10, 金銀兄妹(1)
リンクロード内部。不思議な紋様が多々回りに刻まれており、見ているだけで目が回りそうな場所である。
ほぼ直線に伸びている道は、本当に終わりがあるのだろうかとも錯覚させるようだ。
そんなところに、一組の男女が佇んでいた。
「黄金兄さん、リンクロードに何者かが侵入したようです」
黄金と呼ばれた青年は、金髪で後ろの髪を一つに結っていて、前髪はオールバック。一言で言えばハンサムであった。
黄金はおもむろに振っていた槍を止め、女性の声に耳を傾ける。
「あぁ、ついに来ちまったか。白銀、『情報強奪』の式は発動してっか?」
白銀と呼ばれた女性は、銀髪で長い髪をストレートに伸ばしていた。今にも地に付きそうである。
白銀はノートパソコンを開いて、手をかざす。すると、その画面に様々な情報が記載されていく。
「成功しています。見ますか?」
「どれどれ?」
黄金はそのパソコンを覗く。
「あぁん?雑魚ばっかじゃねぇか」
情報が三人ほど入っていたものの、どれもこれもめぼしい人間はいなかったようだ。残念そうにして、再び槍を握る。
そんな兄の姿を見ながら、一度ため息すると、
「黄金兄さん、きちんと見てくださいよ。非常に面白い人物がいるじゃないですか」
そう言って、黄金の服を掴んでパソコンのほうへ引き戻す。よろける黄金を制止しながら、画面を指差してある人物を兄に知らせようとする。
「どれどれ・・・。ほぉ、確かに興味ぶけぇな」
一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに不敵な笑みに変わる。
それを見て、白銀は画面をいじり始める。
「天宮寺由真。同姓同名という可能性も考えましたが、身体情報などから、特に蒼髪と蒼い瞳という情報から確実に同人物かと思います。一体何故ここにいるのかは不明ですが・・・」
「連れて帰ったほうがいいんじゃねぇのか?あんな可愛い女の子がこんなとこにいちゃぁ、危険すぎるだろうが」
「・・・・・・王女かどうかは別問題ですか」
それに誇らしげに胸を張って、
「当然だ!可愛けりゃ誰だっていいってもんよ」
「死んでください」
「んなっ!?」
冷たい表情と言葉で、黄金は凍りつく。
そんな黄金の様子など気にする雰囲気も見せず、画面に没頭し始める。
「ひ、ひでぇよ。お兄ちゃんはショックで本当に死にそうだ・・・」
座り込んでくるくると指で地面をなぞっている。
「では、半分死ねば許してあげますので立ち直ってください。」
「結局半分は殺すのかよ・・・」
黄金はとりあえず行動をやめ、白銀の画面に再び目を向ける。
三人の様々な情報が記されているが、身体能力が飛びぬけていい人間はやはりいない。多少出来る人間はいるようだが、所詮はその程度ということか。
「んで、どぉすっか?」
「私たちの任務は、2ndエリアに誰も行かせないことです。こちらに来るのであれば止める必要がありますね」
「止める、か。出来れば戦いたくなんかねぇんだけどな」
画面から目を外し、壁に背を掛ける黄金。
槍を掲げ、証明に刃の部分を照らすようにしてみると、まぶしい光が目に入る。この輝く刃が、すぐに血に染まると考えるとそれだけでぞっとする。
「兄さん、気持ちは分かりますが・・・」
白銀はパソコンを閉じて脇に挟み、黄金のほうに体を向ける。
「あぁ、悪い。オレのせいでこうなっちまったんだしな。不満を言っていいのは白銀の方だけだな」
「そういうことでは無いのですが・・・。戦って、大丈夫なのですか?」
心配したような瞳で黄金を見つめる。
視線を白銀と合わせ、微笑すると、
「任せとけって!可愛い妹が心配してると、お兄ちゃんは力が百倍に膨れ上がるってもんよ!」
「馬鹿ですね。やはり死んでください」
「うぉい!?」
先ほどの心配するしぐさはどこへいったのか、瞬時にして冷たくなる白銀。だが、その表情はやはり暗いものだった。
そのうつむいた顔を見た黄金は、優しく笑みをこぼすと、白銀の頭に手をやる。
「大丈夫、オレが守ってやるって」
「守られるのはむしろ兄さんの方だと思いますけど」
「ははっ!!確かにそうかもな」
そんな兄の態度に少しだけ表情を崩す白銀。
と、ここでピピッとパソコンから音がする。それに反応して、白銀はパソコンを開いていじり始めた。
「・・・神堂様からのメールが入りました」
神堂。その名を聞いた瞬間黄金の表情は険に変わる。
真剣なまなざしで画面を見て、それを口に出して読んだ。
「ミリアからの報告によると、サークルエリア内で実験体・コードネーム『四季』のオリジナルが行動中とのこと。警戒して任務を遂行せよ・・・か。まぁたとんでもねぇのが絡んできやがったな」
「ですね。・・・・・・四季?」
すると、白銀は突然メール画面から、先ほどの情報画面へと切り替えさせる。そして、ある人物のところで操作を止めた。
「まさか・・・、いえこんな弱い人物ではないはずですが・・・・・・」
「まぁやりあってみりゃ分かるだろ。んで、今そいつらはどの辺にいる?」
白銀は目を閉じて、何かを感じ取ろうとする。
彼女が刻んだ式、『詮索』が発動しているである。現在位置とその他の簡単な情報が式発動者に送られるというすぐれものであるが、それには多大な精神力が必要で、そう簡単に出来るものではない。
だが、白銀はそういう系統のを得意とし、主にスパイ活動などが仕事であった。
白銀は侵入者の情報をキャッチし、目を開く。
「推定5分弱で接触かと」
「おっけぇ。んじゃ、そろそろ行くとしますかね」
槍を脇に挟み、歩みだす。
白銀はパソコンを閉じ、黄金の後をおった。
「オレの領域へようこそってな」
不敵な笑みを浮かべ、そう言い放った。
「私が結界式を張るので、私の領域ですよ」
白銀が皮肉を言わなければ、少しはカッコよかったかもしれない。