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23, 任務完了(1)

 カイツを先頭とし、そこから由真、準、白銀、黄金、春樹の順に2ndエリアと3rdエリアを繋ぐリンクロードへと向かっていた。

 道中、春樹は昨日潤目にと会話した内容が気になって仕方が無かったが、誰にも相談する勇気も無くただ悩みふけていた。

 草木を踏む音が足音と一定で重なり、思考をよりクリアなものへとしていく。いわゆるリズムを利用した催眠みたいなのもであろう。視界に広がる緑一色の光景もまた効果を引き出す材料となるだろう。


「おい春樹」


 突如、前方の一つ結びにされた金髪を揺らす男、つまり黄金が後ろ歩きで話しかけて来る。


「・・・・・・」

「いや無視?無視なわけ?おいこら無視かよてめぇ。無視?まだ無視?いい加減にしねぇと叫ぶぞ?俺はシスコンだって」

「叫んでくれ」

「俺はシス・・・ふごっ!?」


 白銀の鉄拳が黄金の脊髄に飛ぶ。クリティカルヒットで黄金は息を詰まらせ悪い意味の汗を浮かべると、その後誇らしげに表情を苦にし言う。


「妹劣等感・・・」


 春樹は数秒を見下すようにして黄金を見ていたが・・・。


「で、話は何だ?」


 今までの行動はこれこそ無視の方向で、黄金の話に付き合うことにした。

 黄金は悪魔でも見るような畏怖に怯えた表情を一瞬浮かべるが、すぐに立ち直って吹くの砂を払って春樹の横を歩く。


「てめぇ、オレの精神操作を解いたんだって?一応感謝しておくぜ」


 手を合わせて拝むようにしてくる。

 とは言われたものの、春樹は確かに黄金を助けた覚えはあるがその経路がやはり昨日の記憶通り分からないでいた。この『結果』だけ知っていて『経過』が分からないのがどうしても気分をもやもやにさせてやり切れない精神状態に陥る。

 これが昨日潤目が言っていたことなのだろうかと思う。


「あぁ、超感謝しろ」


 とりあえず受け取っておく。


「よし、今日から兄貴と呼ばせてくれ」

「断る」

「じゃあ姉貴」

「何で!?性別ちげぇだろ!?」

「うっせぇなぁ。じゃあ嫁でいい、これでいこう」

「お前は変態か?ゲイか?」

「シスコンだ」


 真顔で言ってくる。

 もはや突っ込む気すら失せたので、とりあえず再び思考を展開することにする。思ったが、最近思考の回りが良いような気がすると春樹は思う。

 昨日のことは棚に上げるが、物事の理解力といいなんといい、信一や準と日常生活を過ごしていた頃とは全くのものだと。


(まぁ、別にいいけどな)


 疲れた脳を休めるために一度息を大きく吐き、先頭のカイツを見るとタイミングよくカイツがこちらを向いて言った。


「よし、ついたぞ」


 森が開けた。

 1stエリア同様、その場所だけ隔離されたかのようにスペースが開けられており、普段から見えているはずなのに近くに行かなければその存在に気が付かない。だが、一歩踏み出せばその存在感の大きさに圧迫されて息すらままならなくなる不可思議な存在。

 苔やツタで覆われたその巨大な扉は、立ちはだかるようにそこにあった。

 だが、今回はその光景にまがい物が存在した。

 そこにいる全員が立ち止まりそのまがい物の正体を見る。一つは春樹にも見覚えがあった。

 赤髪でもみあげが長く、そしてあのふざけたようにぶかぶかした服。どこの国のものかは知らないが刺繍された紋章。

 1stエリアリンクロード前でも襲ってきた由真の許婚のいる国の人間。

 もう一人は見覚えの無い美麗な金髪を揺らし、横に大剣を携える人物。


「あはは。やっとお出ましかい」


 赤髪の男がこちらに気付いて、腰掛けていた壁から身を離し後ろ手に組む。

 その声を聴いてか、金髪の男も顔を上げこちらを見た。そして、固まった。その表情には驚きと歓喜と安堵と、様々なものが混じっていたように思えた。

 そして口を開いたのは、意外にも由真だった。


「あ、アイズさん・・・」

「・・・由真、由真なんだな?」


 アイズがこちらにゆったりと寄ってくる。特に誰もそれを咎めも止めもせず、光景を見守っていた。赤髪の男も後ろで武器を構えるわけでもなく控えている、

 後一歩の距離まで迫ると、由真がアイズを見上げて表情を曇らせて言う。


「どうしてここに?私はきちんとアイズさんに事情を説明したはずですけど」


 怒りにもよく似た険悪感を漂わせていた。

 が、アイズはそんなものどうってことはないと言うようにその目を真っ直ぐと見て言う。


「由真、王家へ戻れ。こんなところに君はいるべきじゃない」

「こんな所とは?ここはとても素晴らしい所です。そんな中傷的な発言は許しませんよ」


 手を広げて見せ、周りの風景を見るようにと促すようにして言う。が、当然そんなことなど興味の欠片も無いといった様子で由真から視線を離さないアイズ。


「そんなことを言っているわけじゃないのは分かっているだろう?ここはいずれ君の国の政府の計画によって崩壊する。そんな危険な所にいるんじゃないと言っている。それに君には行政の仕事も沢山残っているはずだ。油を売っている暇なんてありはしないぞ」


 アイズが言いたいことなど由真には当然分かっていた。

 が、肯定するわけにもいかなかった。


「そういうアイズさんだって、王政を放っておいてこんな所まで油を売りに来てるではないですか。アイズさんこそ帰ったらどうです?」


 半分喧嘩腰にもなっていたかもしれない。目付きを険に光らせ、アイズを脅すような態度で言い放つ。

 アイズは特にその態度に怖気づくわけでもなく、ただ一回ため息を吐いてから疑問を含めて言い返した。


「僕のことはどうでもいい。・・・ふぅ、まぁ予想はしていたけれどね。一体何をどうすれば帰ってきてくれるんだ?」


 妥協したようだった。

 事実赤髪の男の上司的存在ならば、1stエリアでの出来事は当然耳に入っているはず。このような事態になることは想定済みであっただろう。

 しかし由真はアイズの態度に少々の驚きを覚えたのか、一瞬どうするべきかたじろいだ。


「え、えと、だから私は目的を達成するまでは・・・」

「なら目的が早く達成できれば、早く帰ってくるんだね?」


 由真の言葉を遮ってアイズが確認するように言う。その目は本気であった。

 人を目力で押す、という行為があるがまさにそれである。

 由真は強制的で無いにしろ、半突発的にそれに頷いた。

 それに満足したのか、よし、と一つ言葉を残してから後ろにいる赤髪の男のほうを振り向いた。


「アイツァー、その例の知人を助けるのを手伝ってやってくれないか?」


 アイツァー。春樹を含め、他の三人は初めて男の名を聞いた。そして、そこで最も反応を示したのは意外も意外である人物、カイツであった。

 アイツァーがアイズの問いに対して答える前に、カイツがアイツァーに言った。


「アイツァー・ランフォードか?」


 するとアイツァーは何故、といったように不可解な表情をする。当然アイツァーはカイツを見たことも無ければ、名前を聞いたことも無いだろう。

 と思ったのはただの春樹の思い違いであった。

 アイツァーはその問いに対して、あえての冷静な答えを示しながらさらに言う。


「そうさぁ。んで、アンタはカイツ・アルベルト、か」


 何かを懐かしむような途方にくれた顔。

 この歳の離れた二人に一体どのような接点があるのか春樹は気になったが、口を出すべきところではないと準と共に黙りこくっていた。


「何だアイツァー。知り合いか?」

「いんやぁ、ただ噂で聞いた格好と似てたから適当に名前言ってみただけさぁ。向こうもそんな感じだろ」

「そうなのか。で、それでいいな?由真」


 問いの方向を由真に変える。

 由真は少々考えに耽っていたが、考えがまとまらなかったのか春樹と準の方を見る。


「私の独断では決められません。武藤さん、準さん、どうでしょうか?」


 問いのたらい回しであった。

 春樹は思考を巡らす。

 それは人数が多いに越したことは無い。それも由真の知人であり、話を聞く限りではどこぞの王族の人間であると言う。赤髪の男も十分戦力となるし、メリットを考えれば幾らでも出てきそうであった。

 逆にデメリットを探してもなかなか出てこない。が、考えても見ればそれ以前に由真の話を完全信用していいかどうかに論点がある。天宮寺王家云々の問題で、やはり政府を動かすにおいて天宮寺家が関わっていないはずがないのだ。三大貴族の中でも最高権力所有者である家系を差し置いて行動など出来るはずが無い。

 それに、このアイズとかいう男の言動を信用していいのかも怪しい。事実、由真の婚約者無いしその程度くらいの関係はありそうに見える。しかし、王政を放っておくほどの問題であるのだろうか。

 そしてあの側近であるアイツァー。病院を襲い、潤目を出し抜き1stエリアリンクロード前では春樹自身が完全敗北を味わい、さらには信一を相手にして目の前で無傷で立っている。何故そこまでの強硬手段に出なければならないのか。独断なのか命令なのかも分からない。

 しかし何よりの問題は、


「信一の計画だから、あいつに聞いてみないことには・・・」


 今や消息すらつかめない人物の名前を出す。

 するとアイツァーが苦笑いして言う。


「あはは。あの眼鏡君かぁ〜。アイツなら多分3rdエリアに行ったさぁ」

「3rd?何でまた」


 と、横から準が口を挟んでくる。


「多分2ndエリアをボクたちに任せて先に行ったんじゃないかな?時は一刻を争うわけだし」

「あぁ納得。したらどうすっか?協力を得られるのはすげぇ嬉しいが・・・」


 嬉しいが、信用性に欠けるというのは言葉に出さなかった。


「なら僕らは僕らでその例の知人とやらの居場所を突き止める。それでいいだろう?」


 それくらいならば、と春樹はそれに頷いた。

 事実由真がここにいるのはあまり相応しくないと思うのは春樹も同じであった。何より疑いたくは無いが様々なことに疑問が残るのが一つと、女性というのがやはり危険な立場にいるべきでないというのが二点。

 そう考えると早急に見つけてもらい、帰ってもらうのが得策かもしれないと思ったからだ。


「では由真、その知人の名前を教えてくれないか?」

「・・・え?」


 予想だにしてなかったのかどうなのか、由真は変な声を上げて問い返す。


「だから名前を教えてくれと言っている。その方が情報が仕入れやすいからな」


 だが由真は一向に答えようとしない。

 ただ口ごもってええと、それは、あの、などと繰り返している。

 特に気にすることではないのでは、と春樹は思った。そこまでして知人の事を知られたくないのだろうか。

 以前病室で春樹が聞いたときも、『知り合い』などと曖昧な言葉を使い関係も明白にはしなかった。が、恐らくの予想はついている。

 予想通りであれば、まぁアイズに話したがらない理由も分かる。

 突然、準が前に躍り出てアイズの目の前に立って言う。


「忘れちゃったんだよユマユマは。もう10年以上前のことだし、覚えていたら色々なところに聞きに回ってるでしょ?それなら1stエリアに留まって調査でもしてるもん」


 その事には全く頭が回らなかった春樹だが、言われてみれば納得できる。

 別にサークルエリアを彼女は救いに来たわけではない。ただ、知人の命を心配して来たついでにサークルエリア崩壊について関わっているだけの話だ。

 ただ、そう言う準の顔には少し無理が見え隠れしていたような気がした。

 アイズも納得したのか、それ以上は名前について問わなかったが変わりに外見と性格を聞いてきた。


「男性で、黒髪黒目、あんまり正義正しいような雰囲気の人ではありませんでした」


 あまりに抽象的だが、それでも無いよりはましだとアイズは言う。


「アイツァー、とりあえず聞き込みがしやすい1stに戻ろうか」


 するとアイツァーはばつが悪そうに頭を掻き、さらには頭を下げて言う。


「ん、すまねぇけどさぁ俺様まだここに用事があんだわ。先に行っててくれると嬉しいんだけどさぁ。いいか?」


 とても王家に向ける言葉遣いとは思えない。気軽な感じで両手を合わせて態度を示した。

 アイズも少し悩んだ末、それを了承した。


「待てよ、1stに戻るためにはリンクロードを通っていかなきゃいけないだろ?あそこはパスワードみたいなのがいるんじゃ・・・ってかまず、お前どうやってここに」

「あの馬鹿でかい扉なら僕が破壊してしまった。まぁ一段落ついたら修理に向かうとするよ。だから帰るのはその壊れた扉を通ればいい話だ」

「ま、マジかよ・・・」


 この目の前にたたずむ圧倒的な存在感を目の前にし、怖気づかずに剣で叩き斬ったというのだろうか。にわかには信じられる話ではないが、こうしてここにいるのだから真実なのだろう。アイツァーといいアイズといい、外界の人間の実力が計り知れないことを思い知った。

 アイズはそう言うと、おもむろに横に立てかけてあった大剣を取り、歩き出した。


「では僕は。・・・由真」


 歩き始めたかと思えば、すぐに由真の方を振り返った。

 視線を合わせる。瞳の熱さは無いが、十分に傍から見れば良い雰囲気といったところか。


「僕に任せておけ」


 真摯な割には男性としてたくましい体つきが、なんとも信頼感をかもし出していた。

 それに由真は笑顔で頷いて、金髪の王子を見送った。

 それに続いてアイツァーもふらふらとこちらに向かってくる。そして、カイツの目の前で立ち止まった。

 だが、特に何か言うわけでもなく森の中に姿を溶け込ませていった。


「さて、ボクたちも3rdエリアに向かおうか」


 準が仕切りなおすようにして言う。懐から1stと同様のカードを取り出し、壁に押し当てた。

 その瞬間だった。


 ―――ピピッ。


 静かな空間に乾いた機械音が流れる。

 不吉の予兆はいつも突然やってくる。

 それは、もはや今まで体験してきた教訓であった。だが、どうにもならないのが現実である。

 三人は金剛地兄妹の方を見て、その正体に興味を抱いた。




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