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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部12話『ぬるま湯でラブコメする者たちよ。見よ、これが"戦略的ラブコメ"だ』
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第4幕『誘惑作戦・第壱波《アリスの静かなる波状攻撃》』


 ——朝の迎賓館。豪奢な廊下に、まだ人の気配はない。



 俺は部屋を出て、軽く伸びをひとつ。

 今日は王都二日目。面会はまだ先。今のうちに散策しておこうと思った、そのとき——



 「……おはようございます、リク」



 すぐ隣の部屋の扉が、カチリと開く。

 ゆっくりと姿を現したのは、アリスだった。


 いつものロングスカートではなく、今日は淡いグレーのスリムパンツ。

 腰と太もものラインが妙に際立つ。上もぴったりした白のトップス。肩が少しだけ見えてる。




 そして——

 濡れた長髪からは、細い水滴が首筋を伝い、鎖骨をつたって消えていった。



 「……今、シャワーを終えたところです」



 そう言って、アリスは無表情のまま、髪をタオルでふき取っている。



 「……そっか」



 俺は、少し間を置いて答えた。



 「寝起きにその格好と演出は、目が冴えるな。

 ていうか、たぶん“静かな色気”狙ってるよな?」


 アリスはタオルをゆっくり外し、


 「“狙ってる”とは、どういう意味ですか」と返す。


 「……その服選んだ理由、言ってみ?」


 「昨晩、ルルに“露出で勝負しない方向性で行け”と助言されました。

 わたしの構造美を引き立てる最適解がこれです」


 「なるほど。もうバリバリに狙ってるって宣言してるじゃん……」


 「……それと昨晩は、少し寝苦しかったです」



 アリスがそう続ける。



 「途中で、シーツをはいでしまいました。

 薄着で、寝返りを打ちました。

 大腿部も臀部もあらわになっていました。

 わたしは、戦闘補助端末なので問題ありませんが、

 リクがわたしを“女の子”と認識しているならば、不適切だったかもしれません」


 「うん。わざわざ言わなきゃセーフだったと思う。

 ……それ、今このタイミングで言う必要あった?」


 「……情報分析です」


 「雑な情報分析だな……」



 俺は思わずため息をつく。

 アリスは、にこりともせず、じっと俺を見つめている。



 ——この距離、近い。

 ——この目線、誘ってる。



 明らかに“何かを仕掛けてきてる”のはわかる。

でも。



 「……あのさ」


 「?」


 「やっぱ、アリスって“アリス”って感じがするわ」


 「……それは、褒め言葉ですか?」


 「……どっちでもないけど、そういうとこだよな。うん。残念ながら」



 アリスの左眉が、かすかにぴくりと動いた。


 ——その時、廊下の奥からもう一つの扉が開く。



 「リクさん!ごはん行いきましょう!」


 エナが元気よく手を振りながら登場。

 これで今日の平和な朝は決まった。



 「……では、続きはまた今夜にでも」



 アリスは、静かにそう呟いてから歩き出す。

 俺はその背中を見送りながら、思う。




 ——やべぇ。

 たぶん、こっちの女ども、マジになってきた。


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