2nd area 始動・彼らの思惑
えぇと、ちょい予定より更新が遅れてしまいました;
これから気をつけたいと思います。
巨大な扉が圧倒的な存在感を漂わせている最中、四人の男がそこにいた。
はたから見れば、ずいぶんと特殊な組み合わせである。
眼鏡をかけた閉鎖空間の治安を守っている青年。
赤髪でだぼだぼした服を着ている極秘任務専用の男。
黒ローブで頭から脛まで覆っている謎の人。
そして、金色に輝く髪を持ち、大剣を背中に抱える若き王。
彼ら四人は、きれいに正方形を描くように対峙していた。
「何をしに来た、アイズ」
眼鏡の青年が表情を怒りとも思わせる厳しい顔で王に言い放つ。
それに優しく微笑みかけるように答える。
「僕は、ただ彼女を救いに来ただけだ。アイツァーの行動が思ったよりもうまくいかなかったらしくてね。慌てて駆けつけてきたんだ」
赤髪の男がそれに笑って言う。
「あはは。連絡した覚えはないんだけどさぁ〜、俺様の信用って低ランクってぇ?」
「貴様に信用などあるものか。ふざけている」
眼鏡の青年は怒りを隠せない様子である。
だが、それにいきなり真剣なまなざしになる赤髪。
「ふざけてんのは、そこの黒い人じゃねぇか?」
会話の矛先が、黒ローブの男に向けられる。
黒ローブの男は、先ほどから話を聞くのみで会話に加わろうとはしなかった。こうして振られたとしても黙っているばかりである。
「全くよ〜、俺様たちの戦いに水差しやがってぇ」
怒っているのか笑っているのか分からない。
現状を説明するならばこうだ。
春樹達を扉の向こう側へと押しやった後、しばらく戦闘を続けていた青年と赤髪の男。どちらも一歩も譲らない戦いではあった。
しかし途中、突如黒ローブの男の乱入によって止められてしまったのだ。
ここで、王も矛先を黒ローブの男に変える。
「君は一体何の目的でここにいる。僕たちの話を聞いているということは、君も政府の計画に関係のある考えを持っているのだろう?アイツァーの邪魔をした意図は分からないが、それも君の計画の内ということかい?」
すると、黒ローブの男が初めて口を開く。
「俺がお前たちに話すことなど何もない。ただ俺は、目の前で戦っている人間を放置しなかっただけの話だ」
ここで眼鏡の青年までもが、黒ローブの男に問いをかける。
「貴様が武藤春樹の言っていた男か。一体何者だ?『赤眼』の私を止め、さらにはこのふざけた男まで制するとは」
その青年の問いにも答える。
「何者も無い。お前たちが本気を出せば俺も止めることは難しかっただろう。なんだ?お前たち二人は本気を出さずとも勝てる相手だと見込んで戦っていたのか?ならばお前たちこそ何者だと俺は聞きたい」
黒ローブの男の意見は通っている。
黒ローブの男は、一度赤髪の男と戦闘していた。そして、危うくも引き分けという形で終わったのだ。だが、それを相手にしてこの眼鏡の青年は本気を出さなかった。そして、強いと見込んだ相手に本気を出さなかったこの青年を相手にして、赤髪の男は本気を出さなかった。
分かりにくい話であるが、どちらも本気どころか、余裕の気持ちで戦っていたということだ。
「ふむ。そこまで分かっていたのか貴様。私としては『赤眼』を使った時点で、相手に不快な思いはさせない実力は出したつもりではあるがな」
青年が眼鏡を上げて言う。
ここで、王が青年の言葉に問うた。
「希君、どうして由真をアイツァーに渡さなかった?アイツァーが僕の国の手先だと分からなかったということはないだろう?」
それに視線だけ青年は動かして、答える。
「信憑性が薄いな。とは言え、この場で天宮寺由真を引き渡せと言われても、頷きはしなかっただろうが」
それに首をかしげる王。
「なぜだい?彼女は君たちにとっては足手まといにもなりかねないはず。それを必要とする理由が分からないな」
表情には少しの険が見える。
王としては、なんとしても彼女を取り戻したいことであろうが青年はそれを許さない。
王の言葉に呆れたようにため息を一つついて、彼を見据えて言った。
「彼女が王女の立場というのは、我々としても非常に心強い。悪い話ではあるが、利用させてもらおうということだ」
「本当に悪い話だねそれは。確かに君たちに今、政府の魔の手が忍び寄っていることは承知している。だけど、それと由真を関連付けるのは止めて欲しい。巻き込まないでくれ」
真剣そのもののまなざしで、青年に言葉を返す。
目と目が合う。青年は、王の瞳の中に真剣とはまた違うものを感じた。濁り、とも言うべきかなんなのか、心配や寂しさなどの類が考えられる目だ。
なんだかんだ言って、由真は王の恋人なのだ。心配して当然といったところ、さらにはサークルエリアは崩壊へと向かっている現状。青年も王の心情は察すれる。
だが、あえて青年は断固冷徹になる。ここで自らの心に許しを得るわけにはいかなかった。
「残念だが、叶わない。取り戻したいと思うなら自分で連れ帰れ。私はそれを咎めはしないが、邪魔はする」
つまり言うならば、勝手にしろ。だが、こちらも勝手にやらせてもらうということだ。
それを聞いた赤髪の男が、絶えず妖しげな笑みを浮かべながら言う。
「アンタが邪魔するってんなら、俺様も黙ってはいねぇってぇ。なんなら、ここでアンタを惨殺しちゃってもいいんだぜぇ?」
「貴様が私の身体に触れようとするならば、私はそれを払うだけだ」
二人は互いに相手を敵対視している。
だが、こうは言うもののどちらも戦闘に備えて構える動きは見せない。
「なんだ?私には構えずとも勝利できるという余裕の表れか?」
「あはは。お互い様さ〜。アンタがやる気ないのに、俺様だけ頑張っちゃってどうすんのってぇことさ〜」
赤髪は、手を後ろに組んでまるで警戒心など見せていない。それだけ余裕がある、否、相手がやる気がないのを完全に悟っているからだ。
と、その瞬間だった。
「・・・っ!?」
そこにいた四人が同時に、何かを察したように表情を強張らせ警戒心を最大級まで強める。
だが、事実その場に何か変化は訪れない。当然誰かが何かをしたわけでもなかった。辺りを見回してみても、誰かがいるわけでもないし、何か風景に変化が訪れたわけでもない。
ただ、言える事があった。
「リンクロードで、何かあったな」
黒ローブの男が落ち着きを取り戻して、つぶやくように言った。
それに、王が苦虫を噛み潰したがごとく嫌な表情に変わる。
「由真が、危ない・・・」
すると、王は横にかけてあった大剣を手にとって、巨大な扉のほうへと歩き出す。
「待て」
青年が言葉をかけるが、王の歩みは止まることなく扉へ向かっている。それに青年は舌打ちし、王に向かって大きく飛び出した。
それに反応して赤髪と黒ローブの男も動いた。
「うぉぉぉぉぉお!!!」
王が獣の咆哮のごとく、大きく叫んだ。大地をも揺るがしそうなその響きは、とてつもない威圧感と共にその場に充満していく。
誰も止める人間はいなかった。その威圧感に身体を地に叩きつけられ、動けなくなる。
王の周りに、空間的に式が展開されている。それが大剣へと纏わりつき、一つの形となって具現化する。大剣が、さらなる力を増して王の手の元へ。
大剣を振り上げ・・・一太刀。
衝撃的な破砕音を響かせた一撃は、何一つ迷いなく王の見つめる先へと放たれた。
町で、人々に圧倒的な存在感を見せ付けていた扉は、脆くも崩れ去った。