第4幕『迎賓館の夜は戦場だ』
私たちが買い物を終えて戻ってきたのは、王都でも指折りの迎賓館だった。
石造りの荘厳な外観に、白と金を基調とした内装。
無駄に高い天井。無駄にふかふかの絨毯。そして無駄に開ける自動扉。
──完璧だ。
リクが口を開く。
「てっきり、今朝みたいな軟禁部屋に戻されると思ってたんだけど……」
「はあ?なんで“星詠みの巫女”さまが、あんな薄暗い部屋に泊まらないといけないのよ」
フン、と私は鼻を鳴らす。
……まあ、正直ちょっと、いやかなり無理はした。
この迎賓館、普段は外交官や上級貴族用。
星の巫女としての私の立場をフルに使って、なんとか押さえた。
だって──
明後日までの貴重な時間、1秒たりとも無駄にできないんだから!
「部屋は各自ひとつずつ。しっかりくつろいでね」
そう言いながら、私はそれぞれに鍵を渡した。
──旅の間、三人でひと部屋に寝泊まりしてたらしいじゃない。
その事実を聞いた瞬間、ピキッときた。こめかみあたりに。
男女共に無自覚なハーレム体質。こっちは死活問題よ。
本当は、リクと二人部屋という線も一瞬考えた。
でも、アリスとエナの視線を考えたら、それはあまりにも分が悪い。
私は策を選んだ。
いきなりボス戦に正面から挑むほど、私はバカじゃない。
まず必要なのは、敵情視察と分断。
すべては勝利のため。
でもこれで、敵は分断。
セキュリティもプライバシーも完璧。
最高の戦場が、整った。
あとは、情報を抜く。
まずは、アリス。
あの子、無表情で無感情っぽいくせに、リクに対してだけ“間”が妙に多いのよね。
それから、エナ。
無邪気な顔して、「はい!奥さんです!」とか言いやがるから質が悪い。
あれは計算じゃない、地が悪い。無垢の皮を被ったダークマター。
でも、逆に言えば──
この館で過ごす今日と明日、私は“保護者”の顔をしながら、
あらゆるチャンスを狙える。
リク。覚悟なさい。あんたの心、丸裸にしてやるんだから。
私は自室の扉を閉め、
机に置かれたホットミルクを一口飲んだ。
さあ、ここからが勝負よ。
そして、私はみんなを待たせている応接室に向かった。




