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異世界という言葉が出てくるのは本の中だけだと思ってたよ。そういう類の本は図書館とかでちょっとだけ読んだことがある程度だからよくはわからないんだけど(本は占い関係の物ばかりだったもんで)。
やっぱり自分の占いで『星』が出た時はもうちょっと気をつけた方がいいかなぁ、と思うも、これはさすがに避けられなかった気がする。逃げる間もなかったし。
てかジャックさん、私の話聞いて変だと思ったはずなのに何も言わない。変な目で見ない。やっぱ良い人だね、うん。
先ほどの二本足の狼さんはジャックさんに気付くと、会話をしていた人(こっちは普通に人間だった)に断ってこっちに近づいてきた。私に気付いて口を釣り上げてから(・・・笑いかけたのかな?)ジャックさんの方を向く。
「やあ、ジャックさん。前に頼んだ物、どうだった?」
「やあ、ガーヴ。もちろん用意できたよ。少し割高になるがかまわないかい?」
「かまわないよ。ジャックさんの事は信用しているし。ところで、こっちのお嬢さんは?」
二人(一人と一匹?)が話していた内容はよくわからないが、すぐに私の方に視線を向けてきたのでビクリと肩を震わせる。だって私よりも大きい狼さんから視線を向けられてみ? マジでビビります。
「途中で会ったんだ。とても遠くから来たらしいし、帰り方が分からないそうだから近かったこの村に連れてきた」
なんともアバウトな説明だが、まさにその通りなのである。遠く、というより世界が違うし、帰り方も全くわからない。でもこの説明だと私ってただの迷子だよね・・・。
「帰り方がわからない? ここまでどうやって来たんだ?」
狼さんが首を傾げながら私を見た。その仕草がちょっと可愛いなぁ、と思った私は十分犬派です(いらない情報)。
「自宅に向かっていたはずが、気が付いたら草原に立っていたので・・・自分でもよくわかりません・・・」
「なんじゃそりゃ」
おお、素晴らしいツッコミ。でも可笑しそうに笑う姿は、口を吊り上げているので鋭い牙が見えてちょっと怖かったり。
「まあその辺は追々調べるとして。今は彼女を村長の家に連れて行こうかと思うんだが」
「そうか。あの人なら今畑の見回りに出ているはずだから、すぐに戻ってくるだろ。家で待ってるといい」
「わかった。ありがとう」
ジャックさんは狼さんに礼を言うと、私を促して歩き出した。私は狼さんにペコリと頭を下げて、彼の後を追いかけた。・・・狼が手を振るって、結構シュール・・・(手は普通に人間みたいだった)。
向かった先は村の中では一番大きな家。それでも小ぢんまりした物だったけど。たぶんここが村長の家なんだろう。
「そのうち来ると思うよ。それまでにちょっとお話ししようか」
「え・・・」
周りに誰もいない事を確認したのかジャックさんがキョロリと見まわした後、真剣な顔で私を見た。ちょっと嫌な予感・・・。
「君、この世界の人間じゃないね?」
キターーーー!!? てか何がキタのかわからんけどキターーー!!?
混乱しすぎデスネ、ハイ。
私が驚きのあまり固まっていると、ジャックさんは苦笑を浮かべて手をヒラヒラと振った。
「別にそれが悪いってわけじゃないからね? というか、半分はかまかけのつもりだったんだけど・・・その反応だと、図星?」
「・・・多分・・・そうだと思います」
私としては認めたくなかったんだけどネ!
心の中で叫びながらも頷くしかない私です。
ジャックさんは私がいた世界の事を聞きたがったので簡単に説明する。どうやらこっちの世界では機械は存在しないらしく、飛行機や船などの乗り物については少し興奮までしてたよ。
それからさっきの狼さんは獣人という亜人の一種らしい。亜人っていうのは人族以外の者の事らしいよ。この世界には見た目が動物に近い者の他に、エルフとかドワーフとかお伽噺でよくある妖精さんなどもいるらしい。私やジャックさんは人族になるんだろうね。獣人にもいろんな種族がいて、狼以外にも熊とか虎とかいるって。見てみたい気もするね。
「ジャックさんは、なんで私が異世界人だとわかったんですか?」
確かに私の格好はこっちの世界じゃあまりないものだと思う。でもそれだけで異世界人だとわかるとは思えない。
「それは---」
「おお、ジャックさんじゃないか」
ジャックさんが答えようと口を開いた時、後ろから年配の男性の声が聞こえてきた。振り向くとニコニコと優しそうな笑みを浮かべた老人が手を振っている。
「やあ、村長さん。一か月ぶりですね」
「もうそんなになるか。ついこの間のような気がするんじゃがのう」
ほっほっほ、と白い顎鬚をなでながら笑うお爺さん。体格が少しぽっちゃりしていて、私の頭の中でサンタクロース、という言葉が浮かぶのも無理からぬ姿だった。
「ところでこちらのお嬢さんはどなたかな?」
笑みに細められていた目が私を向く。人の良さそうなお爺さんだけど、目の色は鋭い。やっぱり村長さんなだけあって、部外者である私を警戒しているのかな。
「彼女はチホ。村長さんに彼女の事で話がありまして。詳しくは中で」
ジャックさんが真剣な顔で言う。それを見た村長さんも笑みを浮かべたまま小さく頷いた。・・・てか私の話でなんでこんなかたい空気に・・・?
首を傾げつつ、私は家の中に入っていく二人の後を追った。