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012 交渉

 サルバトーレ・フレッチェンと名乗った男は左手をひらひらさせて、チンピラみたいな人たちに合図を送る。

 その指示を受けたチンピラ風の男たちに無理やり椅子に座らされた。

「手と足の戒めについては、どうかそのままでさせて欲しい。 何しろミッチェくんはまがりなりにも軍人ですのでね、私自身の身の安全を守りたいのですよ」

 ミッチェさんの方をみると、仕方がないと思っているのか、抵抗もせずにそのまま座っている。

 その向こうに玲亜が座っているのだけれど、なにかわくわくしているようにも見える。

 誘拐されているって解っているんだろうか?

「んで、交渉っつたけど、誰と誰が交渉すんのかにゃー? 手荒な真似すんのは理由があるにしても、あちしらの買ったお土産なんかを目茶目茶にされたのはレッドカードだじぇ」

 お土産の心配を先にするのか・・・。

 いっぱい買い込んでいたしな。

 でも注意するのはそっちじゃない。

 彼らが誰を目的にしているのかだ。

「お土産の件については謝罪させていただきましょう。 軍の施設にいる限り、私たちはあなた方と接触することすらできませんので」

 サルバドーレと名乗った人物は、長椅子の背もたれに手をかけて話を続ける。

「もちろん、きちんとした方法で交渉できるのなら、それにこしたことはありませんでしたが、今回に限っては私どもの時間的な余裕がなかったことが、強行策に及んだ理由であります」

 一度言葉を区切り、布まみれの人に目で合図する。

 布まみれの人は一度うなずいたが、そのまま動かずにいる。

「実際には軍事演習の最中に接触を図るつもりではありました。 が、どうにもあなた方日本軍の皆様には嫌われているようで、メールの一通すら取り次いで頂けませんでしたのでね」

 日本軍と言ったからには、玲奈お嬢あたりに接触しようとしていたんだろうか。

「ロシア軍も同様に受け付けてくれなかったことは、返す返すも残念なではありますが、我々ルシフェルは、どうしても君たちと接触を持ちたかったので、今回のような行動をとらせてもらったという次第です」

 ミッチェが身を強張らせる。

 なんて言った?

 ルシフェル?

「・・・てーことは、単にお話がしたいから誘拐したってことかー」

「まとめるとそうなりますね、お嬢さん。 ただ、私たちにとって用があったのはミッチェくんともう一人のエンジェル、アキラくんの二人なので、巻き込んでしまったことはお詫びさせていただきます」

「お土産も台無しだにゃー」

「協力していただけるのであれば。 しかしながら、まず確認しなければならないことがありますので」

 軍人風の女の人が動き、玲亜のこめかみに、銃口が突き付けられる。

「いちばん必要なことは、アキラくんとミッチェくんとの話し合いなのです。 巻き込んだとはいえエンジェルではないあなたは、重要な存在ではないという認識で、邪魔をしないと誓ってくれますかな?」

 こくこくとうなずく玲亜。

 確かにこんな状況では、従うしかない。

 銃口が火を吹かないことを祈るよりほかないだろう。

 誰に祈るかは、人それぞれなんだろうけど。

「では、改めて話し合いを始めるとしましょう。 お二人は、ババルスタンという国をご存知かな?」

 ミッチェはうなずくが、アキラは首を横に振る。

「ミッチェくんはともかくアキラくんは知りませんでしたか。 中東、トルコとインドとの間にできた建国間もない小さな国ですからね」

 残念ですといった身振りを示すが、顔と声はあまり残念がっている様子はない。

「あのあたりは、大分裂の起こるより前から紛争が絶えませんでした。 いくつもの国が出来ては消え、くっついたり分裂したりを繰り返し、ロシアに飲み込まれてしまった国もあります」

 ちらりとミッチェの方を見て、サルバドーレが話を続ける。

「そうした流れの中で生まれた国の一つが、今回の話に関わってきます、ババルスタンなのです」

 サルバドーレが今度は布まみれの人に、視線を向ける。

「ぶっちゃけて言いますとね、新興国であるババルスタンは内政不安と外圧とにさらされて、常に緊張を強いられている状態であります。 それらを解消する手段として、多くの人材を求めています。 有能な人材はいくらでも欲しい。 エンジェルの皆さんにその手助けをしていただきたいというのが、我々の目的なのですよ」

「話しをしたい、と言いながらその中身は勧誘事業ということか。 確かにエンジェルだった人々の能力には目を見張るものも多い。 が、そうした人材から勧誘を断られた時の行動も安易に予想できるけどな」

 話しが一区切りついたと見るや、ミッチェが口をはさむ。

 あらかじめ予想していたのだろうけれど、ミッチェの返答が速かったのは、こうした場面での対応マニュアルを熟読していたかのようだ。

「かつて多くの犯罪組織が同様の行為を取って、挙句に逮捕や解体されてきたことを知らない訳じゃないだろうに、ババルスタンは犯罪者を擁護する国家だと判断していいということだな」

 睨みつけて言うが、サルバドーレに動じた様子はない。




「そういう返答が来ることも、想定済みですよ。 だから、ここで一つ考えてほしいことがあるのです。 なぜ我々がルシフェルを名乗り、エンジェルのアキラくんやエンジェルだったミッチェくんを勧誘しているのでしょうか、とね。 加えて言うならババルスタンという国の位置と名前についても考慮していただきたい」

 ミッチェが黙ってしまう。

 アキラはババルスタンが、どこにあったかを思い返してみる。

 トルコとインドの間って言っていた。

 でも、それ以上のことが頭に浮かばない。

 ルシフェルについて考えてもみるが、ゲームで出てきた名前だったような気がする程度のことしか思い出せない。

 ゲームではどんな扱いだっただろうか?

 堕天使という表記があって、黒い六枚の翼を持つ悪い天使でレアカード。

 攻撃力がとても高く、聖属性の攻撃を無効にできる効果を持っていた。

 ってこれはカードゲーム「カタストロフィ・エイジ」の内容だ!

この人たちが言っているのとは違うだろ。

「質問があるのなら、それに答えさせていただきますがどうでしょう? アキラくんは何かないですかな?」

 ふられてアキラは顔をあげるが、なにについて質問して良いのかまとまっていない。

 そこで目についたことを口にする。

「その、さっきからいる、そちらの頭から足まで隠している人は一体誰なんですか?」

 ババルスタンもルシフェルも気にはなるけれども、それでも口について出てきた言葉はそれだった。

 実際気になる人だ。

 男なのか女なのか解らない。

 目だけだと女の人のように見えるけれど、はっきり断定できない。

 座っているから分かりにくいけれど、二十代っぽいようでもあるし、もっと年上という可能性もある。

 ただ座っているだけなのに、無視できない。

 隣の軍人風の女性がべったりくっついているからには、相当なVIPか何かなんだろう。

 サルバトーレがその人に近づいて、何事か話しているのはどこまで話をするのかの相談をしているんだろうか。

「どこまで知りたいのか? と言っていますが、アキラくんは、どんなことを尋ねてみようと思っているのか、確認させてもらってもよろしいですかな?」

 話がまとまったようで、サルバトーレが聞いてくる。

「なら、名前と性別。 それからルシフェルの中の、どのくらいの地位の人なのかが知りたいと言ってください」

 とは言ってみたものの、どこまで答えてくれるのだろうか。

 全く何も答えてくれないということもあり得る。

 だけど、話し合いというからには、向こうにも質問に答えてくれる準備はあるんだろう。

 どのレベルまで答えてくれるかが、問題だけど…。

「名前については、ちょっと難しいんですが、役職を兼ねた呼び名なら答えましょう。 この人は、皆から「判ずる者」と呼ばれていますよ」

 布まみれの人に耳打ちした、サルバトーレが答える。

 見極め係という訳なのか。

 だとすると、ここで僕自身とミッチェさんが、この人にどうされるかを決められるのかもしれない。

「年齢は32歳。 性別についてですが、この方はアキラくんと同じです」

 ?

 !

「そんな! エンジェルって皆、どっちかの性別になるんでしょ!?」

「どんなことでも例外というものは存在しますよ。 この方の、エンジェルとしての能力にも関わりますが、そのせいもあって、性別の固定化がされていないということですよ」

 サルバトーレが近づきながら語る。

「ミッチェさんは、我々の見立てでは「繋ぐ者」のようですし、アキラくんは「射る者」ではないかと推測されています。 どちらも有能な才能です。 だからこそ、ルシフェルはあなた方をスカウトしに来たのです」

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