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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1話『世界でいちばん重たい相棒』
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第5幕『星を穿つ剣』


 この剣——マジで使いにくい。



 まず、軽すぎてスカスカ。振り回しやすいのは良いが、当てても全然ダメージ無い。


 「質量調整できます」って言われたから、重くしろって言ったら、持ち上げた瞬間、手首がバキバキいった。



 ふつう、剣って重心が中心か先にあるはずなのに、

 こいつは“全部”が重いか、軽いかの二択。

 バランスもクソもない。慣性がバグってる。


 

 「セブン、マジでこれ戦う用の設計してんのか……?」


 《仕様に対する抗議を記録》


 「じゃあせめて、手に馴染む形状にしてくれよ。細長くて平べったい石片じゃねえかこれ」


 《外装の変形は不可能》


 「おい」




 構えようとしたら、手首がギリギリ言った。

 おまけにバランスが悪い。剣ってより、細長い岩って感じだ。



 「重すぎて無理だって……っ!」


 振り上げようとした瞬間、空振りして後ろにひっくり返った。


 敵はすぐそこ。

 斧を振りかぶった下級兵が、こっちに迫ってくる。


 

 「——軽く!」


 《質量減衰フェーズ、実行》



 手元が急に軽くなった。

 その反動で、剣が勢いよく上に跳ねる。


 「うおっ……!」



 軽すぎる。逆にコントロールが効かない。


 斧が振り下ろされる直前、しゃがんで回避。

 足払いでなんとか転ばせる。


 

 やばい。これ、使えねえ。

 剣としての重さが、状況ごとに極端すぎる。



 「……どうすんだよこれ。チートどころか、呪いの装備じゃねぇか……」



 でも——


 「……振り終わりで、一瞬だけ重くできるか?」


 《可能。ただし動作タイミング誤差±300ミリ秒以内を推奨》


 「十分だ……。よし!やるぞ!」


 

 目の前に、さっきの兵士が再び立ち上がってくる。

 今度は、タイミングを合わせる。


 軽く振って、敵の胸に——当たる瞬間に



 「重く!!」


 《質量収束…》


 

 ゴギャッ!!


 

 乾いた破裂音とともに、敵の鎧が砕けて吹き飛んだ。

 地面に叩きつけられて、動かない。


 「……よし!」


 

 周囲の敵が、ざわついた。

 剣を構え直す。あとは、慣れだ。


 動き回る。

 パルクールで跳ねて、足場を選びながら間合いを詰める。


 軽く振る → 当てる瞬間だけ超重量。

 動きの中に、タイミングのパズルがある。


 とはいえ、敵は待ってくれない。

 あちこちの民家から、まだ避難できてない人たちの声が聞こえる。


 

 ……まずは住民の避難を優先させないと。


 

 オレが敵を引きつけてる間に、誘導できれば——


 そのとき、視界の奥に、でかい影が見えた。


 兵士の列の奥、門の外。

 ずらりと並んだ部下に囲まれて、明らかに別格のやつが立っている。


 

 「……あれ、指揮官か?」


 ——でかい……。でかすぎる。


 あれを倒せば——たぶん、兵士たちの動きも乱れる。

 統率が崩れて、避難の時間が稼げる。


 

 でも、あそこまで行くには、前線を突破しなきゃならない。


 魔王軍の兵士たちは、すでに目一杯。


 こっちの兵士は、剣を振るいながら、住人を守ることで精一杯だった。


 


 あの巨躯に向かって行ける奴なんて居ない。

 いや、そもそも、重い鎧に、重い剣の兵士たちじゃ、辿り着けるわけがない。


 

 でも、オレは——


 学生服のまま。

 装備なんて何もない。あるのは、重さを変えられる“棒切れ”と、自分の体だけ。


 

 だけど、その分——軽い。

 羽根みたいに、風のように。

 


 「オレなら、行ける…」


 パルクールは道を作る技術だ。

 壁でも屋根でも、足場にできる。


 あの位置、屋根を伝って、

 上から回り込めば——距離とスピードで突っ込める!



 剣を軽量化して、

 跳ねるように駆け出した。


 

 途中、屋根の上から何体かの敵を見下ろす。


 「行ける。重さを切り替えながら動けば、こっちのルートは使える」



 飛び降りて蹴り、

 手すりをつかんで振り返りざまに打つ。

 軽いままだと威力は出ないが、動きは取りやすい。



 一瞬の隙に、跳躍。

 空中で敵の槍が横から迫る。



 「ちょっと重く!」


 《質量収束》



 手の中でズシリと重くなる。

 その反動で体がくるりと回り、槍をギリギリで回避。


 地面に着地しながら、思わず口元を歪める。


 「……剣ってより、“パッと手の中にカウンターウェイト”って感じか。

 飛び跳ねるのにも、結構便利だな」


 

 そして、見えた。

 奴が——こっちに気づいた。



 ドオォン!!!!


 地面が陥没した。

 あの巨体が、突進してきた。


 

 「うおっ……ッッ!」


 ギリギリでかわす。

 巻き上がった風圧で、後ろの家屋の壁が吹っ飛んだ。


 民家の柱が、無残に崩れ落ちていく。


 「やっば……!! あれ、もう一発来たら……!」


 

 奴が振り返る。

 もう一度、地を蹴る構えだ。


 

 「おい、聞こえてるか」


 《応答可能。》


 

 「今から、ちょっとした無茶をやる。

 あいつの突進速度と質量……計算できるか?」


 《推定質量:4.2トン

 加速度:初動680ミリ秒後に最大値到達

 回避不能条件:対象距離30m以内の直線突進》


 「いけるか?」



 《戦術提案:可》


 「よし」


 

 剣をそのまま、真下の地面に突き立てる。

 剣先が、ぎゅっ、と地面を抉るように刺さる。


 アイツが、こちらに向き直る。

 再び突進——でも今度は避けない!



 「今だ!!——杭になれ。最大重量で固定!」


 《了解。最大質量モード、実行準備》


 《出力確定。質量フィラメント、制限解除中。

 動作位置、地面拘束。質量制御シークエンス……》



 ………あれ? そういやさっき、最大質量"エクサグラム"がどうとか言ってたよな。


 それって、どんくらいの重さなんだ?



 「ちょ、待った。“最大”って、どんくらい?」 


 《現在設定されている最大質量:1958.8エクサグラム。

 地球型惑星の地殻を貫通し、構造崩壊を引き起こすと予想される》



 「バカか!? 何その終末兵器みたいな杭!!

 ちょうど良い重さで頼むっ!!」


 

 《了解。突進体の速度・角度・推定重量より算出——

 適正質量:26.4トン。地面への固定保持制限より、インパクトの瞬間200ミリ秒の適正化を推奨》


 「それでいい、それでいい!!」


 

 石畳がメリメリと音を立て、刀身が地面に深く沈む。



 敵が突っ込んでくる。

 剣が、動かない杭になった。



 そして——


 ドガアァァァン!!!!


 凄まじい衝突音。

 衝撃波で、あたりの空気が押し飛ばされる。


 砂煙が舞い上がり、地面に亀裂が走った。


 

 ——でっかい敵は、剣に自分から突っ込んで、自滅した。


 胸部の鎧がめり込み、頭からひっくり返って転がる。


 地面ごと抉れて、奴はピクリとも動かなくなった。


 


 しばらくして、あたりの魔王軍たちが、ざわざわと後退を始める。


 指揮を失ったら、烏合の衆。


 

 「ふう……決まった」


 セブンの声が、冷静に響く。



 《敵部隊、戦闘行動停止。戦闘行動パターン、評価A-》


 オレは柄を掴んだまま、息を吐いた。



 「よし。じゃあ、次からS取れるように一緒に頑張ろうぜ、相棒」


 セブンが、静かに応じた。


 《ユーザーからの当ユニット呼称:“相棒” を登録》



 「……おう」


 口元だけ、にやっと笑った。


 「重いってのは、使い方しだいだな。……なかなか使えるぜ、オマエ……じゃなくて、セブン」


 


——to be the next act.

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