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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第2部1話『王国編開始!ー俺たちの存在証明ー』
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第3幕『俺たちの戦いと、その価値』


 開始の合図と同時に、俺たちは散開する。


 俺たちが悪いチームとは言わないが、連携に関しては訓練された兵士に、多分まだ及ばない。

 だから……囲まれるわけにはいかない!!


 

 すぐに、兵たちの動きが変わった。


 ——二人一組で側面を押さえ、盾役と槍役が前に出る。

 散開した俺たちに対して、自然に「包囲の網」を作ろうとしていた。


 実戦を潜り抜けた連中は、合図なんてなくてもこうやって動けるのか……!



 「……これは、楽勝ってわけにはいかなそうだ」


 俺は舌を巻く。


 守りと攻めを同時に成立させる配置。

 ただ数が多いだけじゃない。前に出た奴らは、確実に一人で複数を捌ける手練れだ。


 だけど、ただ押されてるわけにはいかない。

 俺たちは、俺たちの戦い方をするだけだ!



 まずは動きやすさのアピール。


 俺はパルクールで障害物を駆け上がり、セブンの重さを瞬時に変えながら高度差を使って翻弄。

 軽くすれば壁を蹴って跳ね、重くすれば着地で相手の間合いを崩す。

 兵士の一人が驚いた声を上げた。


 「……跳んだ!? まともな足場なしで、あんな高さを……!」


 


 ——次は、情報連携とチームワーク!!



 「アリス、左サイド! 一人、裏に回ってる!」


 「了解。ワイヤー、射出」


 しなる線が風を切り、裏に回り込んだ兵の槍を絡め取った。


 「なっ……速い!」


 兵が短く叫ぶ。

 俺もその場を離脱して別の兵を引きつけ、三人の動きを自然に繋げていく。


 


 「エナ、頼む!」


 「はーいっ! がんばります! リクさん!」


 ブレード形態のエナが宙を翔け、俺をそのまま抱え込む。

 飛び出した兵士の演習用魔導弩をエナが斜めに受け止め、その反動を利用して斜め上。敵の頭上に跳ぶ!!


 「なんだあれ……衝撃を利用して……跳ねた!?」


 観客の兵士が目を剥く。


 

 着地の寸前。

 俺はセブンを一気に重くして、地面へ叩きつけた。


 

 ——ドンッ!



 砂埃が舞い、地面がわずかにへこむ。

 腕にズシンと衝撃が響いて、耳鳴りがする。


 そして、爆ぜる衝撃で、盾を構えていた兵士数人がまとめて吹き飛んでいた。


 

 「ッ、ちょ、演習でクレーター作んな!! やりすぎだろ!! 

 鼓膜吹っ飛ぶかと思ったわ!!」



 地面からセブンを引き抜きながら、叫んだ。


 《状況報告:敵兵の包囲網形成を阻止。自己評価:ちょうどよかった》


 「ちょうどよくねぇよ! こっちの立場がえぐれてんだよ!」



 それでも、相手はすぐに持ち直した。


 盾を失った兵が後退し、別の槍兵が即座に前へ躍り出る。

 動きに迷いがない。訓練された連携だ。



 「……本当に、強い。

 これが、王国のエース部隊……!!」


 

 俺は思わずそう呟く。

 けど、俺たちはその上をいかなきゃ意味がない。


 セブンが作ったこの隙に、いっきにたたみ掛ける!!

 


 アリスのワイヤーが障害物に支点を作り、俺の動きを再加速させる。


 エナのクナイが一斉に展開し、槍の網を無力化する。

 兵士たちが驚愕の声を上げた。



 「ぐっ……連動が早すぎる! 反応が追いつかねぇ!」

 「三人が別々じゃない……一つの兵器みたいだ……!」


 

 地鳴りの反響が収まる頃には、演習部隊の半数が行動不能になっていた。



 ……が。



 まだ砂煙の舞う中、後方で指揮していた小隊長がマントを翻し、まっすぐ俺の方へ突っ込んでくる。



 「おいおい、普通ならここまで崩されたら撤退だろ……!?」



 砂を蹴り上げながら、小隊長が笑う。



 「もちろん、実戦ならそうするさ。だがな!!」



 目は燃えるように生き生きとしていて、全然折れてなんかいない。



 「せっかくの演習だからな。昔の血が騒いで仕方ない!」



 振り下ろされるのは長柄の軍刀。

 実戦で刃こぼれしたままの鉄の光が、容赦なく迫る。


 セブンを咄嗟に構える。


 ガキィン、と金属がぶつかり合った瞬間、衝撃が腕に響いた。


 剣をクロスさせたまま、斜め後ろに飛ぶ。

 その瞬間にセブンが質量を増し、重力を味方につけて相手の剣を弾き返した。

 


 「ほぅ……重さを変えてるな? 面白ぇ!」


 小隊長は、まるで楽しんでいるかのように笑った。

 その口調は、さっきまでの指揮官じゃない。まさに歴戦の猛者だ!


 

 「私の名はグラフト・ヴォルニエ。第三師団第一遊撃小隊長だ!」


 名乗りながら、矢継ぎ早に斬撃を畳みかけてくる。

 崩れた隊列を尻目に、全力で戦えることを喜んでいるような顔だった。



 「つきあってくれよ、勇者殿!」



 刃と刃が何度も打ち合わされる。

 ガキンッ、ガガンッ、と鉄の火花が散るたびに、俺の腕に痺れる衝撃が走った。



 「ちょ、待て待て待て!! それ鉄剣だろ!? 

 いや、そっちは木刀って聞いてたんだけど!?」


 「ははっ、木の剣では切り結べないからな! 

 トドメの手加減はするさ! 骨の一本くらいで済むようにな!!」


 「なんで俺だけ真剣勝負なんだよ!!」



 グラフトは一歩も引かず、むしろ楽しげに笑う。


 インパクトの瞬間に質量を慣性に乗せて叩き込む、俺とセブンの重力斬撃は強い。

 だけど、撃ち合いのタイミングをズラされると途端に威力が激減する。


 ……ガラッドのときと同じだ。


 

 「魔王領帰りってのは、やっぱ伊達じゃねぇ……!」


 俺は壁を蹴って跳び、上から斬りかかろうとする。

 だがグラフトは、その動きをすでに読んでいたかのように刀を振り上げた。



 「速いな! だが空中は無防備だ!」


 しまった、読まれてる!!


 次は、俺のパルクールの弱点。

 飛び跳ねた直後、掴めるモノも、蹴れる足場もない瞬間は動きが読まれやすい。


 宙に浮いてる間、俺の体は物理法則に従って動くだけだ。


 「けどっ……!」


 セブンがタイミングよく質量を増やす。

 いままで、俺の体にあった重心がセブンの刀身にズレ、それを利用して空中で身を捻る。


 普通ならありえない動き。対人戦闘に慣れている奴ほど、虚を突かれる。


 グラフトの斬撃が空を切る。次の瞬間に、体の回転に乗せて、そのまま鈍刃のセブンを上から叩き込む。


 「……ッ!?」


 小隊長の目がわずかに見開かれる。


 「もらった!」


 セブンの一撃が軍刀を弾き飛ばし、砂埃の中で決着がついた。


 グラフトは一瞬沈黙し、それから腹の底から笑った。



 「はははっ! やられたな……! なるほど、重さを変えるってのは、こういう芸当か!」



 刀を失ってもなお、彼の顔は清々しい。

 悔しさよりも、若者の工夫に出し抜かれたことを喜んでいるように見えた。


 「見事だ、勇者殿。一騎打ちは俺の完敗だ」




 そして、合図の声が響いた。



 「終了とする!!」



 その瞬間、演習場全体に静寂が広がる。

 風が、砂塵をさらっていった。



 「……」


 「なんだ、今の……」


 「帝国の魔導騎士部隊なみ? いや、それ以上じゃ……?」


 

 見学していた兵士たちのあいだに、ざわめきが走る。


 畏怖と興奮が入り混じった視線が、次々と俺たちに向けられた。



 誰も軽口を叩こうとはしない。

 でもその代わり、確かな熱がそこにあった。



 「連携も、圧倒的じゃな……」


 最前列に立っていた将校の一人が、低く唸る。


 「個の力でねじ伏せるだけではない……

 空中展開と、連動……まるで、三人で一つの兵器のようだ」


 

 その声に応じるように、別の将校が短く言った。


 「——使いようによっては、戦局を変えうる」


 

 そして、小隊長……グラフトがこちらへ歩み寄ってくる。


 擦り切れたマントが風に揺れ、顔には屈託のない笑みが浮かんでいた。


 


 「見事だった」


 まっすぐな目で、俺たち三人を見据える。


 「実戦を想定した演習で、ここまでの戦術連携ができるとは思っていなかった。

 俺たちの負けだ。潔く認める」


 

 その言葉には、悔しさよりもむしろ、清々しさがあった。


 “力の差”を理解してなお、それを称える意志。


 ——まさに“戦場帰り”の戦士の矜持だった。



 そして、ひときわ低く、重い声が響いた。


 


 「こりゃ凄い」


 ポツリと、エルド将軍が言った。


 「いや……本当に凄いぞ、リクくん」



 その言葉に、数人の将校が同意し頷く。


 さっきまで張りつめていた空気が、ほんの少しだけ緩んでいく。



 「やりましたね、リクさんっ!」


 エナが満面の笑みで振り向き、アリスに手を差し出す。


 「アリスおねーちゃん、グータッチ!」


 


 「……この反応は、演習の場では適切とは言えません——」



 アリスは一瞬だけ小さく首を傾げ、それから無言で拳を上げた。

 エナの長い腕が伸び、アリスの小さな拳とそっとぶつかる。



 《確認:演習目標、99%以上達成。

 副次効果として、周囲兵士の士気指数、平均で22.4%上昇。

 グータッチの視覚的演出も、好意的反応多数》



 セブンが腰で静かに告げる。


 ——ああ。これで、伝わったかもしれない。



 俺たちはただ強いだけじゃない。

 “共に戦える”ってことも。


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