17:あ、それは一理ある
薬をのんで、再び眠った絆賀の息は、ずいぶんと柔らかくなった。
「……………う、動けん」
………ただし、自分のシャツのすそを、しっかと掴んだまま。
缶チューハイを一つ煽った松前が、そのままテーブルに頬杖をついた。
「えらく懐かれてんなぁ」
「なんだこいつ、この小っこい体のどこにこんな怪力持ってんだよ」
どう引っ張っても離れない。
その様子を、松前がけらけらと笑いながらスマホを向けてくる。
何をするかは予想できたので、手近なクッションを投げつけておく。
「子供ってそういうもんだぜ」
「お前子持ちじゃねーだろ」
「姪っ子甥っ子の世話で鍛えられた俺をナメんなよ!」
松前には姉が二人いて、しょっちゅう夫婦喧嘩をしては、五歳だか三歳だかの子供をつれて実家暮らしの松前の家まで愚痴りに来るのだとか。
「今どき社会人で実家暮らしってのも言いづらくはあるけどさ。こうやって役に立つんなら悪いことじゃねえよなぁ」
「結婚には苦労しそうだけどな」
「別に良んだよ、俺は。姉貴ふたり嫁行ったし、親父もお袋も、孫の顔は見てんだ。……俺に結婚は、まだ考えらんねえよ」
新人時代によくつるんだ、自分を入れた三人のうち、それらしい恋愛ができたのは元木だけだった。だからか知らないが、自分とこの男の間に異性の好みやら結婚資金やら婚活やらの話題はない。
「お前はどうなの。嫁とかカノジョの前に子供ができたわけだけど。もう親とかに言ってんの?」
……そういや、言ってないな。
「言ってないなって顔してるぁコイツ!」
「別に言わなくてもいいだろ。実の子供でもあるまいし、ここ何年も帰ってないし」
「だからこそ、だろうが。特別に仲が悪いってわけでもないんだろ? いざってときに親経験がある人に連絡とれるのは強みだぜ。お前の場合はワンオペなんだから特に」
あ、それは一理ある。
少し考えて、スマホを出す。
「⁉ 今すんの⁉ え、席外す⁉」
「いやいい。つか居ろ。ちょっと面倒な人なんだよ」
「………帰っていい?」
「だめ」
嫌な予感しかしねえよ、とスピーカーにした自分のスマホから距離を取る松前を、「大丈夫、元木んとこよりはまし」となだめると「そこを比較対象に出されても何の安心にもならねえから!」と言い返された。ごもっとも。
《はいはい? どちら様?》
「どうも。久しぶり」
《? もう一度きくわね。どちら様?》
「あんたの息子、勇ましく飛ぶの勇飛です」
《よろしい》
昔からのルールである。詐欺の電話などと区別するために、電話を掛けた側は名前の書き方とともに名乗る。一度それを怠った親父が、本当に市警を呼ばれかけていた。情なぞという言葉では惑わされないのが我が家の女王であるお袋なのだ。
今更ながら、四月は君の嘘のアニメを観ました。あれを「君嘘」と略すことを初めて知りました。




