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1st area 始動・彼らの日常

 朝は必ずやってくる。

 どんな時でもやってくる。

 例えどこかに爆弾が投下されようが、どこかで車の正面衝突事故が起きようが、どこぞの公園で誰かがいじめられていようが、誰かが犬の糞を誤って踏んでしまってもだ。

 そんな日常茶飯事な毎日を送る中でかかせない、というか欠くことがどうしても出来ない朝は、今日もやってきた。

 朝日というのは、なぜか人間の起床において重要な役割を果たす。目を閉じていても、なぜかまぶしい朝の太陽光線。

 それはよっぽどな閉鎖空間でなければ、どこの家にも差し込む光。

 例えば、学生を営んでいる彼の家にも、朝日は差し込んでくるのだ。

 よくあるアニメの寝ぼすけ主人公のように、頭から丸々布団をかぶっていなかった彼は、そのまぶたを貫通して襲撃してくる光線に、目を開けざるを得なかった。


「・・・んぁ」


 瞼貫通性強力光線を遮断すべく、彼は手で瞼を覆う。

 しかし、木漏れ日ともいえる微妙な日の光にじれったくなった彼は、不満ながらも身体を起こすことに決めた。


「・・・・・・」


 ベッドに腰掛け、誰が見ても『眠い』というワードが浮かびそうな顔で、数秒無意識になる。

 おもむろに、左目を少しこする。そして、目を開けてみる。


「・・・・・・」


 ぼやけて、自分の部屋が写っている。白い壁に絨毯の引かれた床。どこにでもありそうな木造の家財一式。自分の部屋だ。

 そして、ふと言葉にした第一声は、


「マジねみぃ・・・」





 とりあえず常人レベルとはかけ離れた遅さで制服に着替え、ひとつあくびをしてみる。彼の常人並みの身長が、フルに伸びる。整っているはずの顔立ちも、いまや眠気で崩れまくっている。黒い髪の毛を適当にいじった後、右目をこすった。

 と、彼の目があるものを捉える。

 机の上に放置してあるにしては、非常に危ない物。鈍色に光り、朝日を反射してその刀身を輝かせている。


「・・・一応、持っていくかな」


 彼は、机に置いてあったサバイバルナイフを手に取り、手馴れた手つきで鞘に収めて腰に巻く。

 これをつけるのも、もう習慣のようなものであり護身用として持ち歩いているということに自分で言っているが、物心ついたときには持っていたものなので実際の使い道は不明だ。

 家事用のナイフにしては刃渡りが長く、軍事用にしては短く、そしてあまりに特徴的な部分が、質素であるが目立つ装飾。どこぞの有名な家系が大切に保管しているようなものについている紋章が、そのナイフにはついていた。

 まぁ、実際それを使ったことはほとんどないので、ある意味があるのか分からない。


 ―――ということにしていた。




 彼は、のろのろした足取りで階段を下りる。

 考えてみれば、一応一人暮らしの彼の家にしては、何気に大きな家だ。

 階段をすべて攻略した彼は、そのままの足取りでリビングと呼ばれる部屋にたどりつき、普段通りに椅子に座り、大きな声で発声。


「飯ぃ〜・・・」


 大きくはあるが、全く生気を感じさせないだるだるした声。

 すると、その声に反応するように、奥のキッチンから声が返ってきた。


「はいはいただいま〜」


 声質としては完全に少女のような、透き通ったきれいな声。朝日と同時に、舞い降りた天使のような声。

 そして、登場したその人の容姿は端麗、服装は一般女子高生の制服、ストレートにまとめられた長い茶の混じった黒髪、すべてから予想しても女性である人が、朝ごはんを持って出てきた。


「もぉ〜、朝からだるだるだね、春樹は!」


 春樹とは対照的に元気一杯と叫びたくなるような可愛らしい声で、そう言う。

 だが春樹と呼ばれた彼は、そんなことお構いなしに朝ごはんを空になっている胃に詰め込んでいく。

 相変わらず美味い、と思ったがあえて口にしない春樹。


「どうどう?ボクの料理おいしい?」


 期待しているように春樹を覗き込んでくる。

 とりあえず思ったことをしまっておいて、他のことを口にする。


「まぁ、朝飯はサンクスだけど、その服装はノーサンクスだな」


 と、言われた彼女は自分の服装を見る。

 何の異常もないと言いたい所だが、あまりに似合いすぎたその女子用制服は、異常と言ってもいいだろう。

 だが、春樹が言いたいのはそんなことではなかった。

 もっと、そう、既に人間としてやってはいけないのではないだろうかと思うレベルの過ちを、彼女は犯していた。

 しばらくその過ちを見ていた春樹だが、なんかもう、どうでもよくなってきて事を言うのをやめた。


「ま、慣れたけどね」


 朝ごはんを食べ終わって、箸を置くと同時に春樹は席を立つ。


「あ、ちょっと待って春樹」

「ん?」


 呼び止める声に反応して、振り向く。


「果物ナイフが刃こぼれしちゃってさぁ、ちょっと買ってきてくれないかな?」


 ふぅ、とため息をついて、OKサインを出す。


「ありがと!」


 そう言って、彼女は二階に上がっていった。



 それを見送った後、玄関に差し掛かる。

 と、突然ドアが開く。


「おはよう諸君。良い朝を過ごしているかね」


 同時に声と人が入ってくる。

 しかし、春樹は完全無視の方向で靴を履き始める。


武藤春樹むとうはるきではないかね、こんなところで会うとは奇遇だな。きっと神の起こした奇跡に違いない、凡人のな」


 無視している春樹の行動を無視して、その長身痩躯ちょうしんそうく、そして眼鏡がチャームポイントな彼が言う。同じ黒髪で髪の毛をどこぞのサラリーマンのように固めている彼は、春樹の同級生でありながら歳は一つ上に見えるほどの顔立ちだ。


「何が奇遇だ、そして奇跡だ。人の家に無断で入ってきて言う言葉がそれか、希信一のぞみしんいち君よ」


 わざと信一と同じように、フルネームで丁寧に呼んでみる。

 ふむ、と信一は納得したようなしぐさして、春樹に問うた。


「まぁそれはどうでもいい。白鳥準しらとりじゅんはどこにいる」


 春樹は、全てを流された敗北感を味わいながら、立ち上がって答える。


「二階で用意してるよ。ってか、お前今日は学校行けるのか」

「うむ、今日はSAMOの仕事は入ってないからな」

「そうか。久しぶりだな、お前と学校行くのも」


こつこつ、と靴を足に入れて、春樹はそうだ、と付け加える。


「SAMOって、どんな仕事してるわけ?」


 すると、信一は今頃かというように、少しため息する。

 信一は説明し始める。


「SAMO、通称総合区域管理機構。いわゆるこの閉鎖世界『サークルエリア』の親玉機関だな」



『サークルエリア』は、ひとつの超巨大なドームの中に創設された、ひとつの世界のことを言う。コアと呼ばれる巨大エネルギー体を中心とし、五つの都市が輪を描くように広がっている。

 広がっていると言っても、その五つの都市は、各それぞれ「〜〜エリア」と呼ばれ、春樹たちが住むエリアは一番目の都市、『1stエリア』と呼ばれている。

 エリアを移動する際には、『リンクロード』と呼ばれる道を通り、他のエリアへと移動する。

 だが、そのリンクロードの入り口は、固く閉ざされており、緊急事態以外では移動できないようになっていた。

 SAMOは、その各エリアごとに司令部が設置されており、そのエリアを統合する役割を持っている。そのSAMOの機関は様々で、特に信一が入っている「治安維持機関」においては軽く戦闘機関でもあったりして、危険な事象に対する機関もある。

 そして、主に「治安維持機関」では、主に警察的な仕事、特殊な事件の解決、外界、いわゆるこのサークルエリア外からくる侵入者の排除まで、幅広く仕事を行っている。



「・・・と、このような感じだ」


 聞くのも面倒くさくなるような内容を、適当に頭に詰め込んで、春樹は納得する。


「まぁ、なんか大変なんだな、お前も」


 はて、と信一は一置き置いて、


「『も』とはなんだね。貴様のような毎日外見だけ美少女かもしれない恐ろしい人間と同居し、うはうは言ってる凡人の神は平和に暮らし、平和に死んでいくだけだ。一緒にしてもらうわけにはいかんな」


 少しの静寂。

 何故か馬鹿にされた気があまりしない春樹だったが、理由は明白だ。

 後方からの殺気が、それを物語っていた。


「信ちゃぁぁん?その、外見だけ美少女かもしれない恐ろしい人間って、誰のことかなぁ?」


 春樹は、恐る恐る振り返る。

 笑顔は無くなっていないが、どうにも違和感がある笑顔、というか青筋立ってる。天使の笑顔も、いまや悪魔の微笑みへと、凶変を遂げていた。

 ふむ、と振り向いた後の後方から聞きなれた声。

 この声も、ある意味危険度最大値の声。なんといっても天使を悪魔に変える力があるのだから、納得。


「私が思うに、このサークルエリア内外統合して照合してみても、白鳥準という外見だけ見れば少し美少女に見えないこともないが、内面を良く観察してみれば驚愕の事実を述べなければならないという大いなる失態を犯している人間以外のどのヒト科の生物にも当てはまらないと思うのだが、どうだろうか」

「・・・むかーーーーー!!!」


 と、さすがに来たのか準はわめきながら信一に襲い掛かった。

 それを器用に押さえ込み、高笑いする信一。

 彼女の体質を、そんな風に非難していいのだろうかと思うが、信一の辞書にはきっと『親しき仲にも礼儀あり』という言葉が欠落しているのだろうと、無理矢理納得した。

 そんな光景を横目に見ながら、春樹は学校へと旅立とうとしていた。

 こんな日常を過ごしながら、春樹は悲劇へと旅立つ時間を送っているとも知らずに。


「いやー、今日もいい天気だ」


 なんとなく、そんなことを言ってみたりした、一日の始まり。







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