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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部10話『信頼のありか』
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第1幕『詩と鉄扉と、その本音』


 書類の山と睨み合っていた私の前に、報告が滑り込んできたのは、お昼前のことだった。


 その言葉に、私は羽ペンを置いた。


 世界の観測曲線が乱れても、魔力濃度が逆流しても、ここ数週間ではじめて――

 “本当にどうでもよくなる情報”だった。


 


 「王都に……リクが?」


 


 たった一言だけ、そう返した私に、魔導通信の伝令はうなずいた。


 私は席を蹴るようにして立ち上がり、外套を引っつかむ。


 その瞬間、背後から——


 「おまえがここを離れたら! 世界が滅ぶって何度も!!!」


 我が養父。

 名門ルーンヴァイス家当主にして、国家占星術局の長。白髭とモノクルの鉄面皮。


 私は即座に、ドアノブに手をかけたまま振り返る。



 「世界の命運の方は、じーちゃんに任せた!」


 それだけ叫んで、私は外へ飛び出した。


 「今はこっちが、それどころじゃないの!!!」




————


 


 馬車を飛ばして、翌日の早朝。王都に到着した私は、即座に“表の顔”を被った。


 青と金の正装。深緑の髪を整え、声の抑揚と語彙を“巫女”に切り替える。


 

 「……風は凪ぎ、星は巡りの途に在り。

 その導きのまま、我が名を告げましょう。ルーンヴァイスの巫女、ここに」



 門衛たちの顔がすっと緊張を解いた。


 ……よし、演技成功。


 


 そして、案内されたのは王宮の監視区域。

 理由はもちろん——



 「え、異空間から転移? 説明不能な空間断裂? うん、絶対コイツだわ」



 私は薄く微笑みを浮かべたまま、扉をノックした。


 


 木製の扉が開く。


 軟禁されていた部屋の中には、椅子に腰掛けるリク。

 横にはアリスとエナ。セブンは……鞘の中だ。



 私は、巫女らしくお辞儀する。



 「無事で何よりです。“星の導き”が貴方をここへと運んだこと、誠に喜ばしい奇跡でございます」


 リクは一瞬キョトンとした顔をして――

 すぐに「ああ……ね」とでも言いたげな、げんなり顔になった。


 

 扉の向こうで兵士が退室していく。

 鉄の扉が閉まる音が響いた、次の瞬間。


 

 「で?」


 

 私は背筋を伸ばしながら、巫女の仮面を、バサッと投げ捨てた。


 言葉遣いも、声のトーンも、いつもの“素”に戻す。



 「……で、説明して?  何やったの、アンタら」


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