表情が無くなり、固い表情に取って代わられる。

「この話は笑われるので、あまりしたくは無いんです」

 本当に言いたくなさそうだ。

 苦虫を噛み潰したような表情をしている。

「ですがこれは交渉ですし、予め、エンジェルとババルスタンに関する質問が、当事者からなされた場合には、十全に答えるように言い含められていますのでね」

 だんだんに、言葉を発するのが大変になってきているようだ。

 でも、そんなにも言いにくい理由って何だ?

「エンジェルという症例が、いつ頃出始めたか、あなた方はご存知ですか?」

「え? いえ、何も」

「すでに性別が固定化されたので、興味ない」

「にゃ?」

 三者三様の答えが返ってくるのを聞いても、サルバトーレはどれにも反応しない。

「きちんとした記録が残っているわけではありませんが、西歴の始まる頃には、この症例を抱えた人間は、何人もいたという事です」

 目をつむり、明後日の方角を向きながらさらに話を続ける。

「ただし、その頃の患者数はごくわずか。 しかしながら、今日ではその患者数は五千人を超えるとも言われています」

 言葉を止めて、一度ため息をつく。

「ちなみに、現時点での患者数は五千人と言いましたが、今後は一万人にまで患者数が増え、その後安定するというのが、われわれルシフェルの見解です」

「その根拠は?」

「エンジェルの持つ能力に、偏りが出始めました」

 ミッチェの問いに、サルバトーレが間をおかずに答える。

「サヴァン症候群のように、特定の才能を持つ中性人間として生まれ、後天的に性別が変化するものがエンジェルである。 これが現在の定説ですが、医療方面にその才能を持つ者が現れ始めている。 ただ才能があるだけならば、芸術方面に秀でたエンジェルがもっといてもいい。 なのに、医療にかかわる才能の持ち主が、我々の調べでは十パーセント以上も増加しています!」

「医者が増えることは、いいことなんでねーのかな?」

「確かに、医者が増えるのはいいことでしょう。 ですが、現在十代の彼らに、メスをふるってもらいたいと思いますか?」

 全員が首を横に振る。

「まあ、各国の大学や医療機関が、年齢制限や経験年数を盾に、しばらくは彼らの現場参入を認めないでしょうからそこは安心していいでしょう。 問題はその後、いや、医療系エンジェルが増えつつある現在の状況が問題です」

 テーブルに手をつき、姿勢を直してサルバトーレがまた話を続ける。

「エンジェルでない人々にも、才能のある人は大勢いますが、彼らの才能は、エンジェルに劣ります。 が、現在はまだ人口比で何とか出来ている、そんなレベルです」

 …まだ続くのかな?

「我々ルシフェルにも、医療系のエンジェルがいます。 そして彼らの持つ知識には、人以外の医療情報――処方箋の含まれていることが判明しました」

 え?

「その処方箋には、神のカルテ、と呼び名がつけられています」

 …。

 ……。

「なんつーか、マンガでぃすかー? な展開だにゃぁ」

 うん、同意する。

「神って…。 この二三世紀にどうなのそれ?」

「私もその意見には同意しますが、現在私たちは、そのカルテを必要とする神が存在するという前提で、活動しています。 そのカルテを必要とする存在が、どこにいるのかについては、推論を重ねている段階ですが、何かよからぬことが起こる前に準備をしておく。 そのために、このようにしてエンジェルの方々に、接触をしているという次第なのですよ」

 サルバトーレが姿勢を戻して、こちらに向き直る。

「この時点で、我々の話に疑問や不審な点があるなら、お答えいたしましょう」

 …。

 色々ありすぎて、頭が付いていかない。

「なーんだか、いっぺんに言われて頭がこんがらがっちゃんよー。 アキラは理解できたー?」

「正直に言って、こんがらがっているのは僕も同じ。 ただ、話の流れからババルスタンは、神様を敵と捉えているって印象だったけど、どうなの? サルバトーレさん」

 サルバトーレの口が、にやりとゆがむ。

「そのような理解で間違いないですよ、アキラくん。 おっしゃる通り、我々は、神と称する存在を敵とみなしています。 敵と言いましても、相手が相手ですからね。 どんな対策を行うことが良いのか、どこまで何をすれば、私たち自身の身の安全が保てるのか解らないため、傍目には過敏ともとれる行動をとっているのは否定しません。 旧約聖書にある、ソドムやゴモラの二の舞は御免ですからね」

 肩をすくめながら言う。

 でもだとしたら。

「本当に、神様が存在すると?」

「でなければ、説明のつかないことが幾つもあります」

「その一つが、エンジェルの存在?」

「その通りです。 エンジェルの存在があったからこそ、神について知ることができたといえます。 彼らの目的についてもね」

 目的…。

 なんだか、その目的がヒントになっているような気がする。

「で、結局のところ、どうしたいのか確認しておきたいな。 ババルスタンへと無理やり連れて行くのか、それともこのままダラダラと話を続けるのか?」

 ミッチェさんの物言いが、イライラした感じになってきている。

「すでにお伝えしましたが、私たちは説得を通して、自発的にあなた方がルシフェルに参加していただけることを、願っています。 わざわざこの場所で、話を続けているのもそのためです」

「その場所とはどこだというのかな。 ロシア国内であるにしても、探索の目から逃れられるようなところはそうそう無いはずだ」

「その通りです。 探索の目を逃れられるような場所は、あまり多くはありません。 が、全くないわけではないんですよ、ミッチェさん」

 謎かけのようなやり取りを繰り返す。

 ミッチェさんには、大体の見当が付いているのかもしれないけれども、こっちにしてみれば外国の初めての土地で、しかもさらわれて色々と難しいことを言われている中で、自由に動くこともできない。

 何をどうするのが最良の選択なのか…。

 ババルスタン、帝政ロシア、日本。

 一週間前には日本で普通に暮らしていて、ついさっきまではミッチェさんに口説かれ、そして今はババルスタンへと勧誘されている。

 そもそもここに来たのだって、お嬢の強引な誘導がなければ来なかったわけで、そうしてみるとあちこちから声をかけられている今って、実はモテ期の到来?

 いや、そんなことはないだろ。

 そんなことはないはずだ。

 引きこもりのゲーム人のエンジェルが、何をどうしたらモテるというんだろう。

 あー、自分の部屋に戻りたい。

 人付き合いそのものがうっとおしい。

 リアルでの罵り合いとか引く。

 人間同士の付き合いまじうぜー。

 携帯どこだろう。

 PADでもいいからゲームしたい。

 なにもかもいやだ。

 いやだー。

「・・・△」

 へ?

 いつの間にか、布まみれの人が目の前にいた。

 話しかけられた?

 でも、なんて言ったんだろう?

 ロシア語ではなかった。

 日本語でもない。

 でもなんだかどこかで聞いたような言葉だったような?

「DDYUΛ!」

 ミッチェさんが大声をあげた。

 それも、また聞いたことのあるような無いような言葉で?

 だけどこの人たちの言葉には聞き覚えがあるようにも感じる。

「この人、何か言いたいのかにゃ? 目の前に来てもただ、立ってるけど」

 玲亜が言う。

 ただ立っているだけ?

「アキラ、エノク語だ」

 ・・・エノク語?

「少しの間、私の言葉を、聞いてください」


 こんどははっきりと、布まみれの「判ずる者」の人の言葉だと理解できた。

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