第4幕『誘惑作戦・第壱波《アリスの静かなる波状攻撃》』
——朝の迎賓館。豪奢な廊下に、まだ人の気配はない。
俺は部屋を出て、軽く伸びをひとつ。
今日は王都二日目。面会はまだ先。今のうちに散策しておこうと思った、そのとき——
「……おはようございます、リク」
すぐ隣の部屋の扉が、カチリと開く。
ゆっくりと姿を現したのは、アリスだった。
いつものロングスカートではなく、今日は淡いグレーのスリムパンツ。
腰と太もものラインが妙に際立つ。上もぴったりした白のトップス。肩が少しだけ見えてる。
そして——
濡れた長髪からは、細い水滴が首筋を伝い、鎖骨をつたって消えていった。
「……今、シャワーを終えたところです」
そう言って、アリスは無表情のまま、髪をタオルでふき取っている。
「……そっか」
俺は、少し間を置いて答えた。
「寝起きにその格好と演出は、目が冴えるな。
ていうか、たぶん“静かな色気”狙ってるよな?」
アリスはタオルをゆっくり外し、
「“狙ってる”とは、どういう意味ですか」と返す。
「……その服選んだ理由、言ってみ?」
「昨晩、ルルに“露出で勝負しない方向性で行け”と助言されました。
わたしの構造美を引き立てる最適解がこれです」
「なるほど。もうバリバリに狙ってるって宣言してるじゃん……」
「……それと昨晩は、少し寝苦しかったです」
アリスがそう続ける。
「途中で、シーツをはいでしまいました。
薄着で、寝返りを打ちました。
大腿部も臀部もあらわになっていました。
わたしは、戦闘補助端末なので問題ありませんが、
リクがわたしを“女の子”と認識しているならば、不適切だったかもしれません」
「うん。わざわざ言わなきゃセーフだったと思う。
……それ、今このタイミングで言う必要あった?」
「……情報分析です」
「雑な情報分析だな……」
俺は思わずため息をつく。
アリスは、にこりともせず、じっと俺を見つめている。
——この距離、近い。
——この目線、誘ってる。
明らかに“何かを仕掛けてきてる”のはわかる。
でも。
「……あのさ」
「?」
「やっぱ、アリスって“アリス”って感じがするわ」
「……それは、褒め言葉ですか?」
「……どっちでもないけど、そういうとこだよな。うん。残念ながら」
アリスの左眉が、かすかにぴくりと動いた。
——その時、廊下の奥からもう一つの扉が開く。
「リクさん!ごはん行いきましょう!」
エナが元気よく手を振りながら登場。
これで今日の平和な朝は決まった。
「……では、続きはまた今夜にでも」
アリスは、静かにそう呟いてから歩き出す。
俺はその背中を見送りながら、思う。
——やべぇ。
たぶん、こっちの女ども、マジになってきた。




