3:だんだんと、分かってきた
目を開ける。
スマホの時刻が八時を示していて飛び起きるが、部長が休暇を伸ばしておいてくれていたらしく、同僚から連絡が来ていた。
《お前は今日明日と追加で二日休み。俺らは変わらず今日から出勤です(o^―^o)p しっかりケアしてやれよー》
「………」
身長の関係でダブルを買ったベッドの隅に、丸まった背中。おかげで昨日は足が浮いていた。
起こさないようにとベッドから出て、キッチンでコーヒーを用意する。
「あ、今日、可燃物」
ちょうどいい、寝ている間に出して来よう。ついでに一服しよう。
可燃物のごみ袋を片手に、部屋を出る。そこまで出ているつもりはないが、小学生がひとりでいるのだから、と、鍵は閉めておく。オートロックのところにでも引っ越すべきだろうか。鍵が手動なぶん安いんだよな、ここ。
ごみを収集所に投げ、駐車場の隅っこに追いやられた喫煙所で、半分くらいニコチンを摂取してから、部屋に向かうエレベーターに乗った。
鍵を開けてドアを引くと、玄関に絆賀が立っていて驚く。
「なんだ。起きたのか。朝飯は食ったか。昨日の握り飯の残り、出しておいただろ」
サンダルを脱ぎながら言うが、絆賀から返事はない。
「? …………絆賀」
「……っ、」
「なッ、は!?」
返事を促そうと呼んだだけなのに、絆賀の目には涙がたまり始める。
な、なんだ。なんでだ。
どうした、と訊いても、帰ってくるのは泣き声ばかりだ。
「…………悪かった」
「……っう、~~~」
かみ殺すような、泣き声だった。
だんだんと、分かってきた。
「驚かせたな、怖がらせた。大丈夫だ、俺は帰ってきただろう」
しゃがみこんで、そっと耳の下に手をあてる。親指に涙が乗ってきたので、撫でるようにぬぐってやると、絆賀は堰が切れたように俺の肩口で泣いた。
思いのほか、よく泣くやつだと思った。
小学一年生という体は、小さい割にしっかり重く、両腕を使って持ち上げる。
「……今日は、お前の家に行こうと思っていたんだが、」
「!」
「お前が嫌なら、明日にしよう。明日も無理そうなら……週末か。仕事終わるかな」
「い」
いく、と、絆賀ははっきり言った。
「そうか、無理はするなよ」
たとえ無理をしていても、あいにくと見定められるような観察眼も、感情を理解できるような児童心理の教養も持ち合わせていないのだが。
「あ、あのね」
「うん?」
「まず、おようふく買いに行ったほうがいいと思うんだ。あと、お布団。ゆーひさん、きのう足、寒かったでしょ」
「………」
今日のコイツはよく喋る。
どうして後期が始まったタイミングで書き始めてしまったのだろうと、とても後悔しています。




