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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部11話『俺たちの異世界デート』
59/80

第6幕『禁欲の番人』


 バスタオルを巻いて、足音を殺しながら脱衣所を抜ける。

 タイルの冷たさが、逆に気持ちを引き締めてくれる。


 


 「戦術目標:リクの入浴現場、視覚接触範囲に突入次第、観察フェーズへ移行」


 「突入と同時に、会話での優位を確保。気まずい雰囲気になる前に、“許される距離感”を奪取するのが目的ね」


 「えへへ……わたしはリクさんの背中、流す係で〜」


 

 完全に一致した、利害と作戦意図。


 

 扉の前で一度、深呼吸。


 

 ——そして、3人のバスタオル姿が一斉に、男湯のドアを押し開ける!


 

 「リク!邪魔するわよ!! ……って、あれ?」


 

 湯気の奥、視線の先に、誰もいない。

 浴槽は静かで、水音ひとつしない。



 「え……うそ。まさか、もう上がった?」


 「センサーにはいたはずです……」


 「……やられた?」


 

 そのとき。


 

 「……おい、オマエら」


 

 背後から、冷えきった男の声が落ちた。



 ビクゥッ!


 

 慌てて振り返ると、そこには——服を着たまま、腕を組んだリクの姿。



 「な、なんで!?」


 「いや、お前らがなんでだよ!」



 ドンッ!



 「いってぇ!」


 ドンッ!


 「………ダメージ中程度」


 ドンッ!


 「ひゃぅっ!」


 

 3人の頭に、順番に拳骨ゲンコが落ちる。



 「常識的に考えろ!! 覗きはフツーに犯罪だろうが!!

 迷惑防止条例なめんじゃねぇ!!」


 「いや……ここは異世界か……。

 ここの法律は知らんが、たとえ法的にセーフでも逆だろ!! 

 普通、そっち覗かれる側だろが!!

 なんでオレが突撃されなきゃいけねーんだよ!!」


 

 リクの怒鳴り声が浴場に響く。



 「逆でも風呂突撃なんざ絶対ダメだけどな!? つーか、オマエら!!

 さすがにタオル一枚は想定してなかったわ!!」


 「そ、それは……その……」


 「計画的偶然で、ですね……」



 ——ああもう、なんでこうなるのよ。

 せっかく全員で意気込んで、連携して、完璧なタイミングで突入したってのに。


 なんでコイツ、服着てんのよ!!


 

 「オマエらバカか!? いや、バカの三重奏か!? 

 トリオでなにしてんだ!!

 "裸一貫突撃"ってそう言う意味じゃねーからな!?」


 

 リクの怒声が浴場に響き渡った。


 

 「とっとと戻れ!」



 リクはビシッ っと、脱衣室の出口を指差す。

 ……まさかの禁欲の番人っぷりに、私たちは押し黙るしかなかった。



 「セブン、見張っとけ。次来たら風呂ごと破壊して逃げるからな」


 《了解。警戒レベルを“変態侵入者A”に設定。トリガー作動で即追放プロトコル起動》


 


 作戦、失敗——。


 でも、いい。

 私には、まだ明日がある。


 覚悟しなさいよ。

 リベンジの火は、まだ消えてない——!


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