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27, ライフの少女(2)

 両者そうして目を見合わせていた。驚きと同時に、春樹には喜びの感情もあった。

 目の前に、希信一がいた。

 手には何やら赤い判子が押された紙を持っており、それを堂々と学園長に見せ付けるような形でそれを顕示していた。


「久しぶりだな、武藤春樹よ。やっとここまで辿り着いたか」

「おかげさまでな。信一は何でまたすぐに3rdに?どうせなら一緒に2ndエリアのライフ集めんの手伝ってくれりゃよかったのに」


 信一は一度眼鏡を指で位置を直し、紙を折りたたむ。


「ふむ。まぁ効率を重視したまでだ。それよりも・・・」


 折りたたんだ紙を今度は学園長の目の前に差し出した。

 それを学園長が信一の目を一瞥してから開き、見る。


「捜索令状、か。まぁ予想していた展開だ」

「ならば話は早い。こちらの要求していたモノを出せ」


 学園長はしぶしぶといった感じで、机の中を漁る。

 そこからおもむろに何枚かの紙を取り出し、信一の前に置いた。だが信一はそれを取らず、数秒見つめたかと思えば学園長を見て言った。


「読め。当然だが一語一句違わずな」

「な・・・何故私がそんなことをしなければ」


 すると今度は春樹のほうを向く。


「この男の態度をどう思う。武藤春樹よ」


 突如質問を投げられた春樹は、どう言うべきか考えたが率直に述べた。


「調子に乗ってる」

「・・・だそうだ。さぁ、要求に応じろ」


 学園長は表情を強張らせ舌打ちし、紙を取って読み始める。


「第一の要求、『九条美香留の待遇の件』について」


 信一は腕を組みながら、その光景を見守る。

 春樹には、彼には既に答えが見えているように思えた。


「九条は現在17歳において、通常では考えられない待遇を受けている。それは政府指定の特例レベルの待遇である。・・・」


 そこで学園長が口を閉ざした。

 信一はあえて冷静に睨むような目付きで相手を見る。それに耐え切れなくなったのか、学園長は続きを読み始めた。


「く、九条美香留は・・・ライフの情報を取り込んだ人物であるためである」


 春樹にはその場が凍りついたように思えた。

 いや、信一には分かっていたのかもしれないから自分だけが凍ったのかもしれない。だが何にせよそれは驚くべき事実だった。

 あまりの話の繋がり方に、背筋に寒気を覚えた。


「ま、待ってくれ。ライフってのはこんな宝石みたいなのを言うんじゃないのか?」


 緑色の光を放つライフを取り出して見せた。

 それに学園長は首を振る。


「いや、ライフは情報の塊であるため形に規則性は無い。各エリアごとのライフの形は異なるであろう。たまたま2ndエリアのライフがそういう形であっただけだ」


 2ndエリアのリンクロード前のことを思い出した。

 白銀のパソコンに届いたメールの内容だ。あれには、ライフは政府の手に渡ったと記載されていた。

 形が一定ではないのであれば、推理通りミリアが複製やら何やらしなくとも入れ替えることは可能なのではないのか。

 だがそうすると疑問に残るのがカイツだ。彼はライフの道を案内してくれた。ということは最悪そこに行ったことがあるということだ。

 つまり、一度はライフを見ている。

 やはりこれは本物なのか。

 ここで信一が口を挟んだ。


「その件についてはもういい。次に移れ」


 学園長が二枚目の紙を読み始める。


「新任教師、ダムン・デルファの個人情報について。・・・と言いたいところだが、これにおいてはこちらも不明なのだ」

「ほう。嘘は許されんぞ、どうなんだ」

「嘘ではない。先ほどそこの青年にも言った通りこちらもそういった人物は任命したくはないのだが、政府の命令では逆らえんのだよ」


 信一が春樹を見たため、春樹はそれは確かだという意を込めて頷いた。


「ふむ。第三の件、ライフの所在地については先ほどの内容を信用すればいい話か」


 学園長も春樹同様首の動きで肯定の意を示す。


「つまり話は繋がった。九条美香留がライフを取り込んでいるという人物だということは、この学園と政府が繋がっていることから政府側が認知していて間違いないだろう。そして今回の計画のため、政府の人間が九条美香留が誘拐したと。そして今回の計画に便乗か、もしくは計画のために派遣されたのがダムン・デルファ。と、こういうことだな」


 信一は一通り言い切ると、何かを考えるように黙ってしまう。

 春樹もその見解には納得がいった。

 だが、今回の件は政府と学園側が関わっていると言っても、学園長の話し通りほぼ強制的なものが多い。協力関係にあるとは言えないだろう。


(しかしライフを取り込んでいる少女か・・・。一体何をどうやってそんな)


 疑問は残るが、とりあえず二人の話を聞くことにする。


「可能性は否定できないが、しかしだな、私どもとしてもいくら政府の命令と言えども九条美香留を誘拐するというのはあまり気持ちよくは無い。あのような待遇であっても学園生に変わりは無いからな」


 それが学園長の思いなのだろう。

 信一は思考を止める。


「だが覚えておくと良い。私たちは恐らくこれから九条美香留の件と、ダムン・デルファにおいて何らかの対策、行動を取る。そして当来の目的がライフであるため、九条美香留はどちらにせよ受け渡してもらうことになる」

「そこに、本人の意思の尊重は無いのか・・・?」


 信一は表情一つ変えない。無理をしているようにも見えない。

 ただ、冷淡に言い放つ。


「権力の前には無力だな」


 それはあまりに酷い現実だが、現状を考えれば仕方がないと割り切るしかないことだった。事実、ライフを手に入れなければ九条美香留云々のことよりもさらに酷い事態へと発展してしまう。多少の犠牲は付き物だ、なんて言葉を使う日が来るとは春樹も思わなかった。

 信一が言葉を続ける。


「とりあえずライフの情報を抜き出す方法については後にしよう。春樹、白鳥準と天宮寺由真はどうした?」

「あ、あぁ。お前を探しに外で動き回ってると思う。リンクロードの前に集合ってことになってるから、行けば会えると思うけど」


 部屋にあった大きな時計を見てみる。

 そろそろ30分が経とうとしていた。恐らくここから歩いていけば、ちょうど出くわすくらいのタイミングとなるだろう。

 それを信一に伝えると、一体何に納得したのかふむ、と頷いてから春樹に言う。


「私が二人に会ってくる。武藤春樹、お前はここで学園長殿の話を聞いて行動を開始してもらいたいのだが」

「・・・は?」

「学園長殿、先ほどの話しはこれで通ったも同然だ。協力は惜しみなくということでいいな?」


 学園長は一度ため息をつく。だが、それに落胆の色はそれほど見られなかった。

 恐らくこうなる事態は予想できていたのだろうと思う。


「どうせ捜索令状を持ってくるのは予想がついていた。だが、ここは治安維持機関ではない。対した戦力は供給できないし、恐らく君たちと比べれば雑魚と呼ぶにも躊躇われるほどだろうが、それでもいいのならば」


 協力か、と春樹は納得した。

 地理感などに詳しい人物がいれば、それだけで捜索する幅は大きく広がる。そういうことを見通して信一が事前に頼んでおいたのだろう。


「問題ない。必要なのは能力ではなく人数だ。今回の件、誘拐というだけあってかなり大掛かりな行動が必要になる。それに政府が絡んできているとなると、恐らく一筋縄ではどうにもならんだろうしな」


 信一の言いたいことは分かる。

 つまり、政府と学園側が繋がっているのにも関わらず、政府側は九条を許可を貰う、最悪何らかの報告をしてから連れて行くのではなく、全てを暗躍に進めるべく誘拐という手段を取った。

 暗躍。そうだ、外界とサークルエリア内の人々にあまりこのことが伝わっていないように、やはり政府は事を秘密で通すつもりでいる。

 そして今回の件。多方面からの攻撃、つまりは大人数での行動が得策とも思えたのだ。

 学園長が机からふと電話を取り出した。ここには通信機器があるらしい。


「・・・あー、教頭先生。彼のほうは・・・ええ、そうですか。分かりました。では、お願いします。はい、では」


 ピッと軽快な音を鳴らして、電話を切る。

 それを見て、信一が終わったな、と言って学園長室の扉に手をかける。


「武藤春樹、話は学園長殿から聞いておけ。私は二人を迎えに行くと同時にこちらも動きを始める」

「了解。じゃ、また後で」


 うむ、とだけ言って、信一は部屋を後にした。

 視線を学園長に戻すと、とりあえず春樹はその作戦なのか何なのかは知らないが、信一の言う何かを聞いてみる。

 学園長の話によれば、信一と二手に別れて九条美香留探しとダムン・デルファの実態を調べるらしい。こちら側は学園側の援軍を受け、九条を探すということ。

 春樹はその後学園長から先ほど見せてもらった九条の顔写真と、その他の情報が記載されたものを手にして援軍が受けられるという指定の場所へと向かうことになった。


「恐らく戦闘云々でも、頭脳戦でも役には立たないと思うが、参加を希望したのが彼だけでな。日比谷怜ひびやれいという君と同年代の男子生徒だ。髪の毛を無造作に立てているからすぐに分かるだろう」


 渡された地図と、対象の人物の情報が書かれた紙を少し見て、それを折りたたんだ。


「じゃあ、何かあったらまた来ますんで」


 そう言って、学園長室を後にした。





 静寂が流れる。

 学園長はそれを待っていたかのようにタイミングを計り、先ほど使った電話のボタンをいくつか押した。


 ―――プルルルルル。


 相手が出たのか、音が止む。


「私だが、報告だ。治安維持機関の人間が君のことを探っている。・・・九条は、君の元か?・・・何?神堂?まぁいい。そういうことだ。では、切るぞ」


 ため息と同時に出たのは、罪悪感だった。




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