表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第2部2話『諜報戦と残念美人』
78/80

第7幕『残念美人は、夜にささやく』



 「じゃあ、そろそろオレは部屋に戻るわ。明日も早いし」

 


 セレスがテーブルに突っ伏したまま、ふにゃりと手を上げる。



 「ん〜〜……おやすみぃ〜〜……」



 俺は静かに立ち上がり、部屋の扉へと——



 「……って、あれ? 手首?」



 ふと見ると、左手首をセレスに掴まれていた。



 「あ、あの……そ、そこまでされるほどの酒盛りじゃなかったよね? ね?」



 セレスが顔を上げた。

 顔は真っ赤、目はとろんとしている。だけど——



 「ねぇ、リクくん……聞いてもらえる?」



 口調だけは、妙に真剣だった。



 「……何を、ですか?」



 「私ね……今年、二十八なのよ」


 「えっ、急に!? 歳を!? なんの告白!?」



 「……二十八なのに、独身なの。彼氏いないの。いままで真面目に軍部で頑張ってきたのに」


 「ええと、それは……はい、あの……尊敬します?」



 「でも気づいたら、周りの男はオッサンばっかりよ!」



 突然の叫びに、アリスとエナがピクッと顔を上げた。

 でも、すぐに察したのか、そっと目を逸らす。セレス、完全に酔いカミングアウトモードである。



 「入隊したときはね、理想の相手とかいたのよ!? 同じ志を持って、支え合って、みたいなぁ〜〜!」


 「で、現実は?」



 「“仕事は命令ですから!”みたいな堅物か、“君は優秀だねぇ”って気安く触ってくるハゲか、どっちか!!」


 「……すごい、バランスの悪い二択……」



 「最初はね、“出世したら変わる”って思ってたの!

 でも気づいたら“出世したからこそ、余計に出会いがなくなった”のよ!」


 「それ、言っちゃう!? 自分でそれ言っちゃう!?」



 「うるさいわねぇ……リクくんってば……」



 セレスは、どことなく焦点の合わない目で、じぃっと俺を見つめる。



 「……よく見たら……可愛い顔してるわよね、キミ」


 「へっ?」


 「ほら、なんていうか……中性的っていうの? 素直で、真面目で、でもちょっと小生意気で……。

 それでいて実は強くて……あら? これ、もしかして、ワンチャン?」



 「え、なにが!? どこにワンチャン!? いや待って、その目ヤバい、ピント合ってない!!」



 「ちょっと触ってみていい?」


 「どこを!?」



 「ちょーっとだけ……ね?」



 俺はグイグイ近づいてくる、この酒臭い軍服の女を押しのけようと突っ張る。



 部屋の隅のソファに腰かけていたアリスとエナが、ちらりと視線を向けてきた。


 アリスは小さく首を傾げ、無表情のまま、



 「……リク。セレスからのセクハラ前兆行動が発生しています」


 《確認:フェロモン濃度上昇。視線の滞留時間延長。これは“触れる5秒前の動き”》

 

 「いや、予報じゃなくて警報鳴らしてくれよ!?」



 そしてとうとう、セレスの手が——


 

 ぐにゅっ



 「!?!?!?!?!?!?」


 「え〜〜、なにこれぇ……意外と筋肉あるぅ……うふふ♡」



 「はぁ!? 尻ぃ!? 何触ってんのアンタ!! やめろやめろぉ!!

 フツーにセクハラだからなそれ!!」


 「セクハラ?……ちがうわよぉ……これはぁ……戦闘時の筋肉チェックぅ……♡」


 「んな言い訳通るか!!

 酔いながらにやけ顔で尻チェックとか無理あるわ!!」



 エナが、なんかパンかじりながら言った。



 「リクさん、ふぁいと〜! 情報収集、頑張ってください!」


 「情報収集ちゃうわ!! お前らが何もせずにニコニコしてるのが一番怖いんだよ!!」



 《確認:ユーザー・リク、現在局所的に尊厳喪失中。対応の優先度は低と判断》


 「セブン、お前までスルーすんな!! 助けろ!!!」


 

 ——結論。



 この監察官、間違いなく仕事はできるが、

 プライベートはどうしようもない。


 “恋と酒に弱い、婚期焦り系エリート美女”だった。

 


 俺は壁に手をつきながら、静かに夜風を吸い込んだ。



 「……やっぱ、エルド将軍、すげぇよ……この人を選んだ意味、なんか分かってきたわ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ