表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部11話『俺たちの異世界デート』
55/80

第2幕『この街の服は、なんでこう……』


 ──王都・中央通り。



 「……なんで俺、今こんなことしてんだ?」



 広すぎる街路の片隅で、俺は服屋の紙袋を抱えていた。

 街の人混みは、午前中よりさらに増えている。

 祭でもないのに、やたら人が多いのは──単純に、ここが“王都”だからだ。



 「うだうだ言ってないで、ちゃんと持ちなさい。ほら、そっちのも追加」


 ルルが容赦なく袋を積み増してくる。



 「いや、買いすぎじゃね!? そんなに要る!?」


 「要るに決まってるでしょ!

 “魔王領から戻ってきた旅人”が、

 血と泥の臭いまき散らしてたら怪しまれるわよ。王都ってのは、そういう場所なの」


 「でもなぁ……」



 俺が呟く横で、アリスがスッと黒い上着を掲げた。


 

 「こちら、防刃・耐火・水濡れ対応です。

 裏地には銀糸の織り込みもあり、多少の魔力干渉にも耐性があります。……これにします」


 「おい。選び方が特殊部隊なんよ」



 一方エナは、どこから見つけてきたのか──


 

 「ねぇねぇ、リクさん!これとかどうですか!?

 こう、胸元がガバッと開いてて!風通しよくて!すぐ脱げて!えっちなのに実用的!!」


 「不採用!!!!!」 



 ルルの鉄拳が一撃でエナの頭に直撃した。



 「ったた……なんですかぁ、エロカワイイは正義ですよぉ……」


 「おまえに“旦那様”とか呼ばれてるせいで、店員の目が完全に引いてたぞ」


 「“若妻3人に囲まれてる、羨まけしからん謎の少年”って目で見られてたわね……。恥ずかしすぎてむしろ尊い……」



 ──なんだこの買い物パーティ。



 「ま、まぁ……選んでくれた服はありがたく着るけどさ。

 ……にしても、さっきルルが俺のネクタイ直してくれた時──」


 「え? なに?」


 「いや、なんか……慣れてたなって」



 「……そりゃ、こっちの世界でも“身だしなみ”ってのは重要だからね」



 ルルはツンとそっぽを向きながら、なぜか少し耳が赤い。


 ──そして。


 服屋を出たあとも、俺たちの買い物行脚は続いた。



 「わぁ! 見て見て、あれすごく甘そうな匂いしません!?」


 「おやつタイムも兼ねて、少し休憩にしましょ。……あそこの店、パフェが名物みたいよ」


 《糖分補給は、戦闘時の集中力維持にも有効》


 「だからセブンはそういう言い訳チョイスやめろっての……」



 俺の制止も虚しく、3人はスイーツ専門店へ雪崩れ込んでいった。



 「はい! 私はこの、季節限定の“星空クリームソーダ”!」


 「私は……ストロベリーとチョコの二層構造パフェで」


 《推奨:ハチミツ×ベリー×ラムのトリプル構成パフェ》


 「オレに注文すんな!誰が食うんだよそれ!!」



 その後も、店内では甘い匂いと笑い声があふれていた。


 気づけば、ルルがパフェのスプーンをくるくる回しながら、俺の方に視線を向けてきた。



 「……ねえ、ちょっとだけでいいなら、味見させてあげよっか?」


 「遠回しに“あんたのはないから”って言ってるように聞こえるんだが」



 でもなんだかんだで、ひとくちだけもらえた。

 ……うまかった。ちょっと悔しい。


 


 さらにその後、なぜかコスメ屋にまで連行された。



 「こっちのアイシャドウ、少しラメ強めだけど、王都の街灯だと映えるかも」


 「おねーちゃん、試しにこれ塗ってみて!キラッキラになるから!」


 「いやいやいや!! お前らなんでそんなテンション上がってんの!? 

 そもそも、オレなんで貴重な休日にこんなことしてんだよ!?」



 ルルが、クスクスと肩を揺らして笑った。



 「部屋でダラダラしてるより、有意義でしょ?

 アンタ、じっとしてるの苦手なんだから」


 「いやいや、完全に付き合わされてるだけだからな?

 今日の予定に俺の意向、ゼロだからな?」


 「ハーレム状態で王都散策なんて、贅沢じゃない。

 アンタどうせ、女の子と遊んだことなんてないでしょ?」


 「なっ……! そ、そんなことな……ない、とは言えないけどっ」


 「ふふん、でしょ?

 ありがたく思いなさい、“異世界ハーレム王子様”」


 「やめろ! なんか恥ずかしくなってきた!!」



 エナがニコニコしながら便乗する。



 「“ハーレム王子”って、なんか良い響きですね〜」


 アリスは真顔で、


 「記録タグに追加しました。リクのコードネーム:ハーレム王子」


 「やめろォォォ!!!」



 俺が顔を真っ赤にして抗議している横で、

 ルルは“まったくしょうがないわね”という顔で、口元だけで笑っていた。


 王都の石畳を歩く足音。

 紙袋はずっしりと重くなったけど、どこかそれも悪くなかった。



 エナは新しく買ったリボンを頭に乗せてはしゃぎ、

 アリスは「機能性に劣る」とか言いながらも、香水瓶をひとつ大事そうにポーチへしまっていた。


 セブンは、いつの間にか「王都観光データベース」を拡張していたらしい。



 そしてルルは、少しだけ歩幅を緩めて、俺の隣に並ぶ。


 ……にぎやかで、なんでもない時間。


 魔王も、戦争も、転移の真実も、今は少しだけ遠くにある気がした。



 異世界に来て、初めて感じた。

 ——“日常”って、こんな匂いだったんだな。


 こんな一日も悪くない。……たまには。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ