第3幕『R≪リクをリクっとさせる≫作戦、始動』
私はそっと手元の地図をくるりと裏返し、そこに——赤字で殴り書きした。
「R作戦」
(読み:リクをリクっとさせる作戦)
「作戦目標は、リクの理性の崩壊よ」
「はいっ!」
エナが即座に立ち上がって敬礼する。なにその反応速度。訓練された近衛隊か。
「では、各種作戦案を検討しましょう」
「ほんとに戦略会議みたいですね……」
アリスが、膝上に開いたノートにメモを取りながら淡々と言う。分析官の貫禄が出てきてる。
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第一案:【強行突入型】
——対象との物理的接触を伴う積極的接近。
「要は、触る、くっつく、乗っかる、囁く、の四拍子ね」
私は作戦計画図代わりの紙に、ざっくりと例を書き込んだ。
- 胸を押し当てる
- 布団に潜り込む
- 不意打ち抱きつき
- 膝枕+耳元ささやき
エナが、ぴょんと手を上げる。
「それ、もう全部やってます!!」
「甘いわ!」
私は即座に断言した。
「いい?あなたがやってるのは、“日常的に、人前で”。それは防衛ラインを崩さず、本丸を攻撃目標にしたのと一緒よ。重要なのは、“ふたりきりで、人目のない場所で、逃げ場を封じた状況下での突貫”。ここに意味があるのよ」
「……なるほど、つまり先程の男湯突撃は……」
「そう、敵戦力を見誤った上での迂闊な軍事行動だったわね」
「なんか軍師みたい……」
「敵の防衛ラインは、“羞恥心”と“逃避行動”よ。そこを突くの」
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第二案:【散発攻撃型】
——対象の視線・想像力を活用した間接的心理攻撃。
アリスが即座に前傾姿勢になる。
「それは、わたしの得意分野です」
「さすがおねーちゃん!」
「あれ? でも、それなら既に効果無いってことじゃ……」
ツッコミを入れるエナに、私は指を一本立てた。
「これは“潜在的ダメージ”なのよ。効果が“顕在化していない”だけで、地味に効いてる可能性がある。要は、継続的にドキッを与えていく波状攻撃。三人でタイミングずらして仕掛けるのがコツよ」
- 着替えシーンを“偶然”見せる
- うなじ・太もも等の色気部位チラ見せ
- ボディライン強調衣装
- 不意に距離を詰めてドキドキさせる
「ふむ……」アリスが真剣な顔でメモを取っている。もうちょっと顔に色気が欲しい。
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番外案:【告白という最終兵器】
「司令官。提案があります」
アリスが手を挙げる。
「発言を許す」
「もう、素直に告白すれば良いのでは?」
「ダメ。それは最後の最後、勝利を確信したタイミングじゃないと撃てない」
「なぜでしょう。作戦即時却下の説明を求めます」
「いい?これは誤解してる人が多いけど、“好きです、付き合ってください”って言葉、実は二段階を同時に踏み越えてるのよ」
「……え?」
「“好きです”=好意の開示=宣戦布告。“付き合ってください”=関係を求める=降伏勧告。その間の“攻略戦”すっ飛ばしてるから、『ごめん他に好きな人が』とか、『じゃあ友達から』とかなるの」
「はぇ〜……」
エナが感心してる。
「しかも、私たちはもう宣戦布告は済んでるの。まさか、この状況であたしたちの好意に気づいてないなんて——」
「そんな鈍感な人いませんよね……」
「そうよ!、もしこの状況で“誰も俺なんかを好きになるわけないだろ”って……それはもう、脳みそが常時筋トレ中よ。
恋心を察せないと言うより、雌雄の概念があるかどうかすら怪しいわ」
「というわけで、告白はフィニッシュブロー。それまでは、包囲・動揺・攪乱・突撃・熱戦・消耗戦、全部やってからじゃないとダメ」
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私は地図の中央に、“R作戦”の文字をぐるりと囲った。
「——さあ、作戦を開始するわよ。目標はただひとつ」
「リクの理性をぶっ壊す!!」
「がんばります!!ちゃんと新婚さんになるんです!」
「計画案を記録に組み込みました。いつでも実行可能です」




