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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部10話『信頼のありか』
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第4幕『星の巫女の段取り』


 「なんで、星の巫女さまがこんなことしなきゃいけないのよ……」



 カツンカツンと、儀式用のやたら重たい靴の音だけがひびく。


 格式ある政庁の石畳も、今の私にはただの足音のうるさい廊下でしかなかった。


 グチグチ言いながら、木製の扉の前で足を止める。



 一応、来客用の宿泊室。

 リクが軟禁されてる部屋だ。



 深く息を吸って、ノックもせずに扉を開けた。



 「で? アポは取れたの?」


 中にいたリクが、ソファにだらしなく沈み込んだまま、開口一番に尋ねてくる。



 半開きの目と、へにゃりとした姿勢。どう見ても“これから司令官に会う人間”の顔じゃない。


 まったく、もう少し緊張感というものを持てないのかしら。



 「……まず、お礼は?」



 ぴしゃりと言うと、リクが片目だけ開けてこちらを見る。



 「え?」


 「面談の段取りよ。あんたのために、わざわざ手を回してあげたんだけど?」


 「ああ……うん、ありがとう」


 「……よろしい」



 ふん、と軽く鼻を鳴らしてみせた。



 「さて、明後日。王国軍最高司令官……つまり、“この国の軍隊のトップ”との直接面談よ」


 私は資料を机に広げながら、軽く頷いた。



 「ニ日後か……」


 リクは顎に手をやって、ぼそりと呟く。


 「普通、“勇者”ってのはさ。王様の座ってる所まで、顔パスで通されるもんだけどな」


 「……はあ? なにそれ、どこのおとぎ話?」



 私はジト目でリクを睨む。


 「それとも、こないだ言ってた異世界テンプレってやつ?

 “剣と魔法のファンタジー”ならそうかもね。……残念、ここは現実よ?」


 「ですよねー」



 リクは肩をすくめて、苦笑いを浮かべる。

 ……なんかその顔、むかつく。



 「ま、それはそれとして──」



 私は資料に目を落としながら告げる。



 「王国は、改めて“領土奪還作戦”を立案中。

 次の作戦では、アンタを“正式に戦略の中核”として組み込むって方針みたいよ」


 「……お、いちおうここまでは“狙い通り”だな」


 「……は?」


 思わず、顔を上げて聞き返した。



 「いや、今回の突入作戦は、最初から“魔王軍への情報接触”と“自分の実力アピール”が目的だったからさ。

 “認知される”ことが大事だったわけで」



 リクはそう言って、気の抜けた笑みを浮かべる。


 無鉄砲に飛び出すだけの奴、って思ってたけど、

 ……考えてないようで、ちゃんと狙ってんの、ちょっと意外。

 でも、妙に腑に落ちるかもしれない。

 


 「てっきり、アンタのことバカだと思ってたけど。ちゃんと考えてたのね」


 「今、“バカ”って言ったよな?」


 「言ってないわよ。思ってただけ」


 「おい」


 軽口の応酬に、部屋の空気がふっと緩んだ。

 けれど——


 「……ほんとに、大丈夫なんでしょうね」



 資料から目を離し、私は静かに言葉を継いだ。



 「無茶ばっかりして、無理に前へ進もうとして……そんなふうに突っ走って……どこかで、取り返しがつかなくなるんじゃないかって……」



 リクが、少し目を丸くする。

 でもすぐに、いつもの調子で笑った。



 「……なんだよ。心配してくれてんの?」


 「べ、べつに、そういうわけじゃないけど……っ」


 《同意:ユーザーは、情動的判断により、高リスク行動を頻繁に選択》


 《補足:当ユニットによる冷静な戦術補佐および外部ナビゲートが継続して機能しているため、現状は“致命的破綻の寸前”で生存中》



 「……いや、もうちょっとオブラートに包め!?

 なんか俺、遠足に母ちゃん同伴の小学生みたいになってんぞ!」



 私には、リクを見守る責任がある。

 ……そして、たぶんそれ以上に本当は、止めたいと思ってる。

 

 こんな無茶な世界で、無謀なことをしようとしてる子を。

 「やめておきなさい」って、手を取って引き戻してやりたい。



  ……まったく。


 どうして私が、こんな子のために苦労しなきゃいけないのよ……。

 私がちゃんと見てなきゃ、本当に死にかねないから……仕方なくよ。ええ、仕方なく。



 立ち上がって、書類をまとめながら、私は声をかけた。



 「さすがのアンタも、それまではのんびり過ごしなさい。変なことはしないでよ?」


 「正直ありがたい。ちょっと寝たい」



 リクがぐでんと寝そべり直すのを、ちらりと横目で見る。


 ……その無防備さが、余計に腹立つのよ。

 そう思ったのに、口角が勝手に上がりかけて——



 私は慌てて、それを引き締めた。

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