プロローグ
夢現の更新をしたかったんですが、全然捗りません・・・。
新しい話が三つほど頭の中にあって、どうしても書きたい!とほっぽり出して新作です。ある程度書いたら夢現の続きを書こうとは思ってるんですが・・・たぶん(というか確実に?)遅くなります。
あと私が小説を書くと修正、修正と変わる事が多いので、この話も編集しまくりになると思います。その場合はなるべくあとがきに書くつもりです。
いらっしゃいませ。ようこそ、探しモノの館へ。こちらは貴方がお探しのモノを、占いで見つける手助けをする所でございます。それが‘物’でも‘者’でも、‘進むべき道標’でも、当方はあらゆるモノを見つけるお手伝いをさせていただきます。
青い色の布が垂れ下がった小さな天幕。傍らには小さな看板が置かれ、『探しモノの館』と綺麗な字で書かれてある。人が3、4人ほど入っただけでもぎゅうぎゅうになりそうなその天幕の中に入ると、中央に丸いテーブル、それを挟んで向かい合わせに置かれた椅子がある。そして片方の椅子には薄くてひらひらした布を身体に巻き付けた女性が座っていた。中には少しくたびれているものの肌触りの良さそうな服を着ているが。
女性はテーブルに何枚かのカードを並べ、余ったカードは脇に置き、一つ深呼吸すると一列に並んだ数枚のカードを順にめくっていった。
「・・・あ~、やっぱりこのカードかぁ」
絵柄を見て女性は物憂げに溜息を吐く。
「何度やっても結果は同じ、か」
ピラリと持っていたカードを放ると、女性は立ち上がって天幕の布をまくって空を見上げた。その際放り投げられたカードはテーブルには載らず、地面に落ちてしまった。絵柄は――『星』。
「異世界に来て一年かぁ。今までも色々あったけど、周りの人の助けもあってやってこられたんだし、これからもなんとかなるよね」
などと楽観的な事を呟きつつ、女性――加賀谷千穂――は過去の事に想いを馳せた。
物ごころついた頃には施設にいた私は両親の顔すら知らない。ある日施設の前に生まれたばかりの赤ん坊が置かれていて、それが私だった。周りは似たような子供ばかりだったし、いじめなどはなかったからそれなりに幸せだったと思う。でも高校を卒業したら施設を出なきゃいけなくて、大学に行く余裕もお金もなかった私は当然就職。まあ、最初から大学なんて行く気はなかったけど。
んで仕事はずっと前からやろうと思っていたものを選んだ。それは占い師。
まあ、これだけでやっていけるほど世間は甘くないって事は、嫌っていうほど知ってるけどね。
私は昔から勘が鋭くて、死期が近い人が分かったり、見ただけで「あ、この人これから嫌な目に遭う」と直感出来た。そしてお遊びで作ったタロットカードを使って占えばこれが結構当たる。施設の子達には預言者、なんてあだ名まで付けられたくらいだ。自分的にはおままごとの延長みたいな感じだったんだけど・・・。
タロットカード、なんて呼んでるけど、自作だから本当のタロットカードとはぜんぜん別物で、数は25枚。絵柄と意味は次のような感じ。
『北、南、西、東』←そのまま方角。
『人の身体』←一筆で描いたような簡単なもの。数字とセットで使う事がほとんど。
『ハート』←恋愛。
『ペン』←仕事。
『葉っぱ』←健康。
『星』←午後、運命。
『太陽』←午前。
『0~12の数字』←他のとセットで使う事が多い。
『○、×』←まるとばつ、勿論そのままの意味。
とまあ、小さい頃に作ったカードだからかなり大雑把。他の人がこのカードで占おうとしても無理だと思う。
ちなみにやり方は、まず数字以外のカードを気が済むまできりまくる。それを、相手が知りたい事を頭に思い浮かべながら横一列に3枚並べる。そして左側から順にめくり、絵柄を見ながら意味を読み取るのだ。本物のタロットカードのように正位置とか逆位置とかはない。この時私の直感も働かせて読み取るので、他人には無理なのだ。ほぼ私の勘任せな占いである。数字のカードは追加で占う時に使う。
例えば、相手が自分の未来を知りたいと言ったとする。占った結果、3枚のカードの絵柄は『星』、『葉っぱ』、『人の身体』と出た。まず星は運命、つまりこの後何かが起こる、と示している。次に葉っぱの意味は健康。次に人の身体と出ている時点で、怪我を負うか病気になるかもしれない、と示しているのだ(ここで私の直感が怪我か病気かを判断する。ここでは怪我としよう)。次は数字を使う(人体に上から数字を当てはめて考えているので)。『人の身体』のカードを左に置き、数字だけのカードをこれまた気が済むまできりまくる。その中から1枚抜き取り、出てきた数字が『1』なら頭、『2』なら首、『3』なら胴体、というふうにどこが悪くなるかが分かる。『1』が出たならば、総じて占いの結果は遠くない未来で頭に怪我を負う。いつ負うか、まで知りたいのなら更に数字のカードを使って占えばおおよその時間も分かる。
だが正確な占いが出来たからと言って、未来を変えられるのは本人だ。私はただ頭に気をつけるようにアドバイスするだけ。変えられなかったと文句を言われても私にはどうしようもない。
占いの内容が物探しなら方角や距離を示すカードが出るだろうし、内容によっては私の直感がほとんどの場合もあるので、信じる信じないは相手の勝手だ。
さて、こうして高校を出た後、占い師として生活しだした私。世間は甘くない、って分かってた。うん、分かってたよ、私は。なのに・・・
「あ、ここだよ。何でも言い当てる『預言者』がいるお店」
「ここかぁ。なんかシンプルなお店だね」
「でも雰囲気あるじゃん。小さなテントに小さな看板。ごてごてに飾った如何にも占い師です! て店より良いよ」
「だよね~。でもやっぱり人気があるだけあってすっごい行列。見てもらうの、時間かかりそうだね」
「しょうがないよ。それだけ占いが正確だって事なんだから」
何で繁盛してるんじゃい!?
外から聞こえる若い女性二人組の会話を聞きながら、私は心の中で叫んだ。
(普通占いなんて、って半信半疑で来るもんじゃないの? むしろ当たるわけねーだろ、って言われるもんじゃないの?)
一応参考にしようと思って昔、道端で占いをやっていた人から大きなお店を構えている占い師まで色々な人に占ってもらった。その際ちょっと仲良くなって愚痴っぽい事も聞いた。とくに多い相談事は恋愛関係で、まあお客さんが来てくれる事は嬉しいが、ほとんどの人が当たらないと思いこんで信じてくれないそうだ。だったら何故来るんだ、という疑問は占い師に訊いてもしょうがないので、喉の奥に呑み込んでおいた。
そんなワケで、占い師とバイトの二足の草鞋を覚悟していた私。
あの頃の私は若かったわ・・・
カードをきる手を休めず、心の中で呟いた。と言っても私はまだ22歳というピッチピチの美少女だけどね。え? 少女じゃないって? いいのよ、外見は若く見えるから。こらそこ、ただの童顔とか言わない。
占い師になって4年。最初は苦労したわよ。なかなかお客さんが来なくてどうしようって思った。でも気まぐれに来てくれた女の子から始まって、ぼちぼちお客さんが来るようになって。いつの間にか行列が出来ていた時はビックリし過ぎて心臓が止まるかと思った。何で? と思いお客さんに訊いてみたら、ネットのブログにこの店の事が書かれていたと。何と最初に来てくれた女の子はブログに占いが当たった! と書いていたようである。それを見た女の子がやって来て、更に的中した! と紹介してくれたと。
私は運が良かったのだという結論に達した。私の客第一号の女の子には頭が上がらないわ、うん。
とまあ、お客さんの占いをしている私だが、時には私自身を占う事もある。その内容によってはその後の行動が変わったりなんかもするけど、大抵は何の問題もなかった。カードで『星』が出ても運命なんて変えられるー、なんて楽観視して。それが、まさかあんな事になるとは思わなかった。