表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/82

6, 赤髪の刺客(3)

えぇっと、週一にするつもりでしたが、やはり不定期になりそうです。今回のように2日に一回くらいのペースもあれば、一週間に一回も出せないペースもあると思います。でわ、お楽しみください。

 自分の左目を押さえつける春樹。

 痛いわけじゃない、ただ、押さえつけたかっただけの話。


(まだ、まだばれてないはず)


 必死に何かを隠すように押さえつける。

 そのうち、押し続けているせいで、多少の痛みが眼球に走る。そこで、初めて手を離した。

 ふぅ、と一息ついて、先ほど由真が剥いて、いや、切り落としてくれた四角いりんごにかぶりつく。と、それに呼応するように、またもや扉が開く。

 春樹がそちらに目を向けると・・・。


「・・・・・・なっ!?」


 白衣の天使とは真逆、黒衣の悪魔が立っていた、というのが最もだろう。

 黒ローブの男が、扉の所にたたずんでいる。

 その存在をしかと確認した春樹は、痛みをこらえて立ち上がろうとするも、


「いってぇえ!?」


 大きな声を上げてうずくまってしまう。

 腹部の損傷はやはり軽いものではなかったようだ。まぁ、ナイフで刺されたのだから当然の話だが。

 黒ローブの男は、ゆっくりと春樹に近づく。

 その距離が縮まるごとに、恐怖感が増す。

 後十歩。後九歩。後八歩・・・・・・後二歩。後一歩。

 寸前で立ち止まり、男はフードの中から見えない視線を送ってくる。

 そして、袋を差し出した。


「・・・あ?」


 あまりに予想できなかった行動に、奇怪な声を上げる。


「忘れ物だ、受け取れ」


 疑心を持ちながら、その袋を受け取り、中を見てみる。


「・・・これ・・・・・・」


 果物ナイフであった。

 それも、あの時の戦いのものではなく、新しいものだ。

 形状は同じものの、数が十本きちんと入っている。戦ったときに三本使ったはずなので、そろっているはずがないのに。


「なんのつもりだよ、殺しに来たんじゃねぇのか?」


 警戒心は強めたまま、そう聞いた。


「殺すつもりであったなら、先の戦いでお前を殺してたはずだ。それくらい分かれ」


 冷たい言葉を言いながら、近くの壁に背を掛ける。

 その行動から、本当にどうやら戦うつもりはなさそうだと判断する。

 警戒心を一時解いて、春樹はゆっくりとベッドに腰掛けた。


「んで、なんのつもり?果物ナイフ持ってきてくれたのはありがたいけど、殺されかけた相手を目の前にして危機感感じれないわけねぇんだけど」


 確かな話である。

 いくら敵意を感じさせないとは言え、昨日の戦いの後であるのだ。馴れ馴れしくできるわけもない。


「特に用は無い。それを渡しに来ただけだ」


 嘘だと、春樹は思う。

 ならばなぜ壁に腰掛けているのかと、説明してもらいたいくらいだ。


「それと―――」


 男は続ける。


「それと、何だ?」


 やはりかというべく、春樹が聞く。


「『式』を、教えに来たというところか」


 春樹は、その聞いたことの無い固有名詞に首をかしげる。いや、なんだか一瞬聞いたことのあるような気分が脳内をかすめたような気もした。

 その春樹の様子を見た男は、つまり、と説明し始める。


「言うならば、お前は『式』が使えないせいでそんな貧弱な戦闘技術しか無いのだろうと、俺は睨んだ」


 正直な話、意味が分からないというのが今の現状である。

 式が何なのか分からない以上、それで春樹が弱くなっているというのは理解のし難いものである。


「『式』ってのは、一体なんだ?」

「説明するよりも、見せたほうが早い」


 そういうと、男は春樹と戦ったときに使ったのと同じナイフを取り出す。今良く見てみれば、そのナイフにも春樹と同じ紋章のようなものがついてるのが見えた。

 ナイフを握ると、男はおもむろに壁に突き刺した。


「なっ!?お前何してんだよ!」

「黙って見ていろ」


 男は突き刺したナイフを、抜かずにゆっくりと動かしていく。まるで何かを書いているようだった。いや、刻んでいるようだ。

 春樹がそれをじっと言われたとおりに見ていると、時折自分も知っている『文字』や『記号』が記されているようにも見えるも、ほとんどは頭のタンスにはないぐちゃぐちゃとした記号のようなものである。


「完成だ」


 男が終えて、そう言った。

 すると、だんだんとその『式』がなんなのかが壁に出てくる。


「・・・これは、一体・・・」


 感嘆の声を上げるしかなかった。

 壁が、透け始めたのだ。その光景は、幻でもなんでもなく、確実に透けていた。正面の病室の扉が、鮮明に目に写っている。

 だが男が壁に触れると、それは確かに壁の役割を果たしており、透けているだけで物体を貫通するわけではないことを証明する。


「今書いたのは、『透視』の式だ。つまり、物体を無色透明にすることができる」


 言葉だけでは信じられないが、今こうして目の前の壁が透けているので、信じるほか無かった。


「これじゃ、まるで魔法じゃねぇか・・・」

「ずいぶんとファンタジックな事だが、簡単に言ってしまえばそうだ。魔方陣を書き、それを発動させる原理はな。しかし―――」


 男が、自らの肯定の意を否定するように続ける。


「これには、確かな知識と、理論が必要になる」

「どういうことだ?」


 一度男は、透明化された壁を元に戻す。すると、先ほど刻んだ文字のようなものが浮かび上がる。


「これが、さっきの透視の効果を発動させたってのか?」


 予測して言う。


「その通りだ。この『式』はつまり、『透視』の効果を出す要素を記号によって繋げ、その式を完成させている」

「要素ってなんだ」

「透明、というものの定義は何だ?」


 男は問いを問いで返した。

 春樹は数秒考え、


「光が、通過して、そのもの自体が見えていないってことだよな?」


 それに満足げにうなずく男。


「物体は光を反射することによって、色というものを出している。つまりは、光との科学的相互作用を出さないことによって、その効果は出る」


 難しい言葉が多々でてきたもので、春樹は頭をかかえる。


「簡単に言ってしまうならば、ガラスの様な材質に変換してしまったというところか」


 そうして、ようやく春樹は理解する。


「まぁ、ここに金属要素を少し加えて見ると、マジックミラーのようなものを作り出すことも可能ではあるな」

「ん〜、つまりは、色々とその物体の原理や要素、材質とかを書いて、記号でそれを合わせたり無くしたりするわけか」

「そういうことだ。炎を出したければ、『酸素』や『摩擦などによる、激しい熱』などの要素が必要になってくる、このような感じだな」


 やっとのことで、互いの理解を得た二人。

 と、ここで驚きべきことが起こる。


「あ、文字が・・・」


 春樹がそう言った視線の先にある、壁に刻まれた文字が消えていったのだ。

 それを見た男は、まだ加える。


「忘れていた。『式』はなんでも書く事のできるものじゃない。鉛筆や、ただのナイフで刻み込んでも何も効果は出ない」


 そういうと、男は自分のナイフを春樹に見せる。ちょうど、紋章の部分を指差すと、


「これがついている物のみで、『式』の構成が可能だ。名称は『アクティブ・エンブレム』というのだが、ほとんど使われてはいないな」


 そこでようやく男が春樹を弱いと言った理由が分かった。

 春樹は、自分のナイフにも同じ紋章がついていたのを完全に脳内で確認した。


「つまりは、俺は『アクティブ・エンブレム』がついてる物を持っていながら、それを使えないからってことかよ・・・」


 それに頷く男。

 確かに、動きの素早さ、立ち回りの早さなど、春樹が決定的に劣っているところは戦闘中では確認できなかった。だからこそ、春樹は自分が負けた理由がよく分からず、苛ついていたのかもしれないと、自分で納得する。


「お前が昨日の戦いで負けたのは、その差だ。俺は『反射神経の向上』や『筋力向上』などを体に刻んでいたからな」


 そういわれれば、春樹の投刀をたやすくかわしたり、受け止めたりした理由が分かる。


「ってことは、あれか?お前と戦ってるときに、誰も気がつかなかったのも、『式』のせいだってのか?」


 最もな質問をする。

 事実、春樹の脳内では式とやらが物体の変換や、何かを作り出す力があるというのは理解できているが、昨日の「誰も気づかない」という事象については、全くといっていいほど理解できない。


「あれは、式の中でも特殊なものを使った」


 男が答える。さらに、男はローブのポケットから、万年筆のような物を取り出す。それにも紋章のようなものが付いていたが、微妙に違った。


「それは?」


 春樹が問う。


「これは、『クリエイション・エンブレム』という物だ。先ほどと同じ『式』を構成する物だが、こちらはこういうことが出来る」


 そういうと、男は突然空中にそれを走らせる。

 すると、万年筆が通った部分に、残像、いや、空中に文字を書いているという表現が正しい行為をする。


「よし、そのりんごを投げてみろ」


 男が、四角く出来たいびつなりんごを指差す。

 少し迷ったが、春樹はそれを手に取り、


「ほいよ」


 投げる。

 それは、くるくると回転しながら男の元へ・・・。

 スパパパパァン!!

 素晴らしく爽快な音と共に、りんごが空中で細切れになる。


「・・・・・・」


 ぽかんと口をあけ、それを見る春樹。


「これは、空間に生じている風を、最強に鋭利化したものだ。一度発動すると無くなるがな」

「今のが思う限り続くんだったら、それほど怖いものはねぇよ・・・」


 青ざめた顔でそう言うと、男もそうだな、と同感する。

 そして、先ほどの春樹の問いに対する答えを言う。


「つまり、お前が疑問に思っているものは『結界式』といって、空間に式を刻んで発動する特殊なものなんだ」

「空間にか、さっきみたいに物に刻む、えぇっと、地面とかに刻んでも出来そうじゃないか?」


 それに、男は少し考え、


「元々結界式は難しい要素を使う。相手に見られないこと、これではダメだ。つまり言うならば、その空間内にいない、ここまで出来なければならない」

「んーと、どういうことだ?」


 理解できなかったのか、春樹が問う。


「地に刻むと、それは地自体に効果が現れることになり、はたから見れば空中で戦っているように見える可能性がある、ということだ。だから空間に刻まなければならないのだ」

「あぁ、そうか」


 それでようやく理解する。

 男はナイフをしまうと、春樹が理解したと確認した後、言う。


「それで、お前の『アクティブ・エンブレム』はどこだ」

「あ・・・・・・」


 そういえば、持ち物全てが病院にいたときからないのに今頃気づく。

 恐らく信一たちが持ち帰ったのだろうと推測。

 だが、春樹はその前に確かめたいことを発見する。


「ってかまず、お前は一体何のためにそんなことをするわけ?」


ここを確かにしない限り、式を覚えたところで意味が無い。


「・・・・・・」


 あくまで黙秘にするつもりなのか、男は黙る。


「話さないってか。お前の話に夢中で忘れてたけど、殺そうとした人間をそう簡単に信用できるわけねぇだろって、さっき言ったよな?」


 言ってないような気がするが、似たようなことは言った。


「俺に、戦う術を教える理由を教えろ。今現在では、お前が俺を殺そうとしてないのは分かる。だが、理由が分からないままってのは納得いかねぇんだ」


 男はその問いに、数秒黙っていたが、


「・・・戦うためだ」


 答えた。

 支離滅裂しりめつれつだ、と春樹は思う。いや、実際戦うために戦う術を教えるというのはつじつまは合っているが、それでは質問の答えにはならない。

 戦うために、戦う術を教えるなんて事は、小学生でも分かる。そんなところだ。

 だが、雰囲気からそれ以上語ってくれないことを悟ると、春樹は問う気力も失せる。


「お前、名前はなんていうんだ」


 変わりにすごい一般的な質問をする。


「・・・・・・」


 これすら黙るというのか、とある意味感嘆する春樹。

 一度ため息をつくと、


「もういいや、とりあえず帰ってくれ。お前がいると警戒心の出しすぎで死ぬかもしれねぇから」


 男はそういわれると、ゆっくりと扉のほうに向かう。


潤目うるめだ」


 突然、男が口を開く。

 それは名前なのだろうと、春樹は思い、


「ん、分かった」


 それ以上問い出さなかった。

 潤目は扉から出て行った・・・はずだった。



ヴーヴーヴーヴー。

 突如、警報のブザーが鳴り出す。同時に病人にいる通院者たちが騒ぎ出す声が聞こえる。

 それに、春樹と潤目は急速かつ急激に警戒心を高めた。


「何が起きた!?」

「知らん。とりあえず俺はロビーに行く」

「なら、俺も!」


 体を起こそうとしたが、痛みでそれが止まる。


「お前はここにいろ。俺が見てくる、といっても、その後帰ってくる保障はないがな」


 潤目は、そういい残して病室を出る。


「んな、待ってられっかっての」


 春樹は痛む体に鞭打ち、起き上がると病室を後にした。




評価など、お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ