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14, 狂獣の牙(2)

 白銀のビットに危険人物を察知した後、三人はすぐさま2ndエリアの扉へとやってきた。途中、白銀がビットを破壊されたのか倒れてしまったが、準と由真がかついでなんとかここまでやってきたのだ。

 ビットが破壊されたということは、恐らく戦闘をしているか、もしくはこちらの警戒を読み取っての行動か。距離があるので追いつくことはなかったが、危険性は高まるばかりであった。


「ちょっと待ってね」


 準が扉の前で二人に制止をかける。

 懐から先ほどのカードを取り出し、同じように扉に当ててペンで何かを書いていく。


「それは、『開錠式』ですか。良くそんなものを知っていますね」


 いつの間にやら、白銀が意識を取り戻していた。

 準はそのことに驚きながらも、ペンを走らせることは止めずに白銀に言葉を返した。


「これは・・・信ちゃんにもしものために教わってたんだよ」

「もしも、ですか。『開錠式』は軽いピッキングにも使用できる式で、法律では使用は禁止されているはずですが。いえ、特殊な地位にいる方は必要不可欠とみなされ、使用を許可されているそうですけど、政府の戦闘部隊である私でもそれは教わっていませんよ」


 棘があるような言い方で、順にそう言った。

 白銀は、準が普通の人間ではないと睨んでいた。というのも、まず一般人が式を使える時点で疑問を抱かざるを得ない。


(それに、先の戦闘で使った『地柱』です。1本の制御ならまだしも、3本を同時発生、さらには私のビットにピンポイントで直撃をさせる精密さ。常人では出来ませんね)


 準は白銀の言葉に返答をしないが、その表情には少々の焦りが見えたような気がした。


「ふぅ、出来たよ」


 ペンを走らせるのを止め、扉から一歩後退する。

 すると、扉は一瞬光ったかと思えば轟音を立てて開き始めた。その光景を見るのは二度目であるが、由真は圧巻せずにはいられないようで、ポカンと口をあけている。

 そんな由真を微笑ましくも見ながら、準は歩を進め、


「じゃぁ、行ってみよー!」


 2ndエリアの地へ、足を踏み入れた。











「うわー」

「わぁー」

「これは・・・」


 見っとも無いような、感嘆の声が三人同時に上がる。

 三人が見たのは、見渡す限りの大自然。いや、もはや密林地帯と言うべきなのだろうか。熱帯雨林のような湿った空気ではないものの草木の種類は様々、地面は茶色というよりも黒に近いような色をしているのだが、それすらも地から草々と生えた緑に覆いつくされている。

 空を見ようとすれば、多い茂る葉に木漏れ日のようになって日の日差しが差し込んでる。

 一言で形容するならば、『綺麗』『美しい』などに限るだろう。

 しばし呆けていたが、白銀が自我を取り戻して言う。


「と、とにかくどこか身を隠せるような所を探しましょう。ここにいては見つかるのも時間の問題です」

「ん、そうだね。どこかいいとこないかなーっていっても、樹しか見えない・・・」

「・・・少し歩きましょう」


 由真に肩を借りながら、少し歩いてみることしようと思ったが、その時だった。


「おたくら、何してんだ?」


 突如、横方向から声がした。

 それに反応し、白銀が反射的に由真から離れて構える。が、その構えは瞬時にして解かれた。その声の持ち主の姿が・・・。


「おじいさん・・・?」


 答えは由真が口にした。

 実際はおじいさんというよりも、中年のオヤジといったところであろう。髭は無造作に生やされていて、髪の毛もオールバックにはしているが整えられている形跡は微塵も見られない。実際の歳はどうかは分からないが、見た目は四十代いってそうである。


「おじいさんとは失敬な。『おじさん』とおじさんのことは呼んでくれ」


 自らの事をおじさんと呼ぶのだから、それが相応だろう。


「んで、こんなところで何してんだおたくら?こんな物騒な所に女の子三人で危ないぞ」


 話し方などから悪い人でないことは分かった。

 それを踏まえて白銀が口を開いた。


「強いて言えば、悪漢に襲われそうになっていたところですね」

「そうなの!?」


 準が珍しく突っ込むと、白銀は淡々と語りだした。


「そうです。森の中で数人の男たちに囲まれ襲われたのです。やめてくださいと懇願するもむなしく、男たちは次々と私たちの衣服に手をかけていきます。しかし!そこに現れた正義の男、金剛地黄金兄さんが自分を身代わりに私たちを救ってくれたのです!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 唖然。

 熱く語っている時も冷徹な表情は変わらなかったが、なんとも奇怪な出鱈目を述べたものだとある意味圧巻に値した。


(しかも兄さんが正義の男って、もしかしてブラコン・・・)


 あらぬことを考えてしまう由真。いや、有り得る話ではあるが。


「それは大変だったな。さぞかし兄さんとやらは素晴らしい奴なんだな。しかしなんだ、ここは危ないから早く立ち去ったほうがいいさ」


 が、その瞬間だった。

 突如として周りの木々が騒ぎ出すようにざわめく。ざわめいているにも関わらず、それ以上の静寂がその場を支配していた。

 ―――何かが来る。

 白銀とおじさんは同時に思考めぐらせる。


「ほれ、言わんこっちゃ無い。ここはおじさんに任せて下がってな」


 そう言うと、おじさんは懐から二丁拳銃を取り出す。

 それを見た白銀は、疑問の意を込めて聞いてみる。


「それは・・・」


 だがそれを遮って、


「あぁ、おじさんは猟師やってんだ。武器は持ってて当然だろ?」

「・・・そうですね」


 白銀は、言われたとおりに準と由真がいる扉付近まで下がった。言われたとおり、というよりも白銀はおじさんの二丁拳銃に見覚えがあるような気がして、それを確かめるために下がった。

 と、気配の正体が姿を現す。複数の姿は、ある動物の形をしていた。


「・・・犬さん、でしょうか?」


 由真が見たままの感想を述べる。


「半分正解ってとこだな。よ〜く見てみるといい、どう見ても普通の犬さんじゃないぞ」


 由真はもう一度その姿を確認する。

 やはりパッと見、犬以外には思えないが確かに良く見てみれば、その犬は必要以上に口から涎を垂らし、毛は全て逆立ち、何よりその眼光が妖しい雰囲気をかもし出していた。

 つまり言うところの、


「あれは、『狂犬マッドドック』だ。最近あんな感じの動物が多くなってきてな、おじさんも困ってるんだよ」


 確かに見てみれば、餌を目の前にした狂犬たちの目は人間で言う殺しの目をしている。一般人がどうにかできる代物でないのは一目瞭然だった。

 狂犬たちが、じりじりとおじさんとの距離を詰めていく。距離が縮まるごとに緊迫感が増し、とても人間と動物の争いとは思えないほどの圧迫感がその場に満ちた。

 おじさんは拳銃の銃口を狂犬に向け、引き金を引いた。


 ドンッ!ドンッ!


 鈍い轟音が鳴り響く。


「キャーゥーン!」


 二発とも同じ狂犬に命中し、それは耳鳴りがするような泣き声を発し、鮮血を巻き上げて地に伏した。

 だが、それに反応してすぐに他の狂犬がおじさんに飛びつく。

 それを人間のわざとは思えない速さで次の弾丸を充填し、射撃した。それは当然のように狂犬に直撃し、一匹目と同じように地に伏す。

 そこからはおじさんの一人舞台のようであった。次々と数に限りが無いかと思うくらいの狂犬が飛び出してくるが、精密な射撃に成す術なく鮮血を噴出していく。傍から見ている三人にとっては、紅い薔薇が舞っているかのごとく見えて、もはや華麗と形容せざるを得なかった。


「・・・ふぅ」


 全ての狂犬を完膚なきまでに撃ち殺し、拳銃を懐にしまうおじさん。

 ここで、白銀が数ある死体を踏まないように進みながら、おじさんに問うた。


「あなた、一体何者ですか」


 その表情は険に変わっていた。

 おじさんはまいったなというように、頭をぼりぼりと掻いて、


「う〜ん。おじさんのことはあまり追求しないで欲しい。これでも昔はちょっとした護衛団やってたもんでね」

「護衛団・・・。分かりました、追求は止めます。では、少しお聞きしたいことがあるのですが」

「なんだい?」


 一瞬だけ白銀は準に視線を配らせた。


「ここの付近に、隠れる場所は無いでしょうか?先ほどの話は嘘ですけど、実際身を隠さなければならないのは事実なのです」

「う、嘘だったのかぁ・・・。おじさん少し信じてしまったよ」


案外抜けている人なのだろう、と白銀は思った。


「それはそうと、隠れるところか。・・・うん、おじさんの家でよければかくまうけど、どうだ?」

「そうですね・・・」


 このおじさんの近くにいれば、恐らく危険度は限りなく下がるであろう。今の戦闘を見た限りでは先ほどのビットに引っかかった人物とも釣り合いが取れるかもしれない。

 それに、行動拠点を手に入れることが出来れば、今後の行動がしやすくなるのではないだろうかと、白銀はそのおじさんの提案から利点をたたき出した。


「分かりました。ご協力に感謝します。失礼ですが、お名前は?こちらは金剛地白銀といいます」


 ここで、準と由真も自己紹介をする。


「ボクは白鳥準だよ。よろしく!」

「えと、天宮寺由真です」

「・・・なんだって?」


 と、おじさんから予想もしなかった言葉が飛び出した。疑問の意を示したのである。

 しかしその真意が分からず、顔を見合わせる三人。

 その姿を見て、気づいたように表情を元に戻す。


「あぁ、すまない。おじさんの名前は、カイツ・アルベルトってもんだ。よろしく頼むよ」

「では、早速ですいませんが、こんな死体の山の近くには長居したくないものでして、案内をお願いします」


 ふとそこらを見回すと、犬の死体がそこら中に転がっていた。先ほどの華麗な薔薇のような鮮血とは違い、どす黒い血の色をしている。


「じゃ、おじさんに付いてきてくれ」

「嫌です」


 いきなり、由真が口を開いた。

 その言葉によって場の雰囲気が一気に険悪なものになる。由真の表情は真剣そのもので、風が彼女の髪をなびかせると戦場に赴く勇者のような威厳をも感じさせる、そんな堂々とした雰囲気を出していた。

 白銀が不思議そうに由真に聞いた。


「どうしましたか?」

「・・・あ、いえ、ごめんなさい!私の家では、知らないおじさんに付いていってはいけないと教わったもので、つい・・・」

(案外子供なんだ・・・)


 三人同時にまた由真の新しい部分を知った日であった。





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