13, 狂獣の牙(1)
この話は、白銀sideでお送りしております。
ブツッ。
白銀が通信していたビットがそんな音を立てて終わりを告げた。二人から見ても、その光景はあまりに近未来的というか、羨ましがるような光景だった。
まさに羨ましがるがごとく、準は目をキラキラさせてその光景を見ている。その熱い視線を直に感じた白銀は、ビットをとりあえず消した。
「わぁ・・・」
「・・・・・・」
どうにもやりにくい。
由真においては、それを苦笑いで見守っている。
白銀の事は、由真は同じ外界からの人間だったので多少は知っていたようだったことが、先ほど分かっていた。白銀が由真を知っているのは、当然のことである。
「しかし―――」
白銀が二人のほうを見て、口を開いた。
「どうやら兄さんの話に寄れば、二人とも2ndエリアに偶然飛ばされているようです。幸運でもありますが、何しろあの鬱蒼とした密林の中です。開けた場所にでも出なければビットによる交信も不可能でしょう。それでも私と行動をともにし、探しますか?」
睨みつけるような目で、聞いてきた。
準はそんなこともお構い無しに、爽快な笑顔でそれに答えた。
「当然だよ!白っちの玉はすごいし、ボクたちも助かるもん。そっちが良かったら是非って感じだよぉ」
その言葉に、微妙に眉間にしわを寄せて、数秒考えたように顎に手を置き、
「新しい『たまごっ○』の種類ですか。育つといいですね」
「違うよ!?ニックネームだよ!?」
「却下です」
それに有無を問わずといった感じで即効でそれを却下する。
「じゃあ白たん?」
「きっと純白の洋服を着た電波系少女なんですね。可愛くなさそうです」
「白ぽん?」
「新開発のぽん酢ですか。一体何味なのか予想もつきません」
「針金?」
「ついに固有名詞を引用してきましたか。チクチクしそうです」
「ガネガネ」
「金の亡者みたいですね」
「シローン?」
「シローンの逆襲・・・売れませんね」
「白」
「色ですね。それがどうかしましたか?」
「白ろろろー」
「もはや意味不明です。死んでください」
「・・・ぽは〜〜」
流石にネタ切れなのか、準の口から魂が抜けたようにぽわーっと何かが出てきそうになっている。それを由真が慌てて準に詰め込んだ。
一仕事終えた人のように、やりきった表情を浮かべる白銀。多少その表情には笑みがこぼれてしまった。
それをすかさず現世に舞い戻った準が指摘した。
「あぁ!白銀ちゃんが笑ったよ!」
「・・・・・・」
しまったとでも言うように、口を塞いで表情を隠そうとするが、もやは手遅れである。
準がうれしそうに飛び跳ねながら白銀に飛びつき、傍から見れば少し気持ち悪いほどにほほを摺り寄せてきた。実際白銀は気持ち悪がっている。
白銀は襲い来る汚物を取り払うようにしながら、バイブレーション付きノートパソコンの反応に気づいた。
「少しどいて下さい。情報強奪が発動しました」
すると、その言葉に一瞬表情を固まらせ、ゆっくりと白銀から身を離した。
白銀はパソコンを開き、式によって強奪した情報を確認していく。準と由真が、後ろから覗き込んだ。
一応準と由真も、多少の知識はあったので『情報強奪』の式がどのようなものなのかは理解していた。
『情報強奪』の式は、刻んだ場所を通過した物体の情報を大まかに強奪してしまうものである。それには、このノートパソコンのような式が記録されている物が必要となってくるが、ただ物体に式を刻んでおけばいいので、特に技術は必要としない。大きな企業がセキュリティに使うのは大概この式である。
白銀がパソコンをいじると、人物像が四人浮かんできた。
「・・・・・・え」
ふと、由真が声をもらす。
その声を不思議に思ってか、準が由真に問う。
「どうしたの?誰か知ってる人でも・・・って信ちゃん!?」
その名簿の中には、確かに『希信一』の名前が記載されていた。だが、信一がここに来るというのは由真がこんなに反応するほど驚愕には値しない。何しろ追いつくと宣言したのだから。
もう一度準は、ざっと名簿を見渡すが、知っている名前は一つしかない。
いや、ここで準までもが画面に釘付けとなった。
「武藤・・・冬樹?」
記されていた名前には、そう書いてあった。
しかし、そんなこともお構い無しに由真が突然白銀のパソコンをいじりだした。
「ちょっと、何をするんですか」
「お願いです、この人の情報をもっと詳細に・・・」
そう言って詳細を表示したのは『アイズ・フォン・アザーアイズ』という名前だった。
白銀はそれを不振に思いながらも、由真の言われたとおりに詳細を次々と表示していった。
それを本当に釘を刺したように凝視する由真。
「アイズさん・・・どうして・・・」
言葉がまた漏れるが、視線だけは一点として画面に向かっていた。だが、その目は何故か心配そうでもありまた、悲しい目をしていた。
ここで、白銀がパソコンをいじるのを止め、表情を曇らせる。
「まずいですね。アイズ・フォン・アザーアイズの国の刺客である、アイツァー・ランフォードも同行しているようです」
その人物の情報を画面に表す。
準が見ると、それは朝リンクロードに入る前に現れた赤髪の男だった。あの強敵がこちらに向かっている、と考えると白銀が言った言葉にも納得できた。
「それに、これは『四季』ですか。ミリアの情報に間違いは無かったということですか・・・」
その言葉には首をかしげる準。
「ねぇ、四季って何?あの、春夏秋冬の四季?」
その疑問に、一瞬だけ白銀は準を見て、画面に再び視線を移して答える。
「そのようなものですよ。案外、知らないほうが良いかもしれませんのでここは伏せて」
「むぅ、教えてくれたっていいじゃん」
「拗ねても無駄です。世渡りが上手くなるためには、時に手を引くことも重要ですよ」
そこで、唖然としている由真を放っておいてパソコンを閉じる白銀。由真をさりげなくパソコンで叩き起こし、二人に真剣なまなざしで話を始める。
「私が知っている限りでは、相手が悪すぎます。アイツァー・ランフォードは過去に一国家殺戮の経歴を持っていますし、アイズ様においては剣術の達人として名が高い。他は未知数ですが、彼らと同じところにいるということは相当な実力者のはず。私たちが相手にする敵としてはあまりに不釣合い、悪い意味でです。つまり私たちが取るべき行動は―――」
準も由真も大体は予想がついているだろう。
白銀が、由真に視線を送って次の言葉を催促した。それに頷いて、由真はつぶやくように言葉をこぼした。
「逃げたほうが、良さそう・・・なのかな」
その曖昧な言葉に白銀は不服だったのか、それを訂正する形で言葉を紡いだ。
「良さそう、ではなく逃げるのです。私たちの選択肢に彼らとの遭遇は絶対的に含まれません。あなたがアイズ様とどのような関わりがあるか知りませんが、ここは退かなくてはなりません。分かりましたか?」
それにうつむいたまま答えない由真。
準はそれを見て、うつむいた由真の顔を下からの覗き込む様にして言った。
「ユマユマ、何があったか知らないけれどもボクも白銀ちゃんと同意見だよ。赤髪の男の実力は見たでしょ?春樹はあんなだったけど、本当は王国の上級騎士団よりも遥かに強いんだよ。だから、ボクたちじゃ無理なのは分かるよね?」
しかし一向に由真は肯定の意を示さない。
由真は顔を上げて、むしろそれを否定しに入った。
「で、でも、アイズさんが一緒なら話が通じるかもしれないですし・・・」
「却下します」
それを考える時間も使わずに即効に却下する。
そのまま言葉を続けた。
「あなたがどういったご関係かは知りません。ですが、まだ信用するに値しないのでここはとにかく2ndエリアに早く行くべきです。兄さんたちと合流してから、彼らのことは考えましょう」
「・・・・・・分かりました」
その返答に満足したのか、白銀は準に視線を走らせてから言う。
「では、もうすぐですので向かいましょう」
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