10:変じゃない、何も
―――ぼく、もう、『ふつうの子』にはなれないのかなぁ
「? なに言ってんだ。誰かにそう言われたのか」
「……先生」
「は?」
ちょっと落ち着く時間が欲しい。
とりあえず帰ってからにしようと提案したが動こうともしないので、彼の背中からランドセルを回収し、初めて会った日のように抱き上げる。……あ、早よ帰らねば腕が死ぬ。
慌てたように玄関を開けて、絆賀を下ろす。
「手ぇ洗ってこい。ジュース淹れといてやるから」
「……りんご」
「分かった」
キッチンの水道で手を洗い、冷蔵庫からりんごジュースを出して絆賀のカップに注ぐ。自分用にコーヒーも淹れる。
「……さて、何から話すか…」
「……ゆーひさん、ぼく、変なの?」
「お前は変じゃないよ。変だとしたら、それぁ俺のせいだ」
何か言いたそうに顔を上げた絆賀の頭を投げる。
変じゃない、何も。普通の夫婦の間に生まれた、普通の子供だ。たまたま事故で両親を亡くして、たまたま父方の家が厳格で、たまたま母方の親族が少なくて、たまたま自分に引き取られた、普通の子供。
「ごめんな」
「……ゆーひさんといるから変なら、ぼく、変でよかったや」
「……」
どうして子供というのは、いきなりこんな褒美をくれるのだろう。
「そう、だな。よその家から見たら、うちは変わってるのかも知れねえ。けどまあ、そのぶん、よその家じゃあ簡単にできないこともできるだろうな」
あいにくと、自分もろくな家で育っていない。世間一般でいう『普通』の家庭なんて知ったこっちゃない。
「………たとえば?」
「たと……、映画みながら夜更かしとか、晩飯カップラーメンとか」
自分にとっては、以前からやってた当たり前だ。
だけど、彼は顔を少し輝かせた。
「それ、お母さんに怒られるやつ」
「だろうな。けど、うちに怒るお母さんはいないだろ?」
もちろん、毎日そうというわけにもいかないから、自炊だって始めるつもりでいる。
絆賀が、『変だけど悪くない』って思えるように。
「あ、でも」
「駄目だと思っていることには『駄目だ』って言う、でしょ」
せりふを盗られる。
「正解。さ、メシにしよう。宿題もあるだろ?」
「うんっ」
そういえば、今回のネタの参考元がドラマになります。




