第6幕『王都、ただいまじゃねぇ』
——ガシャァン!
目の前で、衛兵の槍が派手に落ちた。
「な、なんだお前らはッ!? どこから現れた!?」
「転移!? どこの所属だ!? 返答しろ!」
城門の前、十数人の衛兵たちが、全員こちらに槍を向けている。
そのうち二人は既に通信装置らしい水晶に叫び始めていた。
ざわつく通行人。騎士の視線。次第に広がる警戒の輪。
「……オレたち、今すげぇ誤解されてるよな」
「リクの感想は、正しい状況認識です」
アリスが即答した。
俺たちは、魔王に無理やり転送された場所――王都・南門のど真ん中に、光の柱と共に“突然出現した”わけで。
……まあ、そりゃ警戒されるわな。
「名を名乗れッ! 身分を証明しろ!」
騎士隊の一人が迫ってくる。
俺はとっさに、腰の鞘を押さえながら叫んだ。
「えっと! 俺は——その、リク・ミナセ! 冒険者ギルド登録済み! 同行者に、えーと……」
慌てて隣を見る。
エナは敬礼みたいなポーズで笑顔を浮かべ、
「奥さんです!」
「やめろォォ!!!」
「わたしは兵装制御補助端末、LC-01-A-03です」
アリスが冷静に自己紹介しすぎて逆に怖い。
騎士たちの眉がピクリと動いた。
「LC……? コード名?いや部隊名言どこの部隊だ?」
——まずい。言えば言うほど余計にややこしくなるパターンだ。
俺は慌てて、懐から一枚の紙を取り出した。
「これ! これ紹介状! 神殿の星の巫女から!」
「……これは……ルーンヴァイス家……!? とりあえず……通せ…」
ようやく一人の将校らしき男が声を上げ、周囲の兵が道を開ける。
城門前の殺気が、少しだけ和らいだ。
「……ふぅ。マジで死ぬかと思った」
俺は、汗だくの額をぬぐいながら、小声でセブンに尋ねる。
「なあ、これって……完全にアイツ(魔王)の“手配ミス”じゃね?」
《計画的演出の可能性。演出目的:警戒度の計測、および都市内部への挿入成功率テスト》
「うわ、めっちゃ嫌な使われ方してる……」
俺はため息をついて、見上げる。
王都の空は青く、どこまでも遠かった。
その空の下に、“あの少年”が今どこかに居るのかもしれないと思うと——背中がひやりとする。
それでも。
「……ま、帰ってきた以上、やるしかねぇか」
“魔王の次の一手”を知るために。
“こっち側の準備”を整えるために。
俺たちは、再び、動き出す。




