第6幕『禁欲の番人』
バスタオルを巻いて、足音を殺しながら脱衣所を抜ける。
タイルの冷たさが、逆に気持ちを引き締めてくれる。
「戦術目標:リクの入浴現場、視覚接触範囲に突入次第、観察フェーズへ移行」
「突入と同時に、会話での優位を確保。気まずい雰囲気になる前に、“許される距離感”を奪取するのが目的ね」
「えへへ……わたしはリクさんの背中、流す係で〜」
完全に一致した、利害と作戦意図。
扉の前で一度、深呼吸。
——そして、3人のバスタオル姿が一斉に、男湯のドアを押し開ける!
「リク!邪魔するわよ!! ……って、あれ?」
湯気の奥、視線の先に、誰もいない。
浴槽は静かで、水音ひとつしない。
「え……うそ。まさか、もう上がった?」
「センサーにはいたはずです……」
「……やられた?」
そのとき。
「……おい、オマエら」
背後から、冷えきった男の声が落ちた。
ビクゥッ!
慌てて振り返ると、そこには——服を着たまま、腕を組んだリクの姿。
「な、なんで!?」
「いや、お前らがなんでだよ!」
ドンッ!
「いってぇ!」
ドンッ!
「………ダメージ中程度」
ドンッ!
「ひゃぅっ!」
3人の頭に、順番に拳骨が落ちる。
「常識的に考えろ!! 覗きはフツーに犯罪だろうが!!
迷惑防止条例なめんじゃねぇ!!」
「いや……ここは異世界か……。
ここの法律は知らんが、たとえ法的にセーフでも逆だろ!!
普通、そっち覗かれる側だろが!!
なんでオレが突撃されなきゃいけねーんだよ!!」
リクの怒鳴り声が浴場に響く。
「逆でも風呂突撃なんざ絶対ダメだけどな!? つーか、オマエら!!
さすがにタオル一枚は想定してなかったわ!!」
「そ、それは……その……」
「計画的偶然で、ですね……」
——ああもう、なんでこうなるのよ。
せっかく全員で意気込んで、連携して、完璧なタイミングで突入したってのに。
なんでコイツ、服着てんのよ!!
「オマエらバカか!? いや、バカの三重奏か!?
トリオでなにしてんだ!!
"裸一貫突撃"ってそう言う意味じゃねーからな!?」
リクの怒声が浴場に響き渡った。
「とっとと戻れ!」
リクはビシッ っと、脱衣室の出口を指差す。
……まさかの禁欲の番人っぷりに、私たちは押し黙るしかなかった。
「セブン、見張っとけ。次来たら風呂ごと破壊して逃げるからな」
《了解。警戒レベルを“変態侵入者A”に設定。トリガー作動で即追放プロトコル起動》
作戦、失敗——。
でも、いい。
私には、まだ明日がある。
覚悟しなさいよ。
リベンジの火は、まだ消えてない——!




