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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部10話『信頼のありか』
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第3幕『信頼ってやつ』

 

 「で、どうするの?」


 ルルが椅子に浅く腰かけ、足を組みながら尋ねてくる。


 「今度こそ、戻ってくる気になった? ウチで静かに待ってるって決めた?」



 「……いや。まだ進むよ」



 即答する俺に、ルルはため息混じりの笑みを向けた。


 「やっぱ、アンタはそう言うと思ってた。……で? 具体的には?

 魔王にはコテンパンに負けたんでしょ?」


 「まだ、戦ってねーよ」



 「戦わずして負けたんだから、余計たち悪いわよ。

 で、もうやれることがないなら、諦めるしかないじゃない」



 「……でも、“やれることがない奴”にも……ひとつだけ、できることがある」


 「……なにそれ、トンチ?」


 「ちげーよ。“やれることを探す”ことだよ」


 「……やっぱトンチじゃない」


 「う、まぁ……確かに、言い方はアレだったかも……」



 頭をかいて言い訳しつつ、俺は椅子に深くもたれた。



 「でもさ、そもそも今回、魔王を倒しに行こうと思ってたわけじゃねーよ。

 いきなりラスボス部屋行ってエンディング見ようっても無理なのはわかってた。

 言ってしまえば、威力偵察が目的だった」


 「威力偵察……ね」



 「ギルドの情報網でも、魔王に関する情報はほとんど無かった。

 けど今回、俺たちは魔王に会った。しかも、向こうは“見つけるのに苦労した”なんて言ってきた。

 つまり──王国側の偵察は簡単に見つかって、そもそも近づけすらしてなかったってことだろ?」



 ルルは軽く目を細め、頷いた。



 「その通りよ。こっちの斥候は全滅してる。あんたたちが、初めて“接触”に成功したグループになるわ」


 「だろ? だったらこれは、大戦果だ」


 「負け惜しみにしちゃ、スジが通ってるわね。……でも、問題はその“報告”を誰が信じるかよ。

 異世界から来た男が、“魔王は汚い格好の少年でした”って言って、真面目に取り合う人が何人いる?」



 現状、それが一番の問題だ。


 だけど——



 「……親父が言ってたんだ。

 相手を説得するには『理屈』『やる気』『信頼』の三つが無きゃダメだって。

 で、オレには——『理屈』と『やる気』はある」


 「ロゴス、パトス、エトスの話ね。

 で、アンタには“エトス”、つまり“信頼”が足りないって事じゃないの」


 「いや。あるよ」


 「は? どこに?」



 俺は、スッと手を伸ばして——ルルを指差した。



 「…………………は?」



 「……あたし?」



 ルルは目を丸くして固まる。




 その静寂を破るように、後ろからひょっこり声がした。


 「ねぇ、おねーちゃん。いまの話、理解できた?」


 振り返ると、エナがキョトンとして俺たちを見ている。



「もちろんです」


 アリスはスン……と顔色ひとつ変えずに答えた。


 そして、エナがこっそり俺の袖を引っぱり、ボソッと。


 「……たぶん、あれウソだよ」


 

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