8:やっぱり、と思った
彼女は、「聞きたくもないでしょうが、知っておかないと追々大変ですよ?」と口元に手を当ててフフフと笑った。悔しいが、一理ある。
彼女は自分を「美雪」と名乗った。
「絆賀くんの叔母にあたります。正確に言うと、彼の父親……正貴の妹です」
そういえば、生前のいつか、三人兄弟の一番上だと言っていた。
「もうひとり、兄さんと私の下に、孝之という弟がいます。葬儀で貴方に喧嘩をお売りした、背の高い男です」
心当たりありまくりの男だった。
「孝之も結婚しています。お相手は愛音さん。少し髪色の明るい、少女のような女性です。お子さまもふたり。葬儀には来ていませんでしたので、この子たちは割愛しましょう」
気のせいだろうか、さっきから、彼女―――美雪の言葉選びに悪意を感じるのは。
「一応、私にも婚約者がいますが、籍はいれておりませんので、あしからず。義姉さん……名前は穂真怜さん。彼女のご両親はすでに亡くなっていて、少し歳の離れた妹さんがいらっしゃいます」
「その、妹さんは、葬儀には?」
それらしい人物を見た覚えがない。
「…………彼女、うちの一族が大嫌いなんだそうで」
失礼ながら、やっぱり、と思った。
「通夜の日に、私しかいないタイミングで最後のお別れをされていました」
「非常識な娘だったよ。私と話しているときも、目すら合わせようとしないんだから」
コーヒーを飲み終えたらしい老婆が、溜息混じりにそう割り込んできた。美雪が少し顔を固くした……気がする。
「お母さんは、もう少し優しい顔をするといいわ。毎日ずっとしかめ面なんて、初めましての人は普通に嫌よ」
やっぱりだ。美雪の言葉には少し毒がある。笑顔の裏に、他の感情が隠れている。
「お母さん、コーヒーを飲み切ってしまったみたいだし、お暇しますね。お代はお出ししておきますので、ごゆっくりなさってくださいね。……あ、あと、これを」
「?」
二つ折りにしたメモ。困惑しながらも受け取ると、彼女は老婆を連れて颯爽と店を後にした。
彼女が、結婚しない理由が少しわかった気がした。
メモを開くと、きれいに整った細めの字で、
―――赤城 穂積さん 080-xxxx-xxxx
つまり、連絡してやってほしいということらしい。
彼女を花にたとえるなら、百合が一番ふさわしいと思った。
私生活(勉強)の関係で、次回休載です。




