第1幕『対リク攻略・戦略会議《深夜の女子会》』
さすがに——ちょっと、驚いた。
まさか、バスタオル一枚で三人が突撃して、なにひとつ成果ゼロとは思わなかった。
というわけで、今夜は緊急作戦会議よ。
「……私の部屋に集合する必然性が不明です。抗議します」
アリスが、ベッドの隅に体育座りでぼやいた。無表情なのに、なんかこう……微妙にムスッとしてるのが伝わってくる。
「だって、さっきの反省会をしなきゃでしょ。敗因を洗って、次の手を練らなきゃ」
「次……つまり、次回作戦を立案すると?」
「当然。二日間しかないんだから、一秒も無駄にできないわ」
エナはソファに寝転がりながら、両足をぷらぷらさせてる。
「わたしは賛成です!リクさん、もうちょっとで落ちそうだった気がします!」
「落ちる気配、一ミリもなかったけど」
「ううっ……」
「まずは、今回の失敗の総括からよ。
反省点は三つ……」
一、セブンの索敵が優秀すぎた。
二、戦術として強引すぎた。
そしてなにより……。
三、そもそもターゲットが、思春期男子としての機能を果たしてない。
「……リクって、女の子三人に裸で迫られて、微動だにしなかったのよ? あれ、もはや人類じゃないわ」
私はソファの背に身を預けながら、深いため息をついた。あれは、明らかに異常よ。
3人の、それぞれ違うタイプの美少女が、裸で特攻。
しかも、何をやろうが誰にも邪魔されない環境で。
これは、添え膳大盛り、食べ放題……いや、満漢全席。
肉も魚もスイーツもフルコースで並べておいて、箸ひとつ動かさないなんて——そんなの、胃袋より脳の検査が必要でしょうが!!
「わたし、奥さんなのに……」
エナがぽつりとつぶやく。湯上がりでぽわっと火照った顔が、今は少し沈んで見える。
「夫婦なのに、新婚なのに。新婚っぽいこと、なにもしてくれません。夜の営みも皆無……これはもう夫婦の危機ですよ。やり直し婚、検討した方がいいかもです……」
「……わたしも、戦闘補助端末として最大限に誘惑プログラムを実行しました」
アリスが腕を組んで言った。無表情だけど、微妙に悔しさが滲んでる気がする。
「同行時の偶発的接触。さりげない視覚的アピール……すべて最適化した状態で“無防備な姿勢”を展開したにも関わらず、リクからの接触反応はゼロ。……これはもはや、バグです」
バグ、ね。
確かに。
普通なら、あれだけの美少女がバスタオル一枚で迫ったら、血圧が異常値を叩き出すレベルよ。
それを「いや、逆でも絶対ダメだが」とか言ってゲンコツひとつで済ませたあの反応。
これはもう、どうやって攻めるかの前に、ターゲットそのものが異常個体だったと考えるべき。
「これ……敵の認識を改めた方がいいわね」
私は膝を叩いた。
「目下の敵は、あなたたち二人でも、王国でも、魔王軍でもない。——リク本人よ。あの“清廉潔白ぶり”が最大の壁!」
「じゃあどうするんですか、ルルさん……」
エナがじとっとした目でこちらを見てくる。
「わたしは押しました。押しても押しても反応がなくて、もう心がバキバキです。おっぱいだって、がんばってるのに……」
「胸部に関しては、あなたが最強だと思う」
「でしょ!?なのにスルーって、ちょっとリクさんひどくないですか!?」
「アリスはどうなの?」
「私は、就寝時に臀部・大腿部を強調するポーズを意図的に繰り返しました。さらに、時折、リクの視界内で着替えの動作を“うっかり”行ったりもしています」
「え!?おねーちゃんそんなことしてたの!?」
「実施ログにも記録があります。リクの視線は……私の大腿部に、2.4秒間、滞留しました」
「……滞留してたんかい!」
「ふぅん……つまり——正常な男子の反応は“ある”のよ。ちゃんと目は向いてる。なのに“動かない”。」
「その、最終的に手が出ない理由が問題ってことですか?」
「そう。だから、ここからは原因の深堀りよ。いい?これはただの恋愛バトルじゃない。情報戦なの。」
私は背筋を伸ばして宣言した。
「リク・ミナト攻略作戦、正式開始——!」
深夜の迎賓館。高級家具とカーテンに囲まれて、星の巫女・戦闘補助型ゴーレム・巨乳奥さん(自称)の三人は、真剣な表情で“高校生男子の攻略法”について議論を開始したのだった。




