第1幕『王都デート(?)編スタート!』
なんだかんだで、ルルの段取り力はハンパない。
おかげで二日後には王都上層部への接触が決まった。
魔王と出会ってから1日とちょっとで、最前線から王国の中心への道が。
我ながら、なんという進行スピードだ。
「で、その二日間……おとなしく待機してろって話?」
「そうよ。あんただって、たまには休みも必要でしょう」
ルルはあきれたように腕を組む。
「こっちの世界に来て、1ヶ月も経ってないのに。
前線で派手にブチかまして、街中で魔物と戦って、魔王領に突入して、魔王と遭遇して——
……アンタ、自軍のキングを初手で敵のキングの真横に置いて“チェック”ってドヤ顔してるようなもんよ?」
「……いや、まあ。言われてみれば、ハードスケジュールだったな」
首の後ろをかきながら、苦笑する。
たしかに、こっちに来てからずっと走りっぱなしだった気がする。
「まったく……」
ルルがため息をつきながら視線を逸らす。
少し歩いて、並んだまましばらく無言が続いたあと、
ルルがぽつりと呟く。
「……アンタって、よく迷わず動けるわね」
「ん? 怖くないわけじゃないよ。ただ、止まるのも苦手ってだけ」
言って、自分でも少し苦笑いする。
たぶんそれって、褒められるようなことじゃない。
「……そんなところばっかり、不器用なのね」
「褒めてる? それ」
「皮肉よ。でも、少しは見直してる」
ルルの横顔は相変わらず涼しげで、感情を読み取るのは難しかったけど——
それでもなんとなく、言葉の端に、あたたかさみたいなものを感じた。
そのまま歩きながら、ルルが続ける。
「それに、なにもずっと部屋のなかでじっとしてろってわけじゃないわ。
王都の中を歩くくらいなら、許可さえ取れれば問題ないの」
「許可?」
ルルは笑いながら言う。
「アンタたち、王都に“住民登録”すらしてないから、外出するなら許可が必要だけど……。
私が同行すれば、ある程度自由はきくわ」
エナが手を挙げて「じゃあ観光したいです!」と元気よく声をあげ、
アリスは無表情のまま「任務に支障がなければ、散策は可能です」ときっぱり。
セブンも《任意行動モードに移行。散策ルートの最適化を開始》と、すでに地図を開き始めていた。
……というかこのメンバーで観光って、想像するとだいぶカオスだな。
エナがぴょこんと手を挙げて、弾けるように言った。
「観光って、どこ行くのがいいかな?塔とか?市場とか?」
目をきらきらさせてるあたり、完全にピクニック気分だ。
「戦力補給優先。市場調査、食料価格の分析を推奨します」
と、即答するアリス。相変わらずブレがない。
「えー、アリスおねーちゃん、それじゃデートじゃないよぉ!」
エナが口をとがらせる。
「これは任務であり、個人的感情は——」
《検索中:デートに適したスポット一覧》
「お前まで乗るな、セブン!」
……この面子で観光なんて、どう考えてもまともに済む気がしない。
オレにとって本当に"休暇"になるだろうかと、一抹の不安が走る。
「……つまり」
案内がひと段落したところで、ルルが肩をすくめる。
「明後日の朝まで、私がアンタたちの“保護者兼案内人”ってことになるのよ」
「え、なんかずっと一緒に過ごす流れ?」
「他に誰がやるのよ」
あきれたように、でもどこか楽しげにルルが笑った。
「アンタを放っておいたら、また魔王領にでも突っ込むんでしょ?」
「……否定は、しない」
ルルの口元が、少しだけやわらかくなる。
「じゃあ決まりね。“三日間だけの王都生活”。私が責任持って面倒見てあげるわ」
ルルが胸を張って宣言する。
「“星の巫女さま”が直々に街を案内なんて、王族の来賓でもなかなか無いんだから。
感謝してよね?」
ちょっとだけ得意げなその口調に、思わず吹き出しそうになる。
「ありがたき幸せでございます、お姫様」
「皮肉は受け付けません」
きっぱり言い返されて、俺は肩をすくめるしかなかった。
「それに、私ね。小さい頃だけど、この王都で暮らしてたことがあるの。
だからまあ、右も左もわからないアンタたちだけでブラブラするよりは、有意義な時間になると思うわよ」
「……なるほど。つまり、頼りにしていいってことだな?」
ルルがぴしゃりと指を立てる。
「だいたい、世間知らずのアンタたちを放っておいたら、王都で迷子になるのがオチよ。
この世界の常識、まだ何も分かってないんでしょ?」
「路銀で初対面の相手に何百万円も渡すような世間知らずに言われたくねーよ」
「“円”って通貨単位は知らないけど……」
ルルがふっと視線をそらしながら言い返す。
「でも、こっちの世界で生きていくには、あのくらいの出費は“必要経費”よ?」
「いやいやいや、必要経費の感覚が貴族のそれなんだよ!!
オマエ、ポケットから金貨出して“少ないけど”って言いながらひょいと渡したよな!?」
「こっちの金銭感覚も分かんないまま、パン一個買おうとして金貨差し出して——
店主にめちゃくちゃ困った顔されたんだからな!」
「……なんでパン一個?」
「腹減ってたんだよ!!」
「じゃあ仕方ないわね」
「なにその判断基準!?」
ツンとして歩き出す背中が、ほんの少しだけ軽やかに見えたのは……気のせい、かもしれない。
——こうして俺たちの、
ちょっと遅れた“王都デート(?)編”が始まった。




