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占守湾の戦い

ハードが消し飛んで結果として一年近く放置した第三帝国です

新しく出直そうと思います。



――――まったく、どうしてこうなった?


幼い少女、否幼女にしか見えない少女が内心で悪態をついた。


確かに【魔界皇国】と【人類共和国連邦】の仲は元から悪いものであった。

私有財産を肯定する資本主義、かつ古くからの権威を尊重する立憲君主制度を掲げる皇国と、

個人の財産を完全否定する共産主義を崇拝し、君主など打倒すべき悪にすぎない共和国と考え方が違いすぎていた。


そして、何よりも【魔界皇国】は魔人を始めとする各人類種族によって構成される多人種国家で、

対する共和国は【偉大なる兄妹】の下で平等を謡いつつもその実ホモサピエンス以外の人種の権利はなきに等しかった。


イデオルギー以前に彼らが抱いている偏見は皇国との関係は悪化することはあれども改善されることはなく、

些細な領土紛争があっという間に炎上し、着上陸された挙句に敗退。


結果、彼女の眼の前に広がる光景は、幾多の戦記に描かれたように傷ついた兵士が生気を失った眼でのろのろと逃げる姿だ。

悪いことに通信によると間もなく我々を粉砕した戦車がやってくるそうで組織立って対抗できるのは自分たちだけと来た。


「くそ、」


少女は思う。


まずは精神の支柱が砕かれた彼らを振い立たせて敗残兵から兵士へと戻さねばならない。

のろのろと逃げていても、こんな開けた場所で戦車と出会えば一方的に蹂躙されるだけだ。


ああ、眼の前の敗残兵の姿といいまるで前世の第二次世界大戦における東部戦線だな。

指揮しているのは機動歩兵、分りやすくいうと機械化歩兵だがさながら自分はパンツァー・マイヤーか?


まったく何だって自分がその役を演じねばならないのか。

だいたいそんな話は観客として聞く分にはいいが舞台に立って演じるなんてまっぴらごめんだ。


だけど、現実は何時だって非情だ。

転生して既に20をとうに超えたと言うのに未だ幼女姿で戦場に挑んでいるのが今の自分だ。

まるで前世で読んでいた戦記物のラノベのようなシチュエーションだがこれが今の現実であり事実だ。


ちくしょう、どうしてこの世界に転生したんだ。

よくSSとか商業雑誌のテンプレとしてで出る、

転生トラックや都合のいい神様や天使、悪魔、死神に会った覚えはないというのに。

いや、あるいはそいつらがこの状況を観客として密かに楽しんでいるかもしれない。


くそ、誰だか知らないが絶対に生き残ってやる!

生き残ってそいつらにザマァー見ろと言ったあといつか絶対ぶん殴ってやる!


神やら何やらを殴ることができないのは知りつつも、彼女は行動に現状の最善を得るべく行動に移った。




※ ※ ※




世界統一歴939年6月17日、【魔界皇国】は突如戦争状態へと陥った。

かねてより、弧状列島の北にある北道島より更に北方の辺鄙な島々の領土を巡って争っていたが、

数日前、『人類共和国連邦』の観測船が北道島沿岸まで接近、無断で地形観測を始めたため現地の部隊が早期撤退を促したが、

対する返答は砲撃であり、現地の部隊が反撃したため皇国政府首脳部は俄かに緊張を高め、直ちに共和国に抗議したが黙殺されてしまう。


そして、17日早朝。

本国から本件に対する解決法がある、ついては近衛外務大臣にお会いしたいと共和国の大使が述べる。

これを聞いて、ようやく交渉の道筋ができたと安堵する外務大臣であったが、

いつもの尊大な態度を更に大きくした共和国の大使が高らかに宣言した。


曰く、本件における帝国主義の陰謀に対して『人類共和国連邦』は決して屈しない。

加えて、これまでの皇国における人類の弾圧と圧政に対して偉大なる兄妹は深く憂慮しており、

このたびの陰謀に対して偉大なる兄弟は皇国と断交することを人民議会の満場一致の賛同の下ついに決断した。

今後は尾崎同志を首相とする民主共和国を弧状列島における正当な政府と認定することをここに宣言する。

そして、不当な政府である皇国に対して人民解放軍は領土解放と共にここに宣戦を布告する。


そう宣告すると颯爽と部屋から去って行った。

これを聞いて近衛外務大臣はしばし呆然としていたが秘書の指摘でようやく我に帰り、

慌てて各閣僚に連絡したが、共和国は宣戦布告と同時に海軍の一大拠点であった桂島へ奇襲を敢行。

空母5隻から発艦された航空機による攻撃により戦艦5隻沈座を始めとして連合艦隊は大打撃を受ける。


続けて北方領土に人民解放軍が上陸を開始。

各守備隊は事前に設営された陣地に籠り持久戦に持ち込んでいるが、

スチームローラのごとく進撃する共和国軍に対してそれが何時までも通用するとは誰もが思っていなかった。


さらに、誰もが思っていなかったのは、

そうした辺境の島々だけでなく【人類共和国連邦】は本土4列島の内の1つ、北道島への着上陸をしたことだ。


占守湾で橋頭保を築いて上陸中。

この報告を受けた第5方面軍は稼働可能な部隊を動員して急きょ上陸地点まで移動を開始した。

この時動員された兵力は


第7歩兵師団

第11戦車連隊

独立混成第1連隊


であり、第5方面軍全体では平時では合計5個師団を有していたが、

機動力の低い歩兵師団という事もあるが、平時は基幹人員のみの配置としており、

常備型でなく戦時動員を前提とした師団であるため、即時反撃を強く望んだ司令官の意向もありこの場にはいない。

そして、これが正しい選択であったか後に議論の的になったが、現在もなお結論はでていない。


19日夜、第5方面軍は上陸地点付近まで進出。

独立混成第1旅団の偵察中隊が橋頭保の周囲にハリネズミのごとく堅牢な陣地を築いている。

と報告したが司令官、陸軍大将の田口正信大将は全兵力を以て海岸への突貫を命令した。


第11戦車連隊は突撃、第7師団はその後から前進。

独立混成第1連隊は側面から援護。


各部隊は命令を受理するとこの世界でも有数の練度を誇る皇国の動きは素早く、

奇襲効果と相まって共和国の警戒線を易々と突破、逃げまとう兵士を追い抜き海岸へ突貫してゆく。


見ろ!奴らは所詮部隊内で言葉も通じぬ寄せ集めではないか(人類共和国連邦の領域は広く多民族)!

我らが鍛えに鍛えた錬度と得意の夜襲を以てすれば、アカ共は尻尾を巻いて逃げるであろう。


そう司令部に楽観的な空気を漂わせ、早くも勝利祝いの酒すら用意されたが、

よく知られるようにこの戦いはこの夜の間に皇国の敗戦で終わった。


先手を撃たれたであった人民解放軍であったが、

例え即席でも帝政時代から陣地築城に定評があり、皇国の突貫は本当の防御陣地を前にしてとん挫した。


まるで無数の島嶼のように細かく設置された陣地には地雷原、砲兵弾幕地帯等と数えきれない程のキルゾーンが存在し、

皇国は陣地の隙間を見つけるとすかさず浸透を図ったが、前進すればするほど被害は大きくなり、

「砲兵は戦場の女神」と火力に対して信仰に近い程崇拝する人民解放軍のドクトリンと合わさって皇国の戦力は徐々にすりへってていった。

この陣地を報告した転生者が危惧していたことが現実となった瞬間であった。


パックフロントと呼ばれる防御陣地がある。

語源はドイツ語のパック(Pak=対戦車砲の略称)での名の通り対戦車戦術の通称で、

一つの目標に対して集中して射撃すること方法を指していた。


そもそも砲撃の命中率とは某軍神が述べた

「百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に勝る」といった技量に達することはありえず、

結局の所確率論の世界に大いに依存する、つまり弾を送り出す数が多ければ計算上命中する確率は比例するのであり、

史実のドイツは相手が大抵重戦車であったこともあり、確実に撃破するために一度に同一目標に叩きこむことで命中率を稼ごうとした。


が、現実世界において最も大規模にパックフロントを展開したのはソ連である。

動員された火砲の数もさることながら、陣地同士を線で結ばず島嶼状に独立して配置された陣地は、

例え孤立しても継戦能力を失わず、島嶼陣地同士に生まれる隙間も弱点ではなく事前に測量されたキルゾーンになり、実際の歴史において攻撃側のドイツに消耗を強いた。


こうした歴史を知っていた転生者は偵察した際に陣地の堅牢さを強く強調したが、

既に攻撃を開始している中では生き残ることが手いっぱいとなり、大局に流されるだけであった。


加えて攻撃を開始した時点で、夜の意義を失わせるほど大量の照明弾が打ち上げられ、夜襲の効果も失いつつあった。

それでも皇国でも勇猛で知られる第7歩兵師団は損害に構わず前進し、鬼人部隊の一部は師団本部まで強襲に成功する。

しかし、敵指揮官を討ち取ることに失敗しここで継戦能力を喪失。


戦車第11連隊も真正面から地雷原、

対戦車砲が待ち伏せる陣地へ突撃して池仲連隊長戦死を含めて壊滅。

櫛の歯が欠けるように戦力が減るもなお潰走しなかったのは皇国の軍隊としての練度の高さを見せたが、

沖合にいた解放軍の艦船からの艦砲射撃、さらには東から太陽が昇りだすと航空支援が加わり皇国側の司令部が爆撃され首脳部が消滅。


これにより浮足立つ皇国に止めを刺すべく、

アレキサンドルス・ミハイル・トゥハチェスキー上級大将は、

政治委員長の賛同を受けて切り札の第4赤衛装甲軍「解放」に地の果てまで追撃を命令。


装備から始め何もかもが優遇された師団でここぞという時を除けば投入されないため、

口さがない兵士からはただ飯食らい扱いされる彼らだが、この時は自身が精鋭で部隊あることは本物であることを証明した。


戦車のディーゼル機関が奏でる咆哮と、「ウラぁ」と戦車に跨った共和国の突撃歩兵の喚声が戦場を支配する。

すでに手ひどく叩かれ、司令部が吹き飛び統一された指揮ができぬまま蹂躙され、直ぐに潰走へと変化した。


己自身よりも大事にすべしと身体に覚えさせられた銃すら兵士は捨てて逃げまとい。

辛うじて撤退出来た独立混成第1連隊を除けば残りは地図から消滅と悲惨な結果をもたらした。

これにより第5方面軍の作戦指導について責任を追及する声が出たが当の本人は爆撃で名誉の戦死を遂げており、

挙げた拳の生き先に迷うと、奇襲攻撃を受けたことも含め誰に責任を被せるか中央官庁街で醜い闘争が繰り広げれれた。


対して北道島では、

なんとか動員できた歩兵師団の増員を受けて防衛線を張ることに成功したのが、

7日後のことでその間に300キロ近くも国土を明け渡さねばならなかった。


かき集めた兵力は3個歩兵師団。

1個師団の人員は15000~20000人程度で合計約5万の増援は正に天の恵みであったが、


人民解放軍は3個狙撃兵師団(歩兵師団)、1個海兵師団、

2個赤衛装甲師団、1個赤衛機械化狙撃兵師団と合計7個師団の兵力を以て侵攻中であった。


相手の兵力の3倍を有するものは必ず勝てる、

と定義するランチェスターの法則に忠実に従えば皇国軍に勝機はなく、正に絶体絶命の危機に瀕していた。


また、彼らの背後50キロには北道島の中心地、

転生者の感覚的には札幌に相当する都市があり敗北は即座に北道島の陥落を意味し、何が何でも守り通さねばならない。

だが、相手の兵力の数と守るべき土地の広さ、時間の少なさ、等といった要因で皇国軍では悲観的な空気が広がっていた。


さらなる増援が本土から派遣される予定であったが、

海では無制限通商破壊戦争を宣言した【人類共和国連邦】のせいで、

1個師団が丸ごと海の藻屑となる悲劇が起こるなど増援計画は遅れがちであった。


それでもなお、義務と責務を全うすべく現場は懸命に努力を重ねており、

その中には外見銀髪金眼のケモノ耳幼女な転生者も含まれており、今まさに最前線で戦っていた。



本作品は初めに


「大友の姫巫女」


でTS歴史ジャンルに関心を抱き。

「魔法少女リリカルなのはAnother Fucking Great」


で勘違い系幼女萌えに目覚め

「ファンタジーって中世多いよね、よしならば近代だ」

と閃いて書いてみました。


生温かく見守っていただけると幸いです

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