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そうして村で過ごし始めて早二週間が経ちました。え? いきなり省略しすぎだって? まあ毎日同じ事をしてただけだからねぇ。
えっと、まず台所の使い方から始まって、水の汲み方、竈の火のつけ方、お茶の入れ方、それから罠の張り方、獲物の捌き方、調理の仕方などなど。畑の耕し方とか教えてもらう時なんて、腰が入ってない、って言われて扱かれたなぁ(遠い目)。他にも色々、ホント色々教えてもらったよ、一週間経つのが速く感じるくらいに。やっぱり私の世界とは全く違うんだなぁ、と改めて強く感じたよ~。科学技術の恩恵は素晴らしかったのね・・・。
あ、でも時間概念はほぼ一緒でした。一日24時間、一月が30日で一年が360日(5日分少ない)。週の曜日はあるらしいけど、こんな辺境では使う事がないのでわからないとの事。王都に行ったら要勉強だね。季節は春夏秋冬あって、今は夏の終わり頃らしいよ。
あとこっちの世界の方が凄い部分もあるんだよ。魔道具っていって、魔力がない人でも使える道具があるの。自然に存在する魔力を取り込んで動くから半永久的に使えるんだって。んで私にとって一番救われたのがトイレ。これも魔道具で、水洗トイレみたいな感じになってるんだよ! といっても水は使ってないけど。便器と似た形の物で用を足すと自動で浄化してくれるっていう。ってか水洗トイレより凄いってこれ。この魔道具を考案したのって英雄のリョウタなんだってさ。その前までは汲み取り式のトイレだったらしい・・・。
絶対リョウタって現代人だね。他にも色々な魔道具を考案したっていうから、少しは安心できるよ、うん。ちなみにこんな田舎の村にも魔道具が一軒一軒設置してあるのは、昔は魔道具が作れる魔法使いがたくさんいて、リョウタが量産するように言ったかららしい。半永久的に使える物ばかりなので交換する必要もないし、代々ずっと使い続けてきたんだって。って事は今あるトイレって200年も前からあるって事よね・・・。
・・・うん、誰だって魔道具凄いって興奮するだろうけど、なぜにトイレの話ばっかりしているのだろう、私。
あ、お風呂もあったよ。水汲みはしなくちゃいけないけど、ある程度まで水を入れると温めてお湯にしてくれる浴槽型の魔道具ね。これが良い湯なんだ~。保温機能も付いてます。良い仕事してますね~。
それからお金なんだけど、それなりに捌けるようになった獲物を売って得る事が出来るようになりました(本来は物々交換なんだけど村の人の好意でお金にしてくれる)。お金はすべて硬貨で紙幣は存在しないんだって。銅貨、銀貨、金貨、白金貨と価値は上がっていって、10銅貨=1銀貨、100銀貨=1金貨、200金貨=1白金貨となってるのね。結構ややこしいわ・・・。まあ1銅貨=100円ぐらいの価値かな。1白金貨を日本円に換算するととっても怖い額になりそうで考えるの放棄の方向で。獲物を売って得るお金は銅貨ばかりだから銀貨や金貨なんて見た事ないし、白金貨なんて商人とかが大きな商売をする時くらいにしか使わないらしいよ。1銀貨もあれば一日三人家族が腹いっぱい食べられるくらいかな。
他にも体調が悪かったり老齢が理由で耕せない畑を手伝って、野菜をもらったりもした。順調順調。
それと私が占いができると聞いて、村の人が占ってもらいに来たんだよね。最初は信じてなかった村人も村長さんも、日が経つにつれて何度も来るようになった。その上村長さんが「これだけ正確に当てられるなら金を取れるじゃろ」と言ってくれて、安くはあるがお金を払ってくれるようにもなった。ありがたや~。
内容は物探しが多かったね。あとは明日の天気だとか、獲物が多く取れる場所は何処かなどもあったかな。特に猟師がよく来たね。
あ、そうそう。猟師とは言っているけど、この村では決まった役職ってのは村長さんだけみたい。男性が弓矢なんかで獲物を狩る事が多いから猟師と呼んでるけど、畑を耕すし料理もするから何でも屋みたいになってるね。女性も罠を仕掛けて狩ったり、森の中に入って山菜や木の実などを取ってきたりもするからすっごい逞しいです。これまでスーパーで売っている肉を買っていた私はなかなかついていけませんです、はい。
猟師といえば初日にあった狼さん。名前はガーヴさんといって、誰よりも多く獲物を狩ってくるの。獣人は人間より身体能力が上なので、弓矢など使わずともすぐに捕まえてしまうのだ。彼には奥さんや息子がおり、家族も同じ狼の獣人ではあるが姿は少し違った。ガーヴさんは狼を二本足で立たせて服を着せたような姿だが(なぜか手は人と同じ)、奥さんは人の姿に獣耳と尻尾をつけたような姿だった。ミリアさんっていうんだけどこれがもうすっごい美人で、女の私でもつい見惚れちゃったよ。二人とも銀色の毛並みをしており、それは息子にも受け継がれていた。母親と同じ人間の姿に獣耳と尻尾でジュイル君っていうの。
このジュイル君、まだ3歳で好奇心旺盛に動き回る為すぐに泥や土で汚れてしまうが、洗った後の毛並みなんかすっごい綺麗なんだよ~。マフマフするのが目当てで(おい)よく洗ってあげていたから私によく懐いてくれて、「ち~」って言いながら抱きついてくる姿は可愛すぎてもう鼻血モノですな(不純すぎだろ私)。この「ち~」は私の名前なんだけど、ガーヴさんが自分を呼んでくれない、と嘆いてたんだよね。まあ関係ないんだけど(酷い)。ちなみにこの村にいる獣人はガーヴさん親子だけです(残念・・・)。
ジャックさんはエレン村に来るのは一か月に一回くらいで、いつも三日ほど滞在するらしくすぐに帰って行った。彼がいなかったら今の私はいないよ、うん。やっぱり王子様だ~。
「西に二キロ行ったあたりにたくさんいるみたいです。ガーヴさんなら大丈夫でしょうけど、気を付けてくださいね」
「おう。大事な妻や息子を残して逝くわけないだろ。期待して待っててくれや」
「はい。行ってらっしゃい」
意気揚々と出て行ったのは獣人のガーヴさん。狩りに行く前にどこに行けば獲物がたくさんいるのかを占ってもらいに来たのだ。カードでは何がいるのかまでは分からないが、私の勘では兎が多くいるみたい。前になんと狼を獲って来た事があって、共食い!? とか思ったんだけど違うらしい。獣人は亜人と呼ばれるように人に近いから、だそうだ。でもガーヴさんの見た目って手を除けば狼なんだけどね・・・。まあ本人が納得してるならいいか。
さて、朝の占いも一段落した事だし、畑のお手伝いに行きましょうかね。
ん~、と背伸びを一つして、村長さんから借りている部屋に向かう。少しずつながらも私の荷物が増えてきているので、客間って感じはないなぁ。王都に行く時は全部片付けてから行かなきゃね。
村長さんに「行ってきます」と声をかけてから近所の老人の家までてこてこ歩く。もう腰が曲がって畑仕事はつらい、と手伝いをお願いされているのだ。収穫した野菜をいくつか分けてくれるので非常にありがたいお手伝いである。
「おじいちゃ~ん、来たよ~」
木で出来た扉をトントンと叩くと、中から「入っておくれ」と声があったので開けて中に入る。小さな家で、一人暮らしなら問題ないが他にも人がいれば狭く感じるほどだ。奥さんは昔に亡くなっているらしく、娘は王都にある食堂に嫁いで行ったので今は一人だ。
「いつもスマンのう」
「いいのいいの、こっちだって野菜分けてもらって助かってるんだから」
畑に行く前に、森で採れたハーブをお茶に入れて出す。香りがとても良いから私のお気に入り。腰痛にも良いらしいからおじいちゃんによく出してるんだ。
「じゃあ今日も元気に土いじり~♪」
変な歌を歌いながら畑に向かう私の背中を可笑しそうに見つめているおじいちゃん。なんでも私を見ていると娘さんを思い出すらしくとても可愛がってくれている。娘さんや孫に会いたがっているのだが、王都まで行く体力がなく、かといって忙しい娘達に来てくれと頼む事も出来ずに長い間会っていないらしい。ジャックさんを通じて手紙のやり取りはしているらしいけど、やっぱり会いたいよね。
王都に行った時に会いに行ってみよう、と考えながら畑に水をまく。今日も良い天気だから水に光が反射してキラキラ光ってるよ~。
そんなこんなで畑仕事が終わって獲れた野菜を分けてもらい、村長さんの家まで戻ってきました。すると扉が勢いよく開き、村長さんが飛び出してきた。年齢に似合わず素早い動きである。
「村長さん? どうしたんですか?」
「おお、チホ。丁度いい、占ってもらえんか?」
「いいですけど、何かあったんですか?」
「うむ。ガーヴの息子、ジュイルがいなくなってのう。ミリアの嗅覚で調べてみればどうも森の方に行ったらしいんじゃ。ガーヴを追いかけたのかと思ったんじゃが、違うようでのう」
そう言いながら後ろを振り返ると、ミリアさんが青い顔をして立っていた。
「あたりを探してみたんですが、見つからなくて・・・匂いも途中で消えているので、何かあったんじゃないかと・・・」
ガーヴさんとは違い、ミリアさんは身体能力が高いというわけではない。だが獣人らしく嗅覚は優れていて、ジュイル君がいなくなった時はいつも鼻で探していたらしい。それが今回見つからなくて、焦って村長さんに相談に来たそうだ。
私は急いでタロットカードを取り出し、その場に座り込んでカードをきる。玄関先の土の上でも気にしていられない。だが焦っているとうまくいかないかもしれない、と何度か深呼吸する事で心を落ち着ける。
「・・・お願い」
頭の中で願いを思い浮かべ、口にも出しながらカードを並べた。触れる指先に集中しながら一枚ずつ順にめくっていくと。
「・・・『南』、『人の身体』、『×』」
「え、それって・・・?」
村人の前で何度か占っているので、カードの意味を何となく理解しているミリアさん。単純に考えたら『人の身体』と『×』が出ている時点で最悪な展開を想像するだろう。だけどこれは私の勘任せな占いだ。
「ジュイル君は南の方角に向かって動いているようです。しかも自分の足でじゃない」
「ど、どういう事?」
「おそらく、誘拐されたんじゃないかと・・・」
「誘拐ですって!?」
座り込む私に付き合ってしゃがんでいたミリアさんが勢いよく立ち上がる。耳と尻尾の毛並みがぶわっと逆立っているのを見て、この状況にも関わらず凄い、と思ってしまいました。
「アタシの大事な息子に何してくれてやがんだ!!」
「・・・へ?」
今聞いた言葉を理解するのに、脳が拒否しました。美人で優しいミリアさんの口からでた言葉とは思えなかったので。
思わず村長さんの顔を見てみれば、ミリアさんの方に視線を向けないようにしていた。こころなしか震えているように見える・・・。一瞬呆けてしまったのは仕方ないよね。
んで次の瞬間、犬の遠吠えが間近から、しかも大音量で響いてきた。咄嗟に耳を塞いだけど、間に合わなくてくわんくわん耳鳴りがしてる。村長さんは、と再び目を向ければそちらも耳を塞いでいた。何が起こるか分かっていたんだよ絶対。先に教えてほしかったよ・・・。
「村長! ちょっと村を離れるよ!」
「お、おお」
犬の遠吠え(狼の遠吠え?)が終わるとミリアさんは駆け出した。それもものすごいスピードで・・・。あれ? 身体能力はそんなに高くないって話じゃあ?
呆然としている私に、村長さんが苦笑交じりに教えてくれた。
「ミリアは確かに身体能力は高くない。だが生まれつき魔力が高くてのう。体に魔力を流す事でガーヴよりも凄い動きを見せるのじゃよ」
「・・・マジですか」
「ジュイルを攫ったのが誰かは分からんが、あの様子だと半殺しで済むかどうか・・・」
どーいう意味ですかそれ。
思わずブルリと震えたのは不可抗力です。
ちなみに彼女が遠吠えをしたのはガーヴさんに知らせる為だったそうです。今頃ミリアさんとガーヴさんのタッグが誘拐犯をギッタンギタンにしているだろうとの事です。ブルブル。
一時間後、涙で顔をグシャグシャにしたジュイル君を抱いてミリアさんとガーヴさんが戻ってきた。二人の身体に返り血らしきものが見えたのは気にしない方向で。
ミリアさんがジュイル君を私に預けてきた。なんでも誘拐犯は数人いて、全員捕まえたものの村まで持ってくる事が出来なかったのでこれからまた向かうそうだ。・・・うん、全員気絶してるんだよね。死んでないよね。
ってか南の方角ってだけでよく行けたもんだよ。この二人は絶対に敵に回したくない。
ジュイル君も土などで汚れているので、お風呂に入れる。怪我はないようだから一安心だ。
「ごわがっだよ~」
「よしよし」
まだ涙が止まらないジュイル君の頭を撫でながら優しく洗っていく。怖がるのも無理ないね。ガーヴさんから聞いたんだけど、大きな袋に入れられて担がれてたんだって。心底怖い思いをしただろう。
なぜジュイル君を誘拐したのか。村長さんによると、銀狼は結構珍しいらしい。身体能力が高かったり魔力を持っていたり、他にも外見が美しかったりと奴隷にしたがる人は多いんだって。まだ3歳の子供なら自分好みに調教できるとかなんとか。なんつー事を考えるんだこんな可愛い子供に。
ちなみに奴隷は国が禁止しています。奴隷の売買なんてしようものなら処刑されるそうです。
体を拭いてやり、服を着せたところで泣き疲れたのか舟を漕いでいる。しばらくガーヴさん達は帰ってこないだろうし、私の部屋に寝かせておいてあげよう。
「可愛い~」
すやすやと寝息を立てながら無邪気な顔で眠る姿はもう胸キュンです。
音をたてないように部屋を出て、村長さんがいる会議部屋に向かう。村長さんは温かいお茶を入れて待っていてくれた。
「ジュイルの様子はどうだったかの?」
「怪我もないし元気みたいです。怖い思いはしたでしょうが、ガーヴさんとミリアさんがいれば大丈夫でしょう。今は泣き疲れて眠っています」
「そうか。無事で何よりじゃ」
「あの・・・先ほど銀狼は珍しいから狙われやすいって仰ってましたけど、この村ってセキュリティ・・・警護の面で不安ですよね? 大丈夫なんですか?」
この村には魔獣除けの柵程度しかなく、しかもガーヴさん達がいるので魔獣はあまり襲ってこない。おまけに村人は普通の人間で、農作業が主の戦いなど出来ない者達ばかりだ。これではいざ村が襲われれば守る事は出来ようはずもない。
「ふむ。まあチホの言う事は分かる。じゃがこんな辺鄙な村に来る者などジャックさんぐらいだからのう。王都からかなり離れておるし、50人ほどの小村じゃ。狙ったとしても何のうまみもない・・・はずなんじゃがのう」
「はず?」
「ガーブやミリアがこの村に来たのは四年ほど前じゃ。やはり銀狼だからと狙われておったからの。じゃがこの村の者は皆家族のように仲が良い。銀狼がいる、などと情報が漏れるはずはない。今言ったように王都から離れておるせいでそう簡単に情報が回るはずもないからの。じゃから何のうまみもない村だと思われておるはずなのじゃ」
つまりこの村に銀狼がいるのだと知っている者はいないはずだ、と。
エッケリオンの領土ではあるが、東の端の方に位置するエレン村を訪れる人もいないらしく、確かに私がこの村に来てからジャックさん以外に外の人を見ていない。という事はもしかして・・・?
「ああ、ジャックさんは大丈夫じゃよ。あの人がガーブ達をこの村に連れてきてくれたのじゃからの。むしろ自分の力で伸し上がって得たものを手放すような事をするはずもない」
「そうですよね」
ホッと安堵の息を吐く。だって助けてくれた恩人を疑いたくないもん。
「じゃからなぜジュイルが狙われたのかが分からん。犯人に訊こうにもミリア達の事じゃから今は訊けん可能性があるからの。スマンが先ほどの占いの代金も合わせて払うのでまた占ってくれんかのう」
「もちろん占います。お金はいりませんから」
「いや、これは立派な仕事じゃろう。お金を払うのは当然じゃ」
「ジュイル君の事は私も可愛がっていました。仕事とは関係なく、私が占いたいんです」
「・・・ふむ。わかった。お願いしよう」
早速、とばかりにカードを出して、深呼吸をしながらカードをきる。なんかこの世界に来てから占う時に深呼吸する癖が出来ちゃったよ・・・。
気が済むまできった後、3枚のカードをとって並べる。左から順にめくり、出てきたカードは。
「『葉っぱ』、『×』、『ペン』・・・『葉っぱ』は健康、それが『×』、という事は体調が悪い・・・? いや、違う。・・・暮らしがままならないから、短絡的に奴隷を売ってお金を得ようとした・・・っていう感じかな?」
この分なら他に情報は回ってないかもしれない。・・・勘だけど。
「ふむ。なら大丈夫かのう。後はガーヴ達が戻ってくるのを待つかの」
「はい」
少し安心しつつ、遅くなってしまった昼食を作る為に台所に向かった。いつもは自分と村長さんの分だけ作るんだけど、今日はジュイル君の分も必要かな。・・・ガーヴさん達の分も一応用意しておこう。
しばらくして起きてきたジュイル君も一緒に三人で遅い昼食。ちょっとではあるけど笑みを浮かべてくれたので一安心。なるべく一緒にいた方がいいだろうと、近所の子供達も呼んでトランプで遊ぶ(私が作った。紙は存在するけどとても高価な上に村にはないので木の皮で代用)。この世界にはなかった遊びなので、最初は戸惑っていた子供達も今では楽しんでくれている。たまに大人も交じって遊ぶのだが、子供より熱中してしまうのが面白い。
ってかこの世界って娯楽が少ないのよー。カード系は勿論将棋とかチェスなどもないし、ゲームとはなんぞ? 状態なのだよ。子供がする遊びと言えばおいかけっこ、かくれんぼ、おしまい。・・・ふざけんなーって思ったよ。でもよく考えてみれば仕方がないんだよね。魔物が出るこの世界では防衛や退治、そして日々の生活で大人は忙しい。子供も水汲みや薪拾いなどお手伝いをする。そりゃ遊ぶ時間は少ないし、遊び道具も作る暇はないよね。もしスマートフォン持ってたらすっごい人気になってそうだよ。・・・スマフォどころかガラケーも持ってませんが、何か?
「あ! またジョーカー!」
「へへん! 俺に勝とうなんざ甘い甘い」
「そう言って自分もジョーカーひいてたくせに」
「う、うるせえ!」
ババ抜きをする四人の子供達、と私。
ジョーカーをひいてしまった女の子はリタちゃんといって、いつも明るい優しい子。ウェーブがかった亜麻色の髪と緑眼がとても可愛いの。
胸を張っている男の子はタリス君といってガキ大将のような子。茶色の短髪に青眼の生意気なガキである。
タリス君に突っ込んでいたのはロブ君といっていつも冷静沈着な子。ただ興味のある物には一直線な緑の髪に茶眼の将来良い男になりそうな容姿の子供だ。簡単な文字の読み書きや計算しか出来ない村人が多い中で、この子は村長に教えてもらったらしくしっかり読み書きができる。
リタちゃんがひいてしまったジョーカーを手札に加え、わからないようにぐるぐると混ぜた後ジュイル君に差し出す。その顔は真剣で思わず噴き出しそうになったのは無理もないよね。
ジュイル君も真剣な顔でリタちゃんの手札を見ている。迷いに迷ってひいたカードは。
「あ~・・・」
「やったー!」
この反応からしてジョーカーだな。
ムムム、と唸りながら次の番である私に手札を差し出すジュイル君。獣耳が項垂れていて大変可愛いです。カメラがあればなぁ、と心底思います、はい。などと心の中で呟きながらひいたカードは。
(・・・なんでジョーカー)
邪な思いを抱いたせいですか、ジョーカーよ。
結局リタちゃんが一番に抜けて、次にジュイル君、私、ロブ君、タリス君の順だった。ビリだったタリス君がもう一回戦を要求しているが、丁度ミリアさんが戻ってきたので渋々諦める。子供ってホント可愛いね。ちなみにトップだったリタちゃんの嬉しそうな笑顔はとても眩しかったです。この子も将来美人になるよ、絶対。
「おかえりなさい。犯人はどうしたんですか?」
「簀巻きにして広場に転がしておいたわ。今村長が尋問している頃よ」
大変良い笑顔ですね、ミリアさん。輝くような笑顔で答えてくれたミリアさんの体についていた返り血が、若干増えているような気がするのは気のせいですよね。
この村の中央に村人達が集まれるような広場がある。そこでガーヴさんの見張りの元、村長さんが尋問中とのこと。村長さん、いつの間に外に出てたんですか。
体の汚れを落とす為にお風呂に向かったミリアさん。昼食を用意する為に台所に向かう私。そして子供達はジュイル君を外に出すのははばかられたので私の部屋に行ってもらう。そこでトランプの続きでもするでしょ。
「良いお湯だった。ありがとうね、ジュイルを見てくれて」
「いえ。みんなが無事で良かったです」
「ええ。あなたのおかげよ。本当にありがとう」
そう何度もお礼を言われると照れるじゃないか。頬が赤くなってるとこ見られるのも恥ずかしいよ~。ミリアさんみたいな美人に褒められたら誰だって身悶える(?)よねっ。
食事を終えたミリアさんはジュイル君を連れて家に帰って行った。ガーヴさんの分の食事は自宅で食べさせるからとお持ち帰りです。ついでに遊び足りなかったのか、他の子供達もトランプを持ったままついていってしまった。
「トランプ、ちゃんと返してくれるかな?」
返してくれそうにないなぁ、と呟きつつ、村長さんの帰りをまだかまだかと待った。