4:本当なら、枯れるはずがなかったのだ
「いらっしゃいませー!」
店員が明るく出迎えるこの状況が、自分は苦手だったりするのだが。
どうやら絆賀はそうでもないらしい。朝の件があったからか、一定以上離れようとはしないものの、人目も気にせず、周りの衣類を見回している。
「動きやすいのにしろよ。片付けに行くんだからな」
「……うん」
言ってから、ああ失敗した、と思った。
片付け、と言ってしまうのは簡単だが、つまりは遺品整理だ。そこに住んでいた人物が、もういないのだと、嫌でも再確認することになる。
白の無地シャツと紺のハーフパンツを持ってきたので、もう少し『それらしい』ものにしろと言うと、有名な小型怪獣のシルエットが胸元についたのを持ってきた。
「好きなのか、それ」
「だって、かわいいよ。……かわいいよね?」
「……まあ、そうだな」
正直よく分からん。
布団屋でも似た会話をした。彼の判断基準は『かわいいか否か』のようだ。
一度マンションに帰り、寝室に布団を運ぶ。
「うちは他に部屋がないから、同じ部屋で寝ることになる。それでいいか?」
買ってきた服をもたもたと畳みながら、絆賀が「うん」と返事をした。
「………もう少し余裕ができたら、部屋の多いところに引っ越すか」
「? 一緒だとだめなの?」
「駄目ってわけでもないが……、お前も、ひとりになれる場所が必要になってくるだろ」
「………ひとりはさみしいよ」
絆賀の目がやや泳ぐ。
「ああ、だから、お前がそう思っているあいだは、ずっとここで寝ていい。あとのことを、いま考えても仕方ない。互いに手探りなんだ。ゆっくり慣れていこう」
そう言うと、絆賀の眉間にしわができる。
「………ゆーひさん、言うことむつかしい」
「……ああ、お前は、まだ分からなくていい」
そう言いながら、前髪を混ぜるように撫でてやる。絆賀は、まだどこか不服そうな顔をしていたが、見てないふりをして着替えるよう促した。
絆賀の家は、二階建て4LDK 。白と茶色で統一された、きれいな外観の一軒家だった。そういえば、ローンとかはどうなるんだ。考えかけてやめた。あちら側がなんとかしてくれるだろう。
預かっていた鍵を開けてドアを引くと、玄関先に枯れた花が生けてあった。
「あ」
と、絆賀が呟いた。いつもは、おそらく母親が水を換えていたのだろう。
本当なら、枯れるはずがなかったのだ。
「……始めるか」
「……」
絆賀はうなずくだけだった。
絆賀の母親は、きっと、次の季節に飾る花をもう考えていたことでしょう。




