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 こんな小さな村で滅多に起こらない事件が終わり、いつもの日常が戻って早二週間(またか、とか言わない)。ジュイル君の心の傷も癒えてまた前のように無邪気な笑顔で懐いてくれる。相変わらず「ち~」と言って抱きついてくるので、私の後ろでガーヴさんが涙目ですが。

 村長さんにそろそろジャックさんが来るじゃろ、と言われ、ドキドキわくわくしながら今日も占ってますです。

 あ、檻に入っていた誘拐犯五人は最初の一週間で音をあげたよ。やっぱりぎゅうぎゅうで狭過ぎたんだね。まあそれだけ持ったのも一応は冒険者だったからかな。今は空き家に閉じ込めてます。監視はガーヴさんやミリアさんを中心に、村の男達でしてる。夜は一人一人縄で縛っておくという念の入れよう。逃げられたら情報が漏れる可能性があるもんね。

 ただね、一つ気になる事があるんだよね。もともと誘拐なんてしようとしたのはお金がなく、食べる物にも困ったからなんだよね。だから村に来た時は空腹と疲労が激しかったわけだ。でも今は生かしておくために食事がちゃんと出る。空き家に閉じ込められているんだから動かなくて良い。・・・そりゃ少し前より幸せな生活だろうさ。だからって大声で笑ってるってどういう神経なんだよっ! おまけに私を見て「ガキか。まあいい、遊ぼうぜ」なーんてのたまってます。確かに私は童顔ですよ、元の世界でも二十二歳には見えませんでしたよっ。でもそんなにえらっそうにする権利なんかあんたらにはないやい!!

 もう極刑モンでしょ。ジャックさんに言いつけてやるっ。


「手に気を付けてください。農作業は手が大事ですし」

「分かったよ。いつもありがとうね」

「探し物は西の方角。一キロぐらいですね。森の中ですから気を付けてください」

「ああ。ありがとう」

「明日の天気は、晴れですね。一日中雨は降りませんよ」

「おお、ありがたい」


 助言に物探し、天気予報と次々に占ってその対価としてお金をもらいます。安い料金でも塵も積もれば、というやつで、今は結構なお金が手元に集まっている。ホントありがたい。全部銅貨だから銀貨に両替したいなぁ、とは思うけども。

 そうやって午前中を過ごしていると、村長さんがやってきて「ジャックさんが来たようじゃ」と教えてくれた。わーい、久しぶりのジャックさんだ~。


「ジャックさん!」


 広場に向かうとそこには馬車に繋がれたリトルドラゴンの姿。その傍らで命の恩人、ジャックさんが村人と何か話をしていた。

 如何にも会えて嬉しいです、と全身で表わすように手をぶんぶん振ると、ジャックさんが振り向いて手を振り返してくれた。わ~い。


「久しぶりだね。もうこっちの生活には慣れたかい?」

「少しは慣れました。でもまだまだです」

「そうか。村人に聞いたんだけど、君の占い、やはり百発百中らしいね」

「ええっと・・・」

「その事に関してちょっと話があるんだ。前から考えてはいたんだけど・・・」


 ん? ジャックさんが真剣な顔に。


 何だろう? と首を傾げていると、いつの間にかやってきた村長さんが私達を止める。


「こんなところで立ち話もなんじゃろ。ワシの家で話をするとええ」

「すいません」


 ジャックさんはリトルドラゴンを一撫でし、村長さんの家へと足を向けた。


「え? 私のお店を?」


 ジャックさんの話とは、王都で私の占いの店を出さないか、という事だった。確かに元の世界でお店を出していた事は言ってあるが、まさかこの世界でも出せるとは思ってもみなかったよ。


「そう。私の店の近くに丁度いい土地があるんだ。出店資金は私が持つ。その代わり私を優先的に、かつ安く見てもらえればと思う」

「ジャックさんは命の恩人ですから、優先的に見るのは当たり前です。でも出店資金までは・・・」

「遠慮しなくて良いよ。これは私の我儘でもあるからね」

「我儘?」

「君が占いの店を出す事で星政庁の信用を失墜させれればそれで良い。君の占いにはそれだけの力がある。だが占星術に頼っている貴族達が君を狙ってくる可能性があるから、君が嫌なら無理にとは言えない。だからこれは私の我儘なんだよ。絶対に君を守ると約束するから・・・」

「ジャックさん・・・」


 そうだった。ジャックさんは星政庁が嫌いなんだった。憎んでいると言ってもいいかもしれない。

 前に村長さんが教えてくれたんだけど、今のジャックさんは商人の元締めとも呼べる存在だから、星政庁も無視できないはずだ、って。当時の星政庁の行いは、相手が並みの商人だからと見下した結果だ。他にも似たような事をしているだろうし、憎んでいる人は多いだろう、とも言ってた。よくそんなので国の機関なんて名乗ってるよ・・・。


「恐らく王様も君の噂を知れば協力してくれると思う。腐敗した貴族達を追い出したいとお考えだから、星政庁の力を削ぐと同時に関わっている貴族を排除できるはずだ」


(うん、ジャックさんの考えは分かるよ。分かるけど・・・そんな重大な事を私に求めないでください・・・)


 何とも言えない私に、ジャックさんは苦笑しながら頭を撫でてきた。・・・何故に。


「こんな事をまだ子供の君に頼むのは心苦しいんだけど、他に良い方法がなくてね」

「・・・へ?」


 今何と?


「なるべく君の頼みは応えるようにする。欲しい物があるなら私に言ってくれれば用意しよう。だから―――」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 私は慌ててジャックさんの言葉を遮った。だってさっきの言葉に私のコンプレックスを刺激するものがあった気が・・・。


「えっと・・・ジャックさんは私がいくつだと思ってるんですか?」

「? 13歳くらいだろう?」


 その言葉を聞いた瞬間、私の中でプチンと何かがキレる音がした。


「・・・そりゃ私は童顔ですよ元の世界でも年相応に見られた事はないですよあの誘拐犯どもにもガキって言われましたよ最低ですねでも中学生に見られた事はなかったんですよ最低でも高校生どまりでしたよなのにこの世界の人はみんな外国人みたいに彫が深いし身体も大きいし私と逆に年上に見えるしそんな世界に童顔の私がいれば子供に見えるでしょうよでもよりによって13? 22歳の乙女捕まえて年上に見られるよりはいいけど限度があるでしょ、ねえ?」


 ノンブレスで言い切りました。息苦しくても我慢です。顔にはニッコリ笑顔。背後から黒い物が出ていると自分でも思います。

 さすがのジャックさんや村長さんも、私の雰囲気に圧されています。


「22歳? そんな幼い姿で22歳?」

「幼い? いくら童顔でもそんな事言われた事ないんですけど。というかいくらジャックさんでもそろそろ許せる範囲は超えそうなんですが」

「す、すまない」

「納得したのなら子供扱いするのはやめてくださいね、村長さんも」

「き、気をつけます」

「う、うむ」


 コクコクと何度も頷く二人に、私は溜飲を下げた。


「チホは怒らせると怖いのう・・・」

「怖いです・・・」

「何か?」

『いえ、何でも』


 小さい声で言い合っても聞こえてますよ~。


 まあとにかく、店を出すのは嬉しい事だし、もともと王都に行くつもりだったから断るつもりはない。出店資金を出してもらうのは少し申し訳ないので、優先的に安く見る件は勿論の事、借金として契約しようと決めた。絶対に全額返してやるっ!

 結果、ジャックさんはとても良い人でした。なんと資金は無期限無担保で貸してくれるとの事。最初は返す必要はない、と言われたけど、やっぱり大人として、うん、大人として返すべきだよね(大事なので二回言いました)。ついでに店に使う装飾や道具などをジャックさんの店で用意してもらい、宣伝も兼ねる、という事も追加した。なんか頼りっぱなしって感じだったし。


「チホは優しいね。そして甘過ぎる。そんなんじゃあ商いはやっていけないよ?」

「・・・自覚はあります」

「分かっていてもなかなか性格は変えられないって事だね。まあその辺りは私に任せてくれれば良いよ。協力は惜しまないから」

「ありがとうございます」


 謙虚なんです、なんて言ってみる。心の中で。

 そして村長さんとも相談の上、ジャックさんが村を出る三日後に私もついていく事になった。王都まではいくつかの村や街を経由する事になるんだって。んでその間の食事は交替で作る事に。魔道具の鍋(火を使わなくても熱せられる)があるから簡単に作れるらしい。何て便利なんだっ。かまどに火をつける苦労を思い出すと叫ばずにはいられないよぉ。

 あ、今更だけどこの世界にも調味料はちゃんとあります。特に醤油と味噌! リョウタが作り方を伝えたとかで結構美味しいんだよ。この世界にはないと思っていただけに、思わず感動したのは無理もないよね。やっぱり持つべきものは日本人の英雄だ(おい)。

 ちなみに米もあったり。米は昔からあったんだけど、リョウタが教えるまでは家畜の飼料扱いでした・・・。

 あと運賃はきちんと払います。食費も含めてるんで。ってかここで払わなかったら申し訳なさ過ぎてジャックさんの顔が見れなくなっちゃうよ・・・。

 でも男女二人きりの旅、なんて意識は毛頭ない。ジャックさんは亡くなった奥さん一筋だから他に付き合った人もいないんだってさ。よ! 旦那の鏡!

 その日の夜は三日後の事が待ち遠し過ぎてなかなか眠れませんでした(子供かっ)。


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