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第1話 レヴェリア魔法学園島

『禁呪』


 それは、かの『はじまりの魔女』が造り出した、異端の契約。


 代償と共に力を得る、呪いの一種だ。


 悲しいことに古い魔法使いからは、「力を追い求めたもののなれの果て」と揶揄されることもあるんだよね。

 

 けどね、二人とも。ボクは、こう考えてる……


 禁呪の保有者は全て『何を賭してでも成し遂げたい望み』を持つ、最高の命知らずたちだ。


 

 

 ここは、そこそこ栄えた港町。

 朝の早い時間にもかかわらず、港に多くの人が集まり船を待っている。


「あー、緊張する……」


 そう独り言ちて、腰に差している古い杖をさらりと撫でる。

 俺が昔、幼馴染のカノンと一緒に買ってもらった一品だ。

 もうだいぶ古くなってしまったけれど、訓練用には使えるかなと腰に差してきた。

 今ここにはいない彼女との思い出に触れながら、もう一度覚悟を決める。

 

 「今行くよ、兄さん」


 そう呟いて、自分の周囲に並ぶ人混みを一瞥する。

 この港町にここまで魔法使い見習いが集まっている理由は、目の前の海の先にあるもの。

 絶海の孤島を開拓し作られた学園島だ。


 さほど大きくもない港に集まっている若者たちは、全員今からその学園島に入学する。

 そのための船が、丁度いま港に着いたところだ。


「……学園島に入学する生徒は、この船に乗ってください!繰り返します……」


 教師のような人が、そう言ってまだ慣れない制服を着た生徒たちに促す。

 それを聞いた生徒たちが、ゆっくりと列を作り船に向かっていく。

 両親や友達と別れの挨拶をし、涙を流している生徒も見える。

 親族も友達もこの場にいない俺は、一人で覚悟を決める。


「っし。行くか」


 一度息を大きく吐き、目の前の人波を見る。

 船のデッキに乗る足場がおかれ、数人の生徒がもう既に船に乗り込むのが見える。

 乗り遅れないためにも、早く行かなくちゃ。

 その、はじめの一歩を踏み出した瞬間。


「うおっ」

「あでっ」

「きゃっ!」


 すぐに、誰かとぶつかってしまった。

 まず、死角にいた大きな男子生徒とぶつかる。

 体勢を崩したところで、更に後ろから来た女子生徒を巻き込んで倒れてしまった。

 それなりに人ごみが出来ていたど真ん中で転んでしまったからか、周囲から離れてざわざわと見物している人がいる。

 最悪だ、凄く恥ずかしい。


「ってて……」

「あら、もうこんな時期なのね」

「こいつらも、同じ生徒なのか……」

「僕も周り見ないとな」


 俺達の周りを、物珍しそうな目で避けていく人が視界に入る。

 声を聴く限り、この時期の新入生を慣れている港町の人。

 そして、同級生になる人たちからも好奇の目で見られている。


 顔を赤くしてすぐに立ち上がり、ぶつかった男子生徒と女子生徒に頭を下げる。

 

「さ、最悪です。こんな失態を晒すなんて……」

「ご、ごめんなさい!俺、周り見れていなくて……」

「いえ、わたくしも同じです。緊張して、視野が狭まっていました」

「オレもだ、申し訳ない」


 そう言いながら、三人でお互いに頭を下げる。

 男子の方は、優れた体格に真っ白の短髪をしている。

 顔立ちが周囲の生徒と少し違うのは、遠い地方の出身だからだろうか。

 持っている荷物はすべて新品の物で、こっちでつい最近そろえたんだろう。

 

 女子の方は、対照的に小柄。

 顔はかなり整っていて、綺麗な碧眼と長くきれいな金髪が目を引く。

 制服こそ女子用の普通のものだが、持っている荷物や腰の杖から、かなり裕福な家の出身だと分かる。


「申し訳ありません。わたくしはグレイサー家の次女、フレン・グレイサーと申します。あなた方も、同じ生徒ですよね?」


 驚いた、あのグレイサー家の次女か。

 裕福そうな人だとは思ったが、相当有名な家の人だぞ。


「あぁ。オレはシラヌイ ヒョウガ。そこのお前は?」

 

 名前の感じから見るに、極東の人かな?

 名家の次女と、遠い極東から来た生徒。

 それに比べると、まさに普通な出の俺は少し恥ずかしくなりながら挨拶をする。


「俺は、リーフ・フォリア。よろしく、グレイサーさんと、シラヌイくん」

「家名で呼ぶのはおやめください。折角の出会いです、親しみを込めてフレンとお呼びください」

「オレもヒョウガでいいよ。お前も、リーフでいいか?」

「え、あぁ……分かった。よろしく、フレンさんと、ヒョウガくん」

 

 そうして、三人で笑いあう。

 いろんな人に見られる中で転んで、最悪の出会いかもしれない。

 けれど、いい出会いかもしれない。

 こんなところでも、一人じゃないってわかったから。


「20分後、出発します。みなさん、乗り遅れないよう気を付けて!繰り返します……」


 生徒を呼ぶ声が、船から聞こえる。

 それを聞いて、さっきから集まっていた生徒たちがさらに集まってきた。

 乗り遅れないためにも、振り返って二人に呼びかける。

 

「それじゃ、行こう。向こうでも、また会えるといいね」

「えぇ、では」

「お互い、健闘を祈ろう」

 

 そう言いあって、人ごみの中に入っていく。

 数十人の中に入り、フレンさんとヒョウガくんの姿が見えなくなる。

 それでも、向こうでまた会えると信じて。

 

 ゆっくりと進みながら、船への階段を歩いて行った。

 



 あれから、一週間。


 窮屈でもう見飽きてきた、暗く無機質な天井。

 家具も多少あるけれど、持ち物も綺麗に片付けられている。

 もう大分慣れてきた船室の中では、こんな声が響いていた。


「学園島に到着いたしました。お荷物をまとめ、甲板に出てください。繰り返します……」

 

 少し狭い船室の中で、綺麗にそろえた鞄を置いて鏡を見ていた。

 そこに映るのは、もう何度も見慣れた細身の男。

 癖のない黒髪に、右が赤、左が青のオッドアイ。

 魔法使いの中ではさほど珍しくもない特徴だけど、反対色に近い色を持っているのはそれなりに珍しい。

 その何度も見た面に、水をかける。

 ごしごしと洗い、もう一度気合を込める。


 ガチャ……


 そうしていると、目の部屋の扉が開くのを感じる。

 そしてその周りに二人、同じような生徒が並ぶ。


「……来たね」

 

 そう呟いて、鞄を持って扉の前まで歩いていく。

 扉を開いた先には、この船で初めて知り合った少年が立っていた。

 あの時ぶつかった男子、シラヌイ ヒョウガだ。


「準備、もう終わったか?」

「もちろん。で待ってたら、前の扉開いたなーって感じた」

「その感覚、相変わらず鋭いですね」

「おはよ、リーフ」


 そう言ってヒョウガの後ろから、ぴょこっと2人の女子生徒が顔を出す。

 フレン・グレイサー。

 俺みたいな普通の出でも知っているような名家、グレイサー家の次女。

 そして、俺の幼馴染で家族のような女の子。

 肩まで伸ばした藍色の髪に、俺とは色が逆に右が青、左が赤のオッドアイを持つ少女。

 カノン・アルヴァ―ト。


 ここにいるのは船に乗る前、ぶつかって転んでしまった《《4人》》だ。


「そんじゃ、行こうか」

 

 3人と顔を合わせて、部屋を出て艦内の順路を進む。

 周りの部屋の同級生たちはもう甲板に出ているらしい。

 そもそもこの船の規模を考えても、多くても四十人しかいなかったんだろう。

 廊下の先を見ると、まだまばらに生徒が見える。

 それに置いていかれないように、ゆっくりと階段を上がっていく。

 そして、前の3人に続いて開いている甲板への扉をくぐる。

 

「うわっ、眩し」

 

 眩い光と共に、一週間は見てなかった碧い空が見えてくる。

 海の上、何も遮るものが無い綺麗な空だ。そして、その先に目的地の学園島が見える。

 

「おぉ……これが」

「えぇ。わたくしたちが住む学園島。レヴェリア魔法学園島です」

 

 それなりに大きな規模の孤島。

 港の近くには他の船で来た生徒が、まだ少し残っている。

 

 その先の通りには、先輩の学生や教師の魔法使いが運営している店がいくつも並んでいる。

 その先には大きな噴水のある広場。

 その周りには俺と同じような新入生たちが集まって、談笑している。

 噴水の広場からは舗装された道が続いていて、先にはいくつかの建物が並んでいる。

 

 その、中央の道。

 島の最奥、最も目立つ場所には、最も大きな建造物が見える。

 中世と呼ばれた時代の名残を大きく残しながら、崩壊後……

 過去の文明が跡形もなく破壊され、人々が魔法という超常の力とともに生きるようになった時代、崩暦に生まれた大きな城。

 俺たちがこれから、6年間通うことになる新天地。

 

 レヴェリア魔法学園島。その本館だ。

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