6:分かった、そうしよう
絆賀の服は、段ボール箱ひとつに収まってしまった。後から聞いた話だと、これくらいの年齢は体の成長も著しいため買い替えが多く、服は少なめにしておくらしい。
人数がひとり増えると、当たり前だが、そのぶん部屋に置くものも増えるわけで。棚も買い足さねばならないなと考える。特に苦というわけでもないが、痛手であるのは確かだ。
あとは……。
「絆賀」
「……?」
ぬいぐるみを抱えたままの絆賀がこちらを見上げる。
「小学校なんだが、いま絆賀が通っているところは、俺たちの家からだと少し……いや、すごく遠いんだ。バスにも乗るし、電車にも乗る。危ないところも、気をつけなきゃいけないこともたくさんある。もし小学校が変わってもいいんなら、うちから歩いて通えるところに移ろう。どっちがいい」
絆賀は、しばらく黙って、目を泳がせて、おずおずと口を開いた。
「……わ、分からなかった、ので、……もっかい、説明おねがいします」
今度はこちらが驚く番だった。
分からないことを口にするのは、大人だって容易ではない。
「わかった。こっち来て座れ」
手招きをしてリビングのテーブルに呼ぶと、絆賀は自分の向かいに正座をした。
テーブルの下に置きっぱなしになっていたチラシの裏にひらがなで書き起こす。
「……えっと、今の小学校だと、友達とは離れなくて良いけれど遠くて……。近くの小学校に行くには、友達とお別れしなくちゃいけない………」
「そうだな。引越すっていう手もあるが、情けないことに、いま引越しに注ぎ込めるほどの貯蓄がない」
「……」
「俺に迷惑だとか、考えるなよ」
びく、と、絆賀の手が震えた。初めて、絆賀が俺におびえている。
「あ、いや……違うな。『考えなくていい』んだ。確かに、近くに通ってくれた方が安全ではあるが、転校にもいろいろと手間がいる。俺にとっては五十歩百歩だ」
「ごじゅ、」
「あまりに似ていて、どちらが良いか悪いかは、はっきり決められない」
絆賀は、しばらく考えて、短く息を吐いて、言った。
「友達と、離れたく、ない……です」
「分かった」
不安そうにうつむいていた絆賀がぱっと顔を上げた。
「分かった、そうしよう。心配しなくていい、って言うより、心配させないようにするのが俺の仕事だ」
まずは使う便と駅をまとめるか。そのあと定期を買いに言って……小学校にも、申請はしといたほうがいいな。
「ゆーひさん」
「ん?」
「おなかすいた」
くきゅ、と小さい音が絆賀の腹から聞こえた。気づけば一時になろうとしている。
「食べに行くか。何が食べたい?」
「ハンバーグ」
近くのファミレスに移動した。絆賀はおろしハンバーグ、自分はグラタンを頼む。
「そうだ、これを返しておかないとな」
「?」
リビングに飾ってあったうちの一つだけは、直接渡してやろうと、段ボール箱に入れずに出しておいたのだ。
ピクニックにでも行ったのだろう。草原と、青空と、三人の笑顔が映っている。
「……おとうさん、おかあさん」
「……やっぱりお前、どっちの親ともそっくりなんだな」
「……へへ」
写真のような満面の笑みではないが、昨日の顔よりはずっと血色がいい。
待って。今期レポート多い。




