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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部12話『ぬるま湯でラブコメする者たちよ。見よ、これが"戦略的ラブコメ"だ』
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第5幕『誘惑作戦・第弐波《エナの無邪気(?)な突撃型》』


 今日は、アイツら……おかしかった。



 いや、おかしいのはいつものことだ。

 だが今日は、輪をかけておかしかった。



 昼、アリスがいきなり「日光浴のデータ収集です」とか言いながら、

 長い髪の毛をあざといツインテールにまとめ、背中の大部分が開いた服で俺の前をうろつき始めた。



 その後、エナが「この荷物、重たーい……」と木箱を腹に抱え、その上にガッツリおっぱいを乗っけて持ち上げながら、俺の前を行ったり来たりしていた。

 何の意味があったかは不明だ。




 極めつけはルル。


 「巫女の服なんて目立つでしょ」とか言って、なぜか露出多めの普段着で来た。


 季節はもう秋も半ばだ。風が吹くたび、露出した脚にぴくって力入ってたし、肌には細かく鳥肌が浮いて寒そうだった。


 「迷子になると困るから」なんて言って、

 街を歩いてるあいだ、ずっと俺の手を握って離さなかった。しかも手汗がすごい。


 さらに、「今日は暑いわね〜」とか言いながら、

 襟元を広げながら、こっちをチラチラ見てた。

 そしてやっぱり、寒そうだった。




 おかげで……

 せっかくの丸一日休暇だってのに、全然休まらなかった。


 俺はベッドに仰向けになりながら、天井を睨む。



 「セブン……どう思う?」


 《分析:本日の三名の行動パターンは、明確な目的意識を伴うものと推察。

 動機の一致とタイミングの共通性から、事前に作戦的な合意があった可能性が高い》


 「やっぱそうだよな……。完全に狙ってたよな、アレ……」


 《加えて、対象リク・ミナトに対して心理的揺さぶりを与える意図も見受けられる。警戒を推奨》


 「くっそ……油断も隙もねぇ」




 ——そして夜。


 迎賓館の廊下は、シンと静まり返っていた。

 俺の部屋のドアを、こんこん、と控えめに叩く音がする。



 「リクさーん、入っていいですかー?」



 ……来やがったな。

 この声とタイミングは、完全に”作戦行動”だ。



 「……用があるなら、そこで言ってくれ。勝手に入ってくるなよ」


 「じゃあ、入りますねー♪」


 開いた。


 「おい、話聞いてたか!?」


 そして、エナがバスタオル一枚で入ってきた。


 「またそれかよ!! なんでその格好で来る!?」


 「だって〜、本には“奥さんならこのくらい当然”って言ってましたし♪」


 「お前、あの本の内容、真に受けるなって前にも言ったよな!?」


 「でもほら」



 エナはつかつかと歩み寄り、

 俺の隣のベッドにぽすんと腰を下ろす。



 「今夜は、夫婦で語らう夜にしましょ?」



 ——近い。

 ——タオル、短い。

 ——なんかいい匂いする。



 「てか、おまえ、ほんとに奥さんって設定をどこまで押し通す気なんだよ……」


 「設定じゃなくて、事実です!」


 「事実じゃねえから。勝手に押し付けてきただけだろ」


 「えー、じゃあ聞きますけど、リクさん、

 わたしと一緒に過ごして、なんかイヤなことありました?」


 「……それは、まぁ……ないけど」


 「じゃあ、いいじゃないですか」



 エナはそう言って、俺の肩にもたれかかってくる。

 タオルが、わずかにずれ——脇から続く胸のラインがあらわになる。



 「やめろバカ!落ちる落ちる!!タオル落ちる!!」


 「え?落ちたらどうなるんですか?見ます?見ちゃいます?いいんですよ?奥さんだし」


 「いや見ねえよ!?というか見せるなよ!?あぶねえってば!」


 「ふふ、照れてますね?」


 「誰が照れてんだ!?」


 「じゃあ、赤くなってる顔はどう説明しますか?」


 「……それは……暑いからだ……」


 「むー」



 エナは拗ねたように口をとがらせたあと、

 すっと、俺の目を見た。



 「ねえ、リクさん」


 「……なんだよ」


 「わたし、“ホントの夫婦”になれたらいいなって、思ってますから」


 「……」



 一瞬、言葉に詰まった。

 そのタイミングで——



 《警告:当ユニットが定めた心理安全距離を逸脱》


 「ぅわっ」



 セブンが、ベッド横で警告音を鳴らした。

 まるで“嫁にバレた浮気現場”のようなタイミングで。



 「うわー、邪魔入ったー!」


 「ナイスセブン……!」


 「むー!セブンさん、空気読めない!」


 《申告:適切に読んだ上での割り込み行動》


 「うるさいっ!」



 俺は、顔を真っ赤にしながらエナを押し戻し、

 バスタオルを正して廊下へ追い出した。


 「リクさんのドけちー!」ドアの向こうからそう叫ぶ声が聞こえた。



 ——ああ、もう……

 このままじゃ、精神力がいくらあっても足りねぇ……!


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