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9, いざ2ndエリアへ(2)

 まだ朝日が昇りきらない、体も凍える時間。

 ふと見上げれば夕焼けのようなきれいな空が広がり、星もうっすらと青を取り戻す風景に輝きを失わせ、点々と空に張り付いている。

 現在、春樹たちは準の早起きによって時間よりも早めに行くことにしていた。いつもは賑やかな町も、今は静まり返っている。

 そのせいで、春樹はもちろん由真までもが目をこすりながらの行動となっている。


「なんていうかさ〜、早起きは三文の得って、あるんだなー」


 ふと、春樹が口を開いた。


「ん〜?どうしたの?」


 準が他とは違う、元気満々な声で聞く。


「朝焼けって、きれいだな〜って思ってさ。朝早く起きないとこういうの見れないだろ?」


 春樹が先ほどから上を見ていたのは知っていたが、準としてはまさか見とれていたとは思わなかったらしく、驚きの表情を見せた。


「へぇ〜、春樹でもそういうのに見とれることあるんだ〜」

「そりゃな。俺だって一応感性豊かなほうだぞ?」


 すると、準は自分を指差して、


「じゃぁ、ボクに見とれて?」


 あま〜い声で言ってくるものだから、


「ぐぅ・・・、無理だってか、それは理性が許さない」


 断固拒否は出来なかった。

 それに少し微笑む準。やはり、こいつは可愛いと純粋に思う春樹。だが、彼女は・・・。


「うぅ、俺って弱い人間」


 自己嫌悪する。

 するとそれに由真が眠い目をこすりながら言う。


「いえいえ、武藤さんはお強いお方ですよ。私を守ってくれましたし」

「いやまぁ、あれは向こうが弱かっただけさ。っていうか、そっちじゃなくてだな・・・」


 弁解しようとすると、春樹の目が何かを捉えた。


「・・・・・・」


 言葉が無くなる。

 春樹の目が捉えたのは、とてつもなく大きな扉だった。それは、軽くビル一軒分はあった。見上げても、最上部の部分がうっすらとしか見えない。様々な紋様が刻み込まれており、昔からの物のような風貌を漂わせている。

 その扉の存在感は、扉という存在なのに圧倒的な何かを感じられた。なのに、普通に生活していればこの扉の存在には気がつかない。なんとも不思議な雰囲気をかもし出していた。


「こ、これがリンクロードへの扉でしょうか?」


 春樹と共に呆然としていた由真が、準に聞いてくる。


「そうよ〜。すごいでしょ〜!」

「た、確かに。すごすぎます」


 春樹も心の中で同意する。

 サークルエリアに何年も住んではいるが、やはりこの場所だけは慣れないというものだ。


「このリンクロードはね、緊急のときしか開かない扉なの。それで、緊急の時っていったら住民を避難させなければならないような時でしょ?だからこんなに大きいんだ〜」


 知識を見せ付けるかのように、準が由真に言う。


「そうなんですか。それで、ここが他のエリアと繋がっているんですね?」

「うん。正直ボクも他のエリアには行った事ないのよねぇ〜」


 残念そうにそういうが、実際行けたほうがすごいところだ。



「武藤さんはどうなんですか?」


 突如、由真の問いが春樹に向けられる。


「あ、え?」


 突然のことに動揺する春樹。というよりも聞いていなかっただけのようだ。


「ですから、他のエリアに行ったことはあるんですか?」

「あぁ、無いよ。緊急時しか開かないからね、ここは」


 何故かそういう春樹の表情は、由真には少し曇っていたように見えた。

 すぐに普段の表情に戻ったかと思えば、顔を準の方に向ける。


「なぁ、信一はまだ来ないのか?」


 寒さに身を凍えさせているのか、体をガクガクと震わせながら聞く。

 あごに手を当て、少し考えた後、


「うーん、多分すぐ来ると思うよ?信ちゃん朝早いし」

「確かに早いな。五時には間違いなく起きて何かしてるからな、あいつ」

「だね。少し待ってみようか」


 ちなみに現在の時刻は五時過ぎ。信一が到着する時間としては相応である。




 しばらく寒さに身を震わせながら、信一を待っていた。

 朝日もそろそろ顔を覗かせ、暖かい日差しが春樹たちを覆う。


「ったく、まだ着かねぇのかよ・・・」


 さすがに痺れを切らしてきたのか、不満を口にする。


「おかしいなぁ〜。もう一時間も経ったもんね」


 腕時計に目をやりながら、周囲を見回してみるが信一の姿は無い。

 春樹はため息をついて、


「はぁ、早起きは三文の得、じゃなかったか」


 すると、それに意外なところから声が返ってくる。後方だ。


「いんや〜、早起きは三文の得だねぇ〜」


 その聞き覚えの無い声に反応し、春樹は素早く振り返る。

 その目に入ったのは、赤髪でもみ上げが長い男だった。ぶかぶかとした服を着ているが、何か紋章のようなものが服に刺繍されている。

 男は手を頭の後ろに組んで笑って言う。


「あはは。そんな構えんなってぇ。たまたま散歩してたら出会ってしまったってだけさぁ」


 男は依然とした態度だが、春樹たちは警戒心を強めるほか無かった。リンクロードに入ろうとしたところを見られたのだ、簡単に済むわけが無い。


「お前は、誰だ?」


 春樹は問う。


「あはは。俺様の事が知りたけりゃ、そこの蒼い髪の子に聞いてみなってぇ」


 そう言って指差した先には、由真がいた。


「・・・天宮寺さん?」


 聞いた春樹が見たのは、由真の震える表情。

 男のいうとおり由真はこの男を知っているのだろうと推測できたが、この震え方は尋常じゃない。まるで怖いものでも見るような顔だ。


「あ、あなたは、アイズさんの国のお方ですか・・・?」

「ご名答〜。そしたら、俺様が何でここにいるかわかるよねぇ?」


 相変わらずの笑顔で、由真にそう問う。


(アイズって誰だ?てかこいつ、外界の人間ってことなのか?)


 春樹は疑問を多々抱きながら、その光景を見つめる。

 問われた由真は、うつむいて黙っていたが、口を開いた。


「・・・帰るわけには、いきません」


 しっかりとした口調でそう言う。


「あはは。一応うちの王子様が心配してんだよ〜、頼むってぇ」

「嫌です。アイズさんにも言ったかと思いますが、私は目的を達成するまでは帰りません」


 本気の目だ、と春樹は思う。

 それに男は難しい顔をして、再び笑顔になる。


「ま、最初から実力行使になることは予測ついてたけどねぇ」


 後ろに組んでいた手を解いて、懐に手をやる。

 それを見た春樹は、こちらも素早くナイフを抜いた。


「あれ〜?アンタ、前の・・・じゃないよねぇ。なんかすげぇ弱そうだし〜」


 あはは、と笑って男は懐からトンファーを取り出す。


「弱えぇかどうかは、やってみなきゃ分からないだろ」


 あくまで強気の姿勢は崩さない。


「あはは。戦う前からそれに気がつかないんだから、絶対弱いね、アンタ」


 トンファーを不規則に回し始める。何故か、残像が残っていた。

 ここで、突如準が叫んだ。


「春樹!相手は『式』を組み立ててるよ!」

「なんだって!?くっそ!」


 春樹は準の言葉を聴いて、すぐ男に突っ込んだ。

 一気に距離を詰め、眼前に男が迫る距離まで来ると、下段からの逆袈裟斬りを放つ。

 男はそれを起用にトンファーで受け止め、軽く振って春樹を飛ばす。


「あはは。サークルエリアの戦闘技術って、みんなして甘すぎるよ〜」


 トンファーを軽く振るい、式を完成させる。

 飛ばされて体制が整っていない春樹の元へと、


「ほいさ、『炎上』」


 火球が放たれる。空中で火の粉を散らせながら、それは真っ直ぐに飛んでいった。

 始めてみる攻撃タイプの式に、困惑しつつもその炎を横に飛んでかわす。が、それは突然方向を変え、春樹のほうに飛んでくる。


「んなっ!?」


 予想できなかった攻撃に、手がひるむが眼前に迫る火球にそんな余裕は無かった。

 とっさの判断で、春樹はその火球をナイフで切り裂く。炎が大きく散り、春樹を襲った。

 ナイフが熱を帯び、その熱さについ手を離してしまう。


「あらら〜、武器を手放すのは死ぬのと同じだってぇ」


 声が、すぐ前から聞こえた。

 春樹が顔を上げると、そこには相変わらずにこにことした男の顔。距離を詰められたのだ。


(まずった!?)


 思ったときには既に遅かった。春樹は腹部にトンファーで強打を入れられた。うずくまる と、さらに、顎に一撃。


「う・・・ぁ」


 意識が飛びそうになるのを歯に力を入れて必死で堪える春樹。

 男は首襟をつかんで、春樹を持ち上げる。不敵な笑みがうっすらとした視界に入る。


「黒ローブの男さんじゃないみただねぇ。アンタは弱すぎだってぇ」


 黒ローブの男・・・。

 その言葉を聴いた瞬間、意識が嫌でも戻される。苦しむ表情で、男を見て言う。


「お前、病院で暴れてたやつか・・・」

「ん〜?アンタ俺様と黒ローブのやつの戦い見てたんだ」

「何が、目的だ・・・」

「だぁから、言ってるじゃないか。そこにいる蒼髪さんを連れ戻すのが目的って。返してくれるならここで止めるけど、どうしようかねぇ」


 ちらりと由真のほうを向く。

 由真はおびえた様子で戦いを見守っていたが、今は準に押さえつけられて春樹を助けに行こうとしたのか、止められている。


(あんな子を、こんな奴にやってたまるかっての!)


 目に生気が戻る。それを見た男は、一度驚いたように見ていたが、すぐに笑みをこぼし、


「まだ諦めてないんだ。なら、死をも覚悟しとけってぇ」


 トンファーを振りかぶり・・・。



 ドンッ!!

 突然耳に鈍い大きな音が響いた。それに驚いたのか、男もトンファーを振り下ろさず止まっている。

 と、春樹の目が赤黒い液体を捉える。男のほほから、血が流れていた。


「おま・・・ぐぅ!」


 言葉を言い終わる前に、春樹は蹴り飛ばされる。


「春樹!」


 準が春樹に近寄ってくる。由真も心配そうに春樹の傷を見る。

 男はそれを一瞥し、音が鳴り響いた方向へと目を向ける。


「俺様の顔に傷つけるってのは、重罪だぜぇ?」


 すると、言ったほうから声が返ってくる。


「黙れ。貴様の顔など薄汚れたゴミ以下の価値もない。冤罪えんざいだな」


 声で分かる。信一だった。

 信一の手には、煙を上げている拳銃が握られており、しっかりと男のほうに向いていた。


「信ちゃん!遅すぎだよぉ〜」


 泣きそうな顔で準が信一に言う。


「すまない、機関で色々とあったものでな。間に合って何よりだ」


 そういうと、信一はポケットから何かカードのようなものを取り出し、準に投げる。


「これ・・・使えばいいんだよね?」


 手に取った準は問う。


「うむ。早急に頼む。この男は私が抑えておく」


 言われると、準は春樹を由真にまかせ、巨大な扉のほうへ駆ける。

 急いで扉にカードを貼り付け、準は懐からペンのようなものを取り出した。それでカードの上から何かを書き込んでいく。

 信一と男は、にらみ合ったまま微動だにしない。男はにやけているが、その中に険の表情が垣間かいま見れる。


「出来た!」


 準が叫ぶ。

 すると、あの巨大な扉が大きな音を立てて砂塵を巻き上げながら、少しずつ開いていく。


「よし、武藤春樹と天宮寺由真を連れて行け!その後すぐ閉める、急げ!」


 信一が後押しするように叫ぶ。

 準はそれにうなずいてから、由真に声をかけて二人で春樹をかついで中に入っていく。


「信ちゃんはどうするの!?」


 中に入りきった後、扉がまたも激しい音を立てて閉じていく。


「私はこの男に少々用が出来た。その後もう一度あけて追う!」

「そ、そんなの・・・」

「いいから行け!それと武藤春樹を叩き起こしておけ、リンクロードに何かがいる可能性がある!」

「わ、分かった。信ちゃん、ちゃんと来てね!」

「任せておけ」


 叫び終えると、扉が、最後の雄たけびを上げるように閉じた。








「さて、まず貴様は誰だ」


 信一が唐突に問う。


「あはは。アンタならこの刺繍で分かっちゃうんじゃないの?」


 男は自分の服の刺繍の部分を指差した。

 信一はそれを少し見ると、ふむ、と一置きして、


「アイズの知り合いか何かか。目的は・・・やはり天宮寺なのだな」

「分かってんじゃんかぁ。さっさと渡してくれれば、俺様も戦わなくて済むって話だってぇ」

「残念だが、その願いは叶わんな。こちらも彼女の存在は非常に有効手段として使える」


 それにやれやれといった様子で、男が言う。


「結局利用しちゃうんだねぇ。ま、俺様がアンタだったらそうするけど。んで―――」


 続けて、トンファーを構えて言う。


「その眼鏡、何?」


 信一は意外なところを付かれ、顔をしかめる。


「何、とは何だね?」

「度が入ってないよねぇ〜、それ」

「・・・・・・」


 信一は黙り込む。

 その通りだった。信一の眼鏡には度は入っていない。

 だがそれよりも、一体どうやって気がついたのか、それが非常に信一には気になっていた。


「本気でやんなら、それ外せよ」


 先ほどのふざけた口調とは違う、脅すような声で言ってくる。

 その言葉通りに、信一は眼鏡を取り、ケースにしまった。その奥から現れたのは、信一とは思えない整った顔立ちと、『赤い瞳』だった。


「本気にさせたからには、行き先は変更不可能で地獄行きだ」


 それに大きく笑みを見せ、男が笑って、


「あはは。一緒に連れてってやる。その地獄ってのにね」

「名を名乗れ」


 信一が言う。


「ずいぶん古風なことするねぇ。ま、俺様はアイツァー・ランフォードだ」

「希信一。参るぞ」


 信一は、素手にグローブをはめ、構える。




 朝日が、完全に昇った。



評価、感想をよろしくお願いします。(切望

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