16:お前、もしや天才か
ドアがノックされる。
玄関を開けると、心底不機嫌そうな顔があった。
「悪い。ありがとう」
「ったく、別にいいけどさぁ。ほいこれレシートな」
「ん」
スポーツドリンクやゼリー、プリンに並んで、酒が2缶。………目を瞑るとしよう、この男には何かと世話になっている。
「? そっちは?」
もう片方の、この男が律儀にも持ち歩く折り畳み式のエコバッグを指さすと、彼は「こっちは俺の」と軽く掲げた。
「それよりチビは?」
「寝てる。熱がまだ、そこそこに高いんだ。あと、チビじゃなくて絆賀」
「………メシは?」
食べられそうにないから、ゼリーを頼んだんだろう、と言い返す。
「違くて。元木絆賀のじゃなくて、河中勇飛の、だよ」
相も変わらず、よくできた男だと思う。
「………考えてなかったな」
「ほら見ろ。冷蔵庫見るぞ」
「あぁ」
定期的にうちで呑んでいたので、勝手知ったる部屋である。冷蔵庫の中も、常備してるものは少ないから、何か作る気で何か買ってきたんだろう。
「いつもの卵と牛乳と? ヨーグルトと………りんごジュースあんじゃん。買ったの?」
「ガキが飲むものは良く知らない」
「あぁ……お前、ガキん頃から捻くれてそうだもんな」
追い出してやろうか。
「お、冷凍担々麺あんじゃん。これで焼き飯でも作るか。目玉焼き乗せて、豪勢にいこうぜ」
「お前、もしや天才か」
かたん、と軽い音がして、寝室から絆賀がこちらを覗くのが見えた。
「絆賀」
「お、起きたか風邪っぴき」
にっかり笑う男に、絆賀はやや尻込み、自分の方は駆け寄ってくる。
子供には懐かれる習性の男なので、こういうところは久しく見ていない。珍しい。
「絆賀、体はもう大丈夫か」
「う、うん……だぁれ?」
「お前の親父と俺の、同僚」
お友達?と顔を上げる絆賀に、「……………まぁ、そんな感じ」と曖昧な返事をする。
ぶふ、と吹き出す彼を睨み上げると、彼は自分を宥めるように手をふって、しゃがみ込んで絆賀と目線を合わせた。
「松前幸祈です。よろしくな、絆賀くん」
「………よ、よろしくお願いします…」
風邪で弱っているときに“初めまして”をさせるのは良くないかとも思ったが、おそらくこの男は嫌が応でも定期的にここへ出入りするだろうからと自分で納得させておく。
ぐう、くるる、と腹の虫が重なった。自分の腹と絆賀の腹だ。
「…………何、そんな短時間で人間って似るもんなの??? 怖ァ………」
ご丁寧に指を揃えた手を口元に当てる松前を無視し、絆賀にゼリーを選ばせてやる。
うん、食欲は出てきたようだ。
昨日は無断欠勤すみません。ぼちぼち書きます。
名前つける予定のない奴が思ったより活躍しちゃって、名付けをしなければならなくなる現象に名前をつけたいです。




