2, 政府襲撃(2)
えぇっと、きっとこれからは一週間に一度というペースで更新していくと思います。
というのも、推古を繰り返し行うことに決めたので、少しでも時間がほしいからです。
読者様には迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします。
どういう成り行きか、偶然出会った女性を家に招待することになってしまった春樹。
どういう成り行きか?と聞かれれば、一語一句間違わずに説明することは可能だが、あえて説明しないことにする。
場所は移って、現在地は春樹宅前。
電気が煌々と輝いているので、準は既に帰宅したと予測できる。
「ま、ここが俺の家だから、どうぞ上がっていきな」
と、言われた当の本人は、一人暮らし(実際には二人だが)である春樹の家を見て、驚嘆していた。
やはり常人から見ても、一人暮らしの人間が住む家にしては大きすぎると思うからだ。
そして、そんな驚きの表情をしていた由真を見て、それを不思議と思う春樹は横目に由真を見て、
「何か俺の家におかしいとこでもあるか?」
と、聞いてみる。
実際そんなこと聞かれても、「はいおかしいです」だなんて答えられる人間もいないと思うが。
「はい、おかしいです」
いた。
「・・・どこが?」
なんとなく失礼なやつだな、とか思いながら聞いてみる。
その言葉に、何気なく怒りの意が込められていたと悟った由真は、慌てて訂正しようとするが、
「あ、いえ、その、そうじゃなくて、家がおかしいのではなく、武藤さんの、その」
一体何を言おうとしているのか、言葉を詰まらせる。
なんだか聞くのがめんどくさくなった春樹は、もういいよ、と言って家に入る。
その後を追って、すいませんと謝りながら、由真がお邪魔する。
なんだかんだ言って、最終的には恐怖も不安も疑問も放置プレイしてしまっている、春樹であった。
「それ、本当なの?信ちゃん」
と、靴を脱いでいた春樹の耳に、突然聞きなれた準の声が入ってくる。
(信ちゃんって、信一もいるのか?)
なんとなく、信一の存在を疑問に思いながら脱靴作業を進める。
「うむ。治安維持機関の警報装置にしっかりと出ていたからな、間違いない」
(治安維持の警報装置?何かあったのかな)
春樹は、その会話の内容に興味を示し、そのまま立ち聞きすることに決めた。横では、その不可解な行動を首をかしげて見ている由真がいる。
由真にそこで待っていろ的な合図を出し、聞き耳を立てる。
「一体、どこの人間が何の目的で来たのかしら・・・」
「分からない。向こうのハッキングが強かったせいか、存在が確認されただけで、監視カメラも音声録音装置も、『情報強奪』の『式』を加えた『施錠式』も、全く役に立っていなかったからな」
と、春樹の知識の袋にはない、理解不能な言葉が信一の口から連発される。
だが、準にはそれが理解できるらしく、会話は進む。
「大体、『施錠式』をそうも簡単に、かつこんなに暗躍に開錠できる人って、いるわけ?」
「そうだな、外界の人間の技術は未知数だ。出来る人間も多々いるのかもしれん」
一体何の話をしているんだ。
施錠式?
外界の人間?
何もかもが、春樹の理解できるレベルでなかったことに腹が立ってきた。
今すぐにでも問いただしてやりたいと思う春樹だが、ここは少し我慢して、
「あの〜、どうしたんですか?」
とてつもなく春樹の意思を無視した音声が、耳に入る。
突然、由真が口を開いたのだ。しかも扉の向こう側にもろに聞こえる声で。
当然信一たちにその存在がばれ、
「誰だ!?」
足音から確実にこっちに向かっていることが分かる。
(やばっ!?)
春樹は、とりあえず立ち聞きしていたことを知られないために、猛スピードでバックダッシュし、由真をつれて玄関まで戻る。
バンッ!と、近所にもはた迷惑な音を立てるくらいの勢いで信一が扉をあける。
そして、信一と春樹の視線が一つに結ばれた。
「・・・・・・」
「・・・・・・よぉ」
苦笑いで、春樹は信一と対面した。
しかし、信一の視線は春樹ではなく、春樹の横で少しおびえたように信一を見ている、由真だった。
「・・・・・・」
信一は由真を凝視する。
その視線をもろに浴びる由真は、あたふたした様子で、
「・・・・・・ごめんなさい」
とりあえず謝る。
「あら、こんにちわ」
ひょこっと、準が信一の後ろから顔を出した。
「あ、こんにちわ」
律儀に挨拶を返す由真。
「ふむ、ちなみに言わせてもらえば、今の時間帯は「こんばんわ」が適切だと思うのだが」
信一が丁寧に間違いを指摘する。
そして、それを見た春樹はとりあえず準にこの現状を理解させるため、説明する。
「なんかこの子、不良みたいなのに襲われてて、んで今日どっかに行くあてがないらしいから泊めてやるって事になったんだけど、いいか?」
準は当然、といった様に笑顔でうなずく。
しかも、先ほどの会話の深刻さを忘れさせるような、完全に素で出ているような笑顔で。
と、準は何かを発見したような表情を見せた、かと思えば、またも笑顔に。
だが、なんとなくその笑顔に、怒りが見えているような気がするのは、きっと春樹だけだろう。原因は分からないが。
「それより、帰ってくるの遅かったじゃなぁい?」
原因はこれか、と春樹はとりあえず言い訳しながら謝ることにする。
「いやさ、さっきの説明で分かると思うけど、色々と巻き込まれちゃってさ。遅くなったことは謝るよ」
まぁ、由真のことを見れば許してくれるだろうと思った春樹の思考は、すぐ壊れることになる。
「いいよいいよ。で、何か忘れてない?春樹、手ぶらよねぇ」
・・・。
・・・・・・はっ!?
春樹は一世一代のピンチを迎えていることに感づいた。
そして、春樹の体はまさにこの世で一番恐ろしいものを見るような、そんな反応を見せる。
準は、もうそれは女神のような微笑みで、
「果物ナイフ、買ってきたよね?」
「はわわわわわわ・・・・・・」
恐怖にゆがむ春樹の顔を見て、微笑する信一は、
「ご臨終だな、凡人の神よ」
と言い残して、リビングへ戻るのであった。
その後、春樹は一度地獄を体験したという。
準の気が済んだ後、四人はとりあえず自己紹介を済ませ、本題に入ろうとしていた。
まず、信一の疑問から片付けることに。
信一の疑問は、以外にも最初に由真に向けられることとなった。
「私の疑問は簡単なことだ。なぜ、1stエリア外の人間が1stエリアにいるのか、ということだ。実際その蒼い瞳と髪は、染色などではあるまいな?」
そう、春樹も気づいてはいたが、1stエリアの住民はほぼすべての人間が黒い瞳と黒髪をしているのだ。他のエリアには蒼い髪をした人間もいるのだろうけれど、リンクロードを通って来たというならば、それは緊急事態だということを表す。
なので、ここに1stエリア以外の人間がいるということは、どんな状況であっても良い事態を想定することは出来ないのだ。
由真は、その信一の問いに答える。
「はい、染色なんかじゃありません。れっきとした地毛であり、瞳もそうです」
ふむ、ならばと一置き置いて、信一は問いを続ける。
「一体、どこの人間で、どういう理由で、どうやって入ってきたのか、詳細に話してもらおうか」
一気に聞きたいことを全て質問した。
春樹も準も、同じ疑問を持っていることだろう。
すると、由真は少しうつむいて、語り始めた。
「まず、私はここでいう外界から来た人間です・・・」
由真の語りを、要約するとこうなる。
まず、由真は外界から来た人間だということ。
そして、理由は外界の、ここで言う管理機関的な役割を果たす『政府』という組織が、このサークルエリアを滅ぼすかもしれない、というその政策を止めに来たという。
サークルエリアを滅ぼすかもしれないというのは、明確な確証があって言っていた。
由真が、知人から仕入れた情報によれば、現在外界は戦争中らしく、物資などに留まらず、生活必需品の入手でさえ困難な状況になっているという。それはこのサークルエリアを保持している国だけでなく、多くの国が同じ様に苦しんでいるという。
そこで、この国が取った政策が、このサークルエリア内にある『核』のエネルギーを使って、国を立て直そうというものであった。
そこまでは、外界の住民にとっては非常に助かる話なのだが、『核』が失われることによって出る被害、これが簡単に話を進められない重要な点であった。
『核』が失われることによって一番大きな被害が出る事、それはサークルエリアの崩壊であった。
サークルエリアは、以前信一の説明にもあったとおり、『核』を中心とする五都市のことを言う。そして、その五都市は『核』からのエネルギー供給によって、その現状を保てるので、 それが失われると全都市が崩壊する、つまりサークルエリア全体の崩壊に繋がるのだ。
一時は、政府もサークルエリア内の人民を外界に移動し、避難させるという方針を取っていたが、思った以上に全エリアの人口数が多いことに、それを廃止した。というのも、現在説明したとおり、戦争の惨禍にあるため、人口が急上昇しては国の崩壊に繋がりかねないからだ。
なので、サークルエリアの住人には極秘に行われていた。
そのため『SAMO』の配下にある、治安維持機関に属している信一にでさえ、その詳細が知らされることはなかったのだ。
そして、進入方法についてはいかにも簡単で、そういうセキュリティを潜るスペシャリストなどを用意していたという。由真はそれに便乗してきたらしい。
「・・・と、簡単に言ってしまうなら、私は外界からこのサークルエリアを救うために来たということです。まぁ、私情での成り行きでもありますが」
事細かに説明を終えた由真は、ふぅと休息を取るように体の力を抜く。
だが、体の緊張を解けるのは由真以外いなかった。
他三人においては、自分たちの住んでいた都市の崩壊を知らされたのだ。危機感を感じざるを得ないだろう。
信一においては、自らの情報網の弱さに軽い自虐に陥っているようだった。
「つまりは―――」
信一が顔を険にし、言う。
「政府の計画を阻止しなければ、我々サークルエリアの住民は一人残らず滅するということかね」
それにうなずく由真。
「ですが、政府はサークルエリアの特別な存在、そうですね、管理局局長くらいは助けるかもしれません」
「それはなぜだ?」
「はい。先ほど申し上げたように私たちの住む国は、現在戦争中です。なので管理局に勤めていた人間レベルの知識と、思考があれば、私たちも楽になる、と考えたのだと思います」
ずいぶんとご立派な推理だ、と信一は由真を過大評価する。
しかし、信一にとってそれは激しい憤慨に値した。
このサークルエリアが作られた、もともとの理由、そして現在においてもサークルエリアがあり続けている理由。それを踏まえて考えれると、信一は自らの怒りを抑えきれなくなる。
ドンッ!と、信一は強く机を叩く、いや殴った。
何かに敗北したような、非常に悔しい顔をする信一。
そんな信一の顔を見るのは初めてだった春樹と準は、事の重大さを嫌でも思い知らされる。
「ど、どうすんだよ?このままじゃ俺たち・・・」
助けを求めるがごとく、春樹が問う。
由真はそれに悲にゆがんだ表情で答える。
「言うだけなら、政府の行動を阻止できればいいだけなのですが。実際私はここのシステムのことはあまり知らないので・・・」
二人とも撃沈していた。
準は、じっと何かを待つように信一を見ている。
何かを期待するように、じっと見ている。
その期待を背中に背負いながら、信一は独自に思考を展開していた。
(つまり、『核』のエリアまでたどり着かれたら我々の負け)
最悪の事態をまず想定する。
(5thエリアまで侵入されては、正直もう手の打ちようがないな)
4thエリアまでは、『治安維持機関』のコントロールルームからでも操作することは可能だが、『核』と隣接している5thエリアは、5thエリアの『治安維持機関』もしくは『SAMO本部』からくらいじゃないと、どうにかできる手立てはなかった。
(ということは、我々はなんとしても4thまでに、相手の戦意喪失、もしくはそれを阻止するための完全な防衛術の敢行、最悪の場合、武力での解決を望まねばならんな)
信一には、それをする方法としては、いくつか考えがあった。
(だが、これを公にさらすのはまずい。一般都民に知られれば、たちまち都市は混乱に陥る。そしてそれを知った政府とやらは、恐らく強行手段に出るだろう)
一番隠密に行動でき、さらには即急かつ確実性のある対処法。
ふと、一つの方法が頭をよぎる。
「敵よりも、『ライフ』を早く手に入れること、か」
と、口にしてみる。
準は、それを待っていたかのように言葉を加える。
「つまり、敵の策略を手中に収めちゃおうってわけね」
それに信一はうなずくが、春樹と由真には全く理解できなかった。
その様子を悟って、信一は説明する。
「『ライフ』というのは、『核』の部屋に入るための鍵となる物だ。事実、SAMOの管理システムから『核』の部屋の鍵を開錠することは可能だが、そこまでする輩とは想定しないことにする」
つまり、と付け加えて、
「政府とやらも、恐らく極秘に進入しながら『ライフ』を集めるものと想定して、我々が動くのだ」
それでやっと春樹には理解できたらしく、納得する。
ここで、準が補足を加える。
「まぁ、これを僕たちがやろうっていうのは、あまり公にしちゃうと全面戦争が起きかねないからってことよ」
確かに、と補足にも納得する。
だが、信一はそれでもまだ考えることを止めない。
そうする理由は春樹にも分かっていた。
(信一の話は、あまりに仮定が多すぎだ)
政府が『ライフ』を目的として動かなかった場合、自分たちがやってきた行動が全て水の泡と化すことになるのだ。
なので、もっと確実性のある現状を把握してから動かなくてはならないということ。
「明日、私は治安維持機関から『SAMO』に連絡を取ってみる。それから我々がこれからどうすべきかを決めようではないか」
その提案に、皆はうなずいた。
とりあえずやることは決した、というように満場一致の雰囲気になる。
信一はそれを確認すると、あらぬことを提案しだす。
「とりあえず、今日の所は私もここに泊めさせてもらおう」
「なぜ!?」
素早く春樹が反応する。
「なぜ?と聞かれれば理由は明白。・・・気分だ」
「死ね」
これまた素早く反応。
それになぜか誇らしげに、フッと微笑する信一。
すると準がにやけ出して、信一に近寄る。
「照れないでいいよ!ボクと一緒に寝たいんでしょ〜」
一般男子だったら二秒でイエスしそうな声で、信一を誘惑するように言うも、
「邪魔だ、消えろ男女」
さっとあしらわれる。
すると、今度は標的が春樹に変わり、準が現在大好評?接近中。
「春樹ぃ〜、ボクと寝よぉ〜」
なんてまたもや健全な高校男児ならば光の速さで頷く声で、春樹を誘惑するように甘い声で言ってくる。
「・・・ぅ、だ、断固拒否だ」
何故か一瞬戸惑う春樹。
まぁさすがに準が『あれ』といえども、厳しいものがあるのは確かだ。
しかし、準の攻撃は止まることを知らず、微妙に由真にも攻撃をしかける。
「何よぉ、ユマユマと寝たいわけぇ?」
「・・・・・・ユマユマ」
由真にとっては、春樹と寝るというからかいよりも、ニックネームのほうが気になったらしい。
だが、困惑している由真に準は飛びつく。
「ならボクがユマユマと寝るしぃ」
と、怒ったように言った瞬間だった。
春樹と信一が、一世一代のピンチという風に、顔面蒼白になり、
「いやまて、俺が一緒に寝てやる」
「いやまちたまえ、私が寝てやろうではないか」
待ったをかけながら、同時に言い放つ。
すると準は上機嫌になったが、
「いいもぉ〜ん、もうユマユマと寝るって決めたから」
すると、由真は今頃になってその現状に気づき、
「・・・えぇ!?」
なんてアホらしい声を上げてみたり。
「準、落ち着け!お前が天宮寺さんと寝るのは非常にまずい。いや、だからと言って俺が寝てもまずいけどいやでもそれはそれでごにょごにょ・・・」
なんて有り得ない展開方式から妄想を始めたり。
「ふむ、というより一人で寝ろ。この凡人の妻が」
もっともらしい意見なのに、余計な言葉を加えたり。
「妻・・・(ぽっ)」
意味なく、いやあるかもだが照れてみたり。
「って、妻!?そして照れるな!」
激しく突っ込みを入れるが、時既に遅し。準は完全にどこかの世界へ旅立っているようだった。
さらに追い討ちをかけるように、由真が驚いた顔で言う。
「武藤さん、そのお歳でご結婚だなんて・・・」
「誤解しないで!?」
「うらやましいです!」
「うらやましいの!?」
何故か真っ赤になる由真を見て、今度は信一が、
「全くだ。ちなみに結婚制度では18歳から結婚可能だが、この凡人は17だ。まさに制度すら乗り越える、やはり神だな」
うんうんとうなずきながら、勝手に話を進めていく。
「法律すらもろともしない愛・・・。素敵です」
なんとなく、もうどうでもよくなってきた春樹は、
「あぁはいそうですよ、勝手にしろっての」
だなんて言ってしまったものだから、二人はわざとらしくガタガタと震えながら、汚いものを見るかのごとくおびえた目をする。
「き、貴様。本当にしていたとは。犯罪者だ、この穢れた妄想神め!」
「む、武藤さん。やっていいことと悪いことがあるかと思うんですが、私が間違っているのでしょうか・・・」
死んでしまいたい、なんてことを始めて思った春樹であった。
と、ごちゃごちゃしたやりとりを、これから1時間は続けるのだった。
ちなみに、上機嫌な準が作った夕ご飯が、有り得ない形となって食卓に並ぶことは、今の時点で誰も思いもしなかった。